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ねくら  作者: 名無しの
其の① 狂実少年と現実少女
12/43

イケメンに感情移入が出来ない……




 携帯か……存在自体忘れていた。

 たしか入学時に無理矢理持たされた奴が腐ってなければポケットの中にあるはずだけど。

 ズボンのポケットの中を弄ってみると、何やらひんやりとしたものが指先に触れた。

 掴み、ポケットから物体を引き抜こうとして、しばし、思考にふける。

 当時最新機種だった薄型軽量の携帯も今となっては店で売られているか売られていないのか分からない値段で売られている。つまり値下げ。いわば旧世代の産物と言った所か、ちょっと違うか? いや、そんな事はどうでもいい。

 それよりも、なんで、僕は、こんな慣れ慣れしいやつとアドレスを交換しようとしているのだ?

 そもそも、僕は人間が嫌いなのにどうしてこんなにも人間と会話をしているのだろうか?

 というか、僕も一応は人間なんですけれども。

 いや、この際そんな事はどうでもいい。いや良くないかいやしかし――――

 そんな事で僕が思考を掻き乱している間に、少女が、勝手に僕のポケットに手を突っ込んできた。

 あぁ、なんてことだ! 女の子がはしたない! マァイガ! と一応、思ってみるか。

「おーケイの携帯薄いね。それに新品みたいに傷一つ無いし。ケイって物を大切にする人なんだね。偉い偉い。やっぱりケイはそうでなくちゃ。それじゃ、はい」

 少女がボクに携帯を返してきた?

  なんか、いい感じに勘違いされて偉い人にされた。僕にしては大出世だ、で?

「なんで、携帯突き出してんの?」

「え? だってメールアドレスって赤外線通信で交換するもんでしょ、普通?」

「………何それ?」

「またまた、しらばっくれちゃって。女の子とメアド交換するのが恥ずかしい気持ちは分かるけど、誰も見てないからイイじゃん、ね?」

 少女はすり師の様に見事な手際で僕の手から携帯をさらりと抜き取り、何やらボタンをピポパと押し、ほどなくして返却された。

 返却された携帯の液晶画面には『送信しますか?』という表示が。

「ほれ、早く送信しなされ」

 少女の携帯と僕の携帯は無理矢理お見合いをさせられ、勝手にボタンを押される。

「じゃあ、今度はわたしのメアドをっと、ほい、送ったよ」

 数秒後、僕の携帯が家の物置に放置されているこのままでは永遠に眠り続けるであろう古いマッサージ機の様にブルブルと震えだした。

 画面を開くと『メールを受信しました』の表示が。

 受信ボックスを開くと、そこには一通の空メールが届いていた。

 件名には『ヨロシク!』と。

 ちなみに、僕の携帯のアドレス帳には今の時点では少女を合わせて二人しか登録されていない。今後、増える予定は、今のところ……というか今後も、多分一生、皆無だ。

 それにしても、携帯って赤外線でメールアドレスを交換できるのか。

 へー、今の今までメール交換なんてしたこと無かったから全然シラナカッタヨ。

 テクノロジーの進化、恐るべしですな。

 え、どんだけ脳みそ沈殿してんだって? さぁ、あんまり使ってないから。

「なんか楽しい事あったらメールしてね。それと、こっちからもばんばんメールするから。この複雑にデジタル化された社会で、情報交換は重要だからさ。勉強の事とか遊びの事、なんでもいいからさ、ケイはね、私に、気楽にメールしてくれていいんだよ?」

 何だその理屈?

 ……気楽にメール、か。

 冗談だとしても、その言葉は僕には似合わなすぎる。

 幼女、もとい少女よ、あなたは僕が女の子に気楽にメールを打てる、そんな現代の光源氏の様な無責任な男に見えるんですか? だとしたらすぐさま病院に直行する事をお勧めしますあしからず。

「…………」

 何て言えば良いのか分からず口を開けたまま、またもや惚けていると。

「それじゃあ、お腹も空いてきたし、なんか食べにでも行きますかー」

 と、少女が暢気にのたまった。

 まだ、他の生徒は授業中ですが。

 そんなのあたしゃ関係ないわーってことですか。そうですか。ま、それもいいか。ってちょっと待てぃッッ! 落ち着くんだボク! なんだこの展開、なんでボクこんな流されているんだ? クールになれ! そうビズになれ! こんな展開深夜アニメでも早々ないぞ! これは罠だ! そうに違いないボクを陥れる罠に違いない奴の罠だ! 騙されるなボク! ていうか奴って誰だ? あーもう誰でもいいやそれより疲れたわ眠いわイケメンに感情移入なんて出来ないわもうどうでもいいやってどうでもよくないッッ!

 「……なんで僕が……あんたが、1人で……行けばいい」

 少女の案は当法廷で却下されましたまたのご来店を御持ちしておりませんさようなら。

 「えー、なんで? 一緒に行こうよー、私、まだ転校初日でさ、何処のお店が美味しいとかわからないの。君は長い事この学校に通ってるんでしょ? だったら、ここら辺の地理に詳しいはずでしょ? ケチな事言わないで迷える女子に道案内してよ~。なんかおごってあげるからさー」

 しつこい奴だ。

 大体なんで外で食べる事になっているんだ。

 校内には不味いと旨いの中間に位置すると評判の食堂もあるし、パンしか売ってない売店だってあるのに。僕はどちらも行った事無いけど。というか適当に言ってるけど。

 それにしても、この少女は一体なんなんだ? 

 こんな地味で人付き合い皆無で気持ち悪くて貧乏臭くて本当にケチでカスでチリで南米辺りでカツ上げされそうな僕になんでそんな馴れ馴れしく接してくるんだ? 一体何が目的だ? カツアゲか? それとも家の財産が目当てか? それとも、僕の体? 

 冗談はさておき。

「……僕なんかじゃなくて、自分のクラスの、もっとまともそうな奴をさ、誘ったほうがいいよ」

「えー、だって、私のクラスの人、女子も男子もみんなどうでもいい様な事ばっか聞いてくるんだもん。さすがに何回も何回もな~~ん~~かいも同じ様な事聞かれると飽きちゃうの。何処から来たの? 何でこの学校に来たの? 何処に住んでるの? とか、なんで私のプロフィールをいちいち繰り返して言わなきゃいけないの? 私はインコじゃないのホモサピエンスなの! 直立二足歩行してるの!」

 なんか、この少女も僕と同じ様な匂いがするよー。

 でも、僕とは対局に位置する様な気もするなー。

 というか、転校生が転校初日に他の生徒に質問攻めに合うのは、それはもはや全国の学生の伝統と言っても過言ではないくらい常識的な事だろ。

 それをどうでもいいって、まぁどうでもいいと言えばどうでもいい事だけどさ。僕には関係ないし。

「じゃ、行こっか」

「なんで、僕が」

「えー? 行こうよー」

「……1人で行けばいい」

「こんなか弱で可愛いキュートでセクシーな女の子に夜道を一人で歩かせる気ですか? それは正気の沙汰で言ってるの?」

「しつこいな、今昼だし、あんた絶対高校生に見えないし。ていうか、あんたさ、さっきから慣れなれしいんだよ」

「人とのふれあいって結構大切だと思うよ?」

「もういい……もういいから…もう、僕に、干渉しないでくれ」

「だが、そこがいい!」

「おまえ、頭湧いてるのか?」

「ちょ、失礼だよ! 謝って! 私に土下座して!」

「は? なにを、って、おい、やめろ、なんで縄、って、それはホントにヤバいから――」

 この後、僕と少女の行く行かない論争はおよそ五分間続いた。

 そして、果てにこのシーソーゲームは不毛と、やっと気がついた僕の手によって終止符が打たれた。

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