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ソリオンのハガネ  作者: 伊那 遊
第二章・魔物狩り
48/75

 46 自主勉強と、事件の始まり


雷狐(らいこ)

 大陸西方、『竜界』付近の山岳・森林地帯に太古から住まうという魔物。目撃例は無く、いくつかの文献や古い亜人種の口伝にて存在が伝わっているのみである。だが大陸西方は古くからの亜人達が多く暮らす秘境の地であり、我々が知れる事は非常に少ない。現在もこの魔物が生息しているのか、実態は不明である。

 文献や口伝によれば、〈雷狐〉とは雷光の如き見事な金色の毛を持つ、大きく神々しい狐の姿をしているという。記述をそのまま受け取るなら、この狐は魔物にしては珍しく、相当に大人しい気性であったようだ。人と簡単な意思の疎通が成立するほど頭も良く、縄張りを荒らさない事で共存していた亜人の集落も存在したという。

 名前の通りこの魔物は雷を自在に操ったとされる。ある言い伝えでは『稲光を空から落とし、山を一つ燃やした』という眉を顰めるような話もあるのだが、誇張があるにせよ、世にも珍しい《電撃》系の魔術を操る魔物だったと考えるのが妥当である。多種多様な魔物の世界は奥が深い。



 休み明けの騎士学校。その敷地内の図書塔にて。

「……どー考えてもこれ、あいつと無関係じゃねえだろ」

 鋼はついつい小声でぼそりと独り言を漏らしてしまった。

 パルミナ騎士教育学園では、様々な書物を収める図書館にあたる施設、『図書塔』が生徒に開放されている。こちらの世界でも日本と繋がる以前から書籍の文化は存在し、多少値の張る贅沢品という扱いだが出回っていた。ここの本はほとんどがこちらの世界で書かれたもので、ソリオンでの一般的な知識を得るのに十分な蔵書数を備えている。

 先月は入学したばかりの日本人生徒に盛況でいつも混雑していたらしいのだが、やはり一月も経てば熱も冷めるのか、現在利用している生徒はそこまでいない。二学年分の生徒合わせてせいぜい十数人といったところか。

 昨日あの少女が魔物憑きだと判明し鋼は思った。案外他にも同じような存在が、素性を隠してその辺に普通にいるのかもしれないと。そもそも魔物憑きがどれほどの数がいるのかも知らないし、鋼はニールから聞いた話でしかその存在を知らない。我が身の事でもあるのにもう少し勉強するべきかと思い立ち、本日は図書塔に一人でやって来たのだった。

 ただ、調べ方が悪いのかも知れないが魔物憑きについて記載のある本は驚くほどに少なかった。なので魔物関連なら何でもいいかと妥協し、古今東西の様々な魔物についての研究書という興味深い物を見つけたので席に持ってきてぱらぱらめくっていたのだが。

 その中で触れられている〈雷狐〉という存在が、どうもあの狐娘を想起させてやまない。

 ――ある魔物憑きと特徴が一致している、古来からの魔物が存在する。

 偶然と片付ける事も出来るが……。

 たまたまミオンが、実在する魔物と似た特徴で生まれた魔物憑きなのか。それとも何らかの必然があってそうなったのか。ここで本をめくっていても分かるはずのない疑問だが、ほんの少し気になった。『魔物化した人間』と言っても間違っていない鋼自身も、あるいは何らかの魔物と似ている魔物憑きであるかもしれないのだ。心当たりは特にないが。

 そうして鋼が、判明したところでたいした意味もない、益体も無い思考にふけっていると。

「調べ物は済んだのかな?」

 横合いから声をかけてきた人物がいた。

 生徒ではない。三十歳前後と思しき眼鏡をかけた男性だ。

 こうして改めて話すのは初めてだが、知らない顔ではなかった。『魔物対策』の授業を担当する教師だ。

「ええと、グリット教授?」

「ああ、教室で一度名乗っているが改めて。オルフ=グリットだ」

 つい疑問系で訊いてしまったのは、教授の呼び名でいいのか迷ったからだ。何かの折、この教師は他の学園関係者からそのように呼ばれていたのを鋼は聞いた事があった。

「勤勉だね。その熱意を授業中にも発揮してくれると嬉しいんだけども」

「まあ、その。時間があったのと、たまたま興味が出た事があって。教授も調べ物を?」

「いやいや。そりゃあ僕も、よくここで読書をしているけどね。この場所の管理を任されているんだ。だから受け持ちの授業の時間を除いて、僕はだいたいここにいる」

 つまりは司書のような役目を負っているらしかった。この図書塔では本の貸し出しは行っておらず、生徒は各自、勝手にこの場所で調べ物をするだけだ。司書の仕事は少なそうで、こうして生徒に話しかけてくるのも暇潰しなのだろう。

「……俺も名乗ったほうがいいんすかね、この場合」

「うん? 知ってるよ、カミヤコウ君だろう?」

 さも当たり前のように言われてしまった。(いぶか)る鋼を見てグリット教授は面白そうな顔をする。

「この前の授業の時に魔力強度を知っていたから印象深くはあるんだけど、それが無くても知っていたとも。君はこの学校で、かなり名が知れ渡っている生徒だという事を自覚したほうがいい」

「……それ、マジな話ですか? 冗談とかでなく」

「マジだとも。ここで日がな一日引きこもっている僕でさえ当然のように知っているという事実を、もっと重く受け止めるべきだね」

「……」

 からかわれているのだろうかと勘繰ってみる鋼だが、図書塔の主は「まあ、冗談だけど」などと言い足す事は無かった。

「最近じゃ上級生の方にも名前が広まっているそうだ。遅い忠告になるが、行動には気をつけたまえ」

「いや、どうしてそんな事になってるんすか……」

「心当たりがないのかい? 本当に? ならまあ、僕が知る範囲で教えてあげよう」

 グリットは指を立て、まるで授業中のように丁寧にレクチャーしてくれた。

 まず、六人しかいないソリオンを一度経験している迷い子である事。ただの一生徒であるよりは、その時点で人から覚えてもらいやすい立場にあった。

 次に、複数の魔術を既に扱える事がはっきりと注目を集めた要因だろう、とのこと。授業でタルを持ち上げて以来、クオンテラ教師からお墨付きをもらっている鋼・日向・凛の三人は、他の生徒より先の授業過程に進んでいる。だが《身体強化》以外でも大抵の基本的な魔術の心得はあるので、素人が初めて習うようには苦戦する事もなく。このままではあまりに他の生徒を引き離してしまうので、最近は教える側としてクオンテラの手伝いをさせられるようになったほどだ。

 鋼達や省吾を除いた、残る迷い子の日本人生徒二人は鋼達ほどに魔術に習熟していない。だから鋼達三人が、魔術の上手い日本人新入生トップ3であるといっても恐らく過言ではない。

 とはいえ。

「日本人って魔術に憧れてるのが多いし、そういうので目立ってるのは俺だって知ってますよ。教師や上級生にまで知れ渡っているってのが納得いかないんですが?」

 誰か積極的に喧伝しているんじゃないだろうな。

「まあ、はっきり言ってしまうけど、君はだいたいいつも見目麗しい取り巻きを傍に置いてるんだろう? それは廊下ですれ違うだけの教師や上級生でも目にする機会がある。嫉妬か羨望か知らないが、とにかく君達は話題に事欠かないようだから、色々な噂話が流れているようだ」

「取り巻きって……」

 いい印象の言葉ではない。が、外から見ればそう形容されても仕方が無いかもしれないと、鋼も理解していた。鋼は彼女達をまるで目上のように扱った事はないが、リーダー役の鋼を立ててくれるのか、その逆は時折ある。凛に至っては常に敬語だし、一見すれば主従のように見える状況だってあるのだろう。

「あとは、君達は亜竜山脈で生活していた事があるだとか。そんな噂も人の興味を引く要因だろうね。それに君、日本人で唯一護衛官を連れている身だ。その護衛官がまた、生徒の間でその日の内に噂になるほど美人だとかで。まだ他にもあったかな……、ああ、なにか暴漢に襲われるという一件もあったんだっけ? まあ、ともかく。君は間違いなく今、学園で最も目立っている生徒だ。僕が保証しよう」

「……すげー嬉しくない保証ですが。忠告は感謝しておきます。というか、引きこもってるとか言ってた割に妙に俺達の事詳しくないですか?」

「ははは」

「いや『ははは』じゃなくて」

 にこやかに笑うグリット。授業でしか会わない鋼は彼をもっと堅物な教師だと思っていたのだが、実態は全く違ったらしい。穏やかな男性に見えて中々人を食った性格をしている。

「タネをばらしてしまうと、僕は結構暇な時間が多いからね。授業内容や調べ物、卒業後の進路などでよく生徒から質問や相談を受けている。この図書塔は悩み相談室というわけだ。そのついでに雑談なんかしているとね、色々とまあ、学内の事に関しても詳しくなるものだよ」

「……道理で。って事は、うわあ……、上級生にも俺らの話広まってるってのはほんとにマジな話か」

 がっくりと鋼が項垂れていたのは数秒ほどだ。まあそれならそれで仕方ないか、と気持ちを切り替え顔を上げる。結局のところ周囲からの評価や外聞について、鋼はそれほど気にする性格ではない。

「あまり衝撃を受けているようには見えないが」

「図太さが取り柄なんで。まあいいかと」

「なんだ良かった。僕は上級生達から学内の事情通みたいに見られていてね。君達の事も何度か聞かれていて、色々答えたりしちゃってたんだけど。安心したよ」

「広めてたのお前か!」

 とんでもない教師だった。敬語も忘れて突っ込む鋼にグリットは顔をしかめる。

「こら。もっと丁寧に喋りなさい」

「えー……」

 今のはツッコミ待ちというか流してくれる空気ではないのか。微妙にやりづらい教師である。

「ああ、そうだ。ちょっと君に訊いてみたい事があったんだけど、いいかい?」

「……なんすか」

「亜竜山脈にいたっていうのは本当?」

 呆れた事に、興味津々な素振りをグリットは隠そうともしていない。

「本当だって答えたら、またそれを他の生徒に言うんでしょ?」

「それについてはすまない。僕が言わなくてもどうせ広がる噂だと思って、ついね。君が嫌がるならこれ以上言いふらしたりしない。約束しよう」


 その後もグリットはやたらと亜竜山脈の話題にこだわった。

 あんまりしつこいので理由を訊いてみると、どうもこの教授、魔物を専攻している研究者のようで、目撃談すら貴重なルデスの魔物について鋼から話を聞いてみたかったらしい。

 最近王女にもこういう話を聞かせたなと思い返しながら、鋼は諦めて期待に応えてあげる事にした。



 ◇


 する事のない空いた時間を利用して、凛から雪奈が魔術を教えてもらう。

 最初はそれだけだったのに、ついでに私も、なら僕も、と他の生徒が加わっていき、近頃この恒例イベントは参加者が結構な人数に膨れ上がっていた。

 少し離れた位置に腰を下ろしてそれを眺めている日向は、大変そうだなあ、と他人事のように思う。

 凛先生による魔術の授業は、二、三日に一度くらいの頻度で講堂前のスペースを借りて行われていた。ここは普段あまり人が来ない上に見通しもよく広いので、学校側に無断で使わせてもらっているのだ。

 参加人数は七人。

 雪奈に、省吾・伊織・マルケウスという定番メンバーに加え、省吾と伊織それぞれのルームメイト、ケンネル=レゾナと魚住真紀も今回から参加している。このままどんどん知り合いの生徒が芋づる式に増えていきそうなのを危惧して、凛は二人の参加の条件として、この集まりについて秘密にする事を課していた。

 あとの一人はマルの護衛官、ターレイという執事風の男の人で、こっちはただの付き添いだ。時折気まぐれに凛の助手や一生徒として参加する日向とクーを除くと、実際の生徒役は六人といったところ。

「ええと、その、あの。初めての方もいるので、先に訊いておきますね? 何か、上手くなりたい魔術があったりしますか?」

 一人で七人と向き合う状況に凛は明らかにテンパっていた。五人相手でも慣れるのに少しかかったっけ。人見知りを克服するいい機会なので、ちらちら凛から視線でSOSが来ているけど日向は気付かない振りをして、その辺の芝生でも眺めていた。

 この集まりで凛が教える内容は、彼女自身の体験と深い知識に根ざした結構ためになる指導なのだけど。そもそも自分は正統派魔術師からは遠く離れた、相当アンバランスに偏った魔術の使い方に特化しているわけで、日向にとっては役に立ちそうなものではない。それに凛なりに考えてくれた日向への有用そうなアドバイスは、ルデスにいた頃に散々授けてもらっている。

 だから暇になってきたらいつでも混ざれる程度にだけ凛達から距離を置いて、日向はこうしてぼんやり適当に過ごしているのだった。ここにいない鋼やクーのように、そもそもこの場に来ない日もある。今日は新メンバーもいるので凛だけでは緊張しちゃうかなと、様子見程度のつもりで日向は見守っていた。

「リンリン! 上手くなりたい魔術どころか、まだ私種類もよく分からないド素人だからさ! でもどの魔術も言われて練習してみても上手くいかないのよね。だからこう、全体的に上手くなりたいというか、コツを指導して欲しいというか?」

「ウチは強化と《照明》はなんとかかんとか出来るんやけどな。他のちょっと難しい魔術に挑戦してみてもどれもこれもアカンのや。《障壁》とか相性悪いんか壊滅的で」

 真紀とケンネルがそれぞれ答えて、凛は困ったように「ええと、それだと……」とかどもっている。いつもの定番メンバーほどじゃなくても、真紀やケンネルとだって凛は一ヶ月の付き合いだしそこそこ話しているはずなのに。彼女の緊張をほぐそうと、伊織や雪奈が何事か言っていた。この分だと日向はいなくても良かったかもしれない。

 緊張が多少は和らいだのか、幾分かはきはきした口調で凛は続けた。

「それでは、まず、得意な魔術を見つける事から始めましょう。苦手な魔術を無理に練習する必要はないと思いますし……」

 魔術についての彼女の持論は大抵、長所を伸ばせというものだ。

「でも《障壁》とか授業でその内やるらしいやん? もうちょっとマシな感じにしときたいんやけどな」

「苦手な魔術は上達したとしても、苦手なままです。学園の授業についてはこの際、無視しましょう。得意な魔術は上達も早いですし、先にそちらを伸ばして、魔力の繰り方や配分・運用、座標の設定、術式の組み立て方などをしっかり身に付けて、それから苦手な系統に取り掛かります。その方が早いですよ?」

「そ、そうなんやー……。お任せします、はい。……ムライちゃん頼もしすぎて、なんか自分がアホみたいに思えてきた……。ウチ、こっちの世界の人間やのに……」

 そういえばケンネルの使う一人称はなんだか女の子っぽいなあと密かに日向は思っているのだけれど、割とどうでもいい疑問なので口にした事はない。まあ彼の口調はトリル訛りとか言うやつであって、よく勘違いしそうになるけど関西弁じゃないのだ。やっぱり微妙に違いがあるのだろうかと、ケンネルの肩を叩く省吾を見ながら日向は首を傾げる。

「気にしたらあかんて。村井ちゃんは例外やし、鋼とか各務ちゃんとも比べるんが間違いやから。まあケンがアホなんはちょっと否定できやんけど、気にしたらあかんて」

「こらショーゴ! レディの前でウチを(けな)すな!」

 レディの前じゃなかったらいいんだろうか。

 このケンネルという男子生徒は女の子が大好きな思春期真っ盛りみたいな少年である。別に女の子をとっかえひっかえしているのではなくて、アタックを繰り返しては玉砕しているパターンだ。ある意味健全ではあるのだけど、友人達の間ではちょっとばかしお調子者のお馬鹿キャラで定着している。

 ちなみに聞いた話では、彼は入学式当日もこちらの世界出身の可愛い新入生の女子を見つけるなり早速声をかけに行ったらしい。講堂に行くのに同行していた同室の省吾を放って。省吾も省吾で付き合ってられないと一人で先に向かい、そうして講堂前で伊織や日向達と出会ったのだという。

 それはともかく、騒がしいケンネルを伊織が叱りつけて黙らせる一幕があったりしつつ、魔術の授業が再開された。

「魔術はイメージです。理屈や理論なんて後からなんとでもなります。イメージさえしっかりと固めていれば、得意な方面の魔術であれば少し練習するだけで発動くらいは出来るはずです」

「ほんとにー? リンリン、魔術ってそんな大雑把でいいの?」

「術式から無駄を削って、消費魔力を減らしたり発動速度を速めたりするという段階に入ってくれば、もちろん術式や理屈は重要です。それでもやはり、大事なのは感覚だと私は思っています。感覚で理解できずに理論だけが先行しても、それは『使えるだけ』であって、優秀な魔術師にはなれないでしょう」

 何気に自らも優秀な魔術師であると認めているような発言である。それが事実なのは日向もよく知っているけれど。

「なんかリンリン、魔術の事だといつもと違って結構自信家だねー」

 意外そうな真紀に、隣の伊織が首を横に振ってみせた。

「真紀、あなたは知らないでしょうけど、ルウはこれでもまだ控えめな方よ。実際この子、魔術に関しては物凄く優秀だそうだから。周りに自慢したって恥ずかしくないレベルでね。クオンテラ先生が言ってたわ」

「い、伊織ちゃんいつの間にそんな事先生に聞いたんですか!?」

 話がやたらと脱線気味な授業風景を、日向は微笑ましい気持ちで眺めていた。凛が下の名前で呼ぶ相手はあんまり多くないけど、伊織とは同じシルフ組だからか、最近はかなり打ち解けてきている。

 ふと。

 小さな影が地面を過ぎったのが目に入り、日向はなんとなしに視線を上げた。

 本日は快晴で、千切れたようなうっすらとした雲がぽつぽつある以外、どこまでも青い空が広がっている。国交樹立記念のお祭り騒ぎが始まるのは明後日からの三日間だ。天候に恵まれたようで、今週いっぱいは晴れが続くだろう、との事だった。

 こっちの天気予報は基本アテにしちゃいけない、人の目で見て観測しただけのただの予想みたいなものだけれど、天気が崩れそうな気配は日向も微塵も感じない。まあ大丈夫だろう、というのが大多数の見方だった。

 赤い鳥が数羽、空を飛んでいる。

「と、とにかく。まずは色々な魔術の基礎をどんどん教えていきますから、イメージし易い、コツが掴み易そうな自分の得意魔術を見つけましょう。風や炎のような系統は一般的なので学園でも教えますけど、マイナーなものまでは押さえていませんから。教えてくれる所が少ないので、そちらが得意な属性だとしても自分で気付かない人は多いそうです」

「まさかリンリンはそれ、全部習得してるの?」

「いえ、全部というのはさすがに……。でも一通りは使えますので、基本的なところを教えるのは大丈夫だと思います」

「ほら真紀、今のもルウは控えめに言ったのよ。神谷君に聞いたんだけど、ルウは下級魔術ならほぼ全部習得済みらしいから」

「だからいつの間に、伊織ちゃんはそんな事を聞き出してるんですか!?」

「私達の得意属性調べてくれた時も、次から次から当たり前のように知らない魔術出てくるし使えるんだもの。訊いてみたくもなるわよ」

 ぎゃーぎゃー言い合っている皆の声が日向の耳を素通りしていく。赤い鳥の一羽がこちらを見たような気がした。

 てっきり低空を飛んでいるのだと思っていたけど、もしかしてあれは結構上空なのでは。鳥が近づいてくるにつれて、それは確信に変わる。

 遠いのに普通の大きさに見えていたという事は、実際はかなり大きいのだ。普通の鳥よりも、ずっと。

「え……?」

 そしてあの鳥、どうもこちら目掛けて近づいてきているような。

「魔、物……?」



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