45 二人の魔物憑き
「このお肉を保管しておけばいいの?」
持ち込んだ〈憑き獅子〉の冷凍肉を、満月亭の店員リュンは首を傾げつつも受け取ってくれた。
パルミナでは飲食店や余裕のある家では冷蔵庫が普及し始めている。満月亭でも使っていると聞いていたのでそれをアテに訪ねてみたのだ。
「頼んでいいか? 空きがあったらでいいんだが」
「たいした量じゃないし多分大丈夫。それにしてもこれ、どうしたの?」
「ちょっと手に入ったんでな。ちなみにそれ、魔力毒抜いてねえからな。気をつけてくれ」
「毒抜きしてないの買ってきたの!? 安かったからつい手を出したんでしょうけど……、ウチじゃちゃんと処理できるか自信ないわよ?」
買ったのではないが、まあいいだろう。細かい事を説明しだすときりがなくなる。ただまあ、これはちゃんと伝えておかねば。
「いや、魔力毒は抜かなくていい。とにかくその状態のまま保存してくれりゃあ問題ないから」
「まあ抜かなくても毒は無くなってくもんね」
リュンの言う通り、数日もすれば肉からは魔力が完全に飛ぶ。魔力毒の対策としてそうした処理方法もないわけではないが、先に肉が痛んで食べられなくなるので、こういったものは専門家が処理をするのがこの世界の常識だ。魔力などで外部から働きかけ、魔物の魔力が消滅するのを早めるのである。
ちなみに人の魔力で拒絶現象を起こして強引に無毒にする方法もあるが、これはほとんど時間を取られない反面、処理できる量が限られる上に味が相当落ちる。しかも処理した人の魔力が今度は肉に留まり本人以外にとっては毒になったり、魔物の魔力が完全に消えておらず軽い中毒症状を引き起こしたりする事態が起こり得る。なので普通は信頼できる所で毒抜きされた物を買うか専門家に任せるのだ。
というか面倒ごとが多い割にそこまで上等な味でもないので、魔物の肉はかなりの不人気食材であったりする。
「ていうかこれ、本当にどこで買ったの? 毒は抜いてないのにしっかり凍らせてくれてるのね」
「ああ、そりゃクーが魔術で凍らせただけだ。念の為にやっただけなんで別に冷凍庫じゃなくてもいいから」
肉を渡した鋼は待たせている少女達の元に戻った。獅子を倒し依頼を果たし、ギルドに戻った後鋼達はここへ直行している。もう夕方でそろそろ寮の門限も迫っているが、今すぐ帰らないとまずいという程でもない。ここの常連でもある仲間三人は店の席に座ってくつろいでいた。
「渡してきた。もうちょっとここでゆっくりしてくか? まだ時間もあるしな」
仲間達が頷き鋼も空いていた席に腰を下ろす。程度の違いはあるが皆そこそこに疲れている。まあ原因は魔物だとかそんなものよりも、長距離の移動それ自体なのだが。
体力、魔力共に消耗を強いられたが、それでも鋼の体調はここ最近では一番と言っていいくらいに好調だった。やはり久々に口にした魔力入りの肉は、消費した分を上回るだけの回復をもたらしたらしい。昼食の残りを凛がタッパーに詰めてくれたので、帰り道のパルミナ付近の休憩でもう一度補給している事ももちろん大きい。
しかし、まあ。
この体質は本当に面倒だ。魔物肉を定期的に摂取しないと駄目とは、冒険者以外の職業につけるのか甚だ疑問である。
魔力非活性地域である日本に戻った後は魔力を使う場面など無かったから問題も起きなかったのだが。もしソリオンで生きていくなら、この体質とは一生向き合っていかねばならないだろう。
正直なところ鋼はきっちりと将来の展望を決めているわけではない。騎士学校というものに通っておいて結局は日本へ帰る可能性だってある。まずは『彼女』と再会し、その辺りの事はかつての仲間が揃ってから具体的に考えようと思っているし、そのようにこの場の仲間にも伝えてある。
「それにしてもギルドの人、すっごいリアクションだったねえ」
日向がのんびりした調子で口を開く。出た話題は先程の冒険者ギルドでの一幕についてだ。依頼を達成した報酬をもらうため早速立ち寄ってきたのだが、対応してくれた職員が今朝と同じ人物だったのだ。報酬をもらうため、依頼主に魔物駆除確認のサインを記入してもらった証明書を提出した時の事である。
『え、あの、これ、今朝の依頼ですよね? ……え?』
疑っているわけではないが理解できない。そのような困惑した反応だった。依頼があった村までの距離や狩りの時間を考慮すれば、日帰りで達成できる依頼に思えなかったのだろう。
走って行ったと説明すれば、ギルド職員は唖然とした顔になっていた。
「集団での移動速度は一番足が遅い者に合わせる事になるからな。魔力も消耗しないし、結局は冒険者の皆は移動に馬車を使うらしい。その基準で職員も考えていたのだろうな」
「もしかして私達みたいに全速力で行って帰ってくるのは冒険者業界でも非常識だったり?」
「……あの、密かに思ってたんですけど、かなり非常識だと思います。強化の精度も魔力容量も人によって違うので、普通は合わせるのは困難だと思いますし……」
クー、日向、凛が話すのを聞いて、途中にあった休憩所の男がやたらとヒートアップしていたのを鋼も思い出す。
「なら、この移動速度を『売り』にするってのはアリだな。将来俺達が冒険者になったとしてだが」
「クーちゃんのあの移動手段もあるからねえ。冒険者じゃなくて運送屋とかやっても儲かりそう!」
「その場合はクーしか要らねえからな……。まあ、無難に冒険者かね。今日の感じだと生活してく分には問題ねえみたいだしな」
「報酬おいしいよねえ。こっちじゃ色々ヒドイ目見たけど、苦労して強くなった甲斐はあったかな」
それは、まあ。日向の言う通りで。
死と隣り合わせの『死の谷』での日々はそれはもうひどいものだったが、得られたものも少なくない。異世界に落ちたのは不幸な出来事ではあったが、その代わりに冒険者としては将来安泰の戦闘技能を手に入れたのだから。
しかし、と鋼は心の中で思ってしまう。
今日のような狩りを繰り返して安定した生活を送っていく。想像したその未来を、鋼はどこか味気ないものと感じてしまっていた。
あの程度の魔物が相手なら、油断さえしなければ命が脅かされる事はない。この街で冒険者になれば、平和でありながら適度に刺激的な一生を安心して送れる事だろう。
命の危険が無いのは何よりだ。それ以上望ましい事などありはしない。何度も死に瀕した経験から、鋼はそれをよく分かっている。
分かっているはずなのに。
「……」
思い出されるのは一月ほど前の、謎の兜男との戦闘だった。
血が沸き立つような駆け引き。痺れるような緊張感。
獅子の相手とは比べ物にならない密度の濃い時間があの場所にはあった。
……認めなければなるまい。
心のどこかで鋼は、確かに強敵との戦いを求めているのだと。
獅子を倒した際、日向は鋼に『相手が弱過ぎるだけで、こちらの危機感が薄れたのではないと思う』と言ってくれた。だがそもそも、その危機感を抱くような状況こそを鋼の中の獣は望んでいる。その自覚があった。
「どしたの?」
「いや。あいつ一体いつになったら俺に慣れるんだろうなと」
考えにふけるこちらの内面を日向に見透かされる前に、鋼は咄嗟に話題をずらした。
視線の先にはそろそろ見慣れたと言ってもいいリュンではない方の店員がいる。店内の隅でテーブルを拭きながらこちらを明らかに気にしていた狐娘、ミオンである。聞こえたか話題が自分に移ったのを察したらしく、彼女の耳がびくりと動きこちらを向いた。
「あの耳可愛いよねえ……」
本人はテーブルの表面をやたら凝視しつつ、俯きがちに何故か同じ場所を繰り返し拭いていたが。日向の言葉に反応してか、今度は尻尾がふさふさ揺れていた。獣人という種族は誰も彼もこうも分かり易いのだろうか。
「ずっと鋼の事怖がってるもんね。ほんとに何やったの?」
「いやマジでここまで怖がられる事はしてないつもりだぞ? せいぜい脅しつけて鉄格子を素手で捻じ曲げたくらいだ」
「それ十分トラウマになるレベルだよ!?」
そういえばミオンとの出会いの時何があったか詳しくは話していないのだった。闇傭兵に精霊憑きだと疑われていた、という部分だけは念の為に伝えてあったのだが。
「まあでも、もうそろそろちゃんと仲直りしておくべきじゃない?」
話が聞こえていたらしく、厨房の方から顔を出したリュンがそう口を挟んできた。
そしてミオンの方へ歩み寄り、言い訳じみた事を言い募る彼女を問答無用で捕まえる。そのまま鋼達のすぐ前まで引っ張ってきた。
「連れてきたわ! 今日こそしっかり話してあげて、カミヤ君!」
「リュ、リュンさん!? 私は別に……!」
「嘘言わないの! いっつもちらちらカミヤ君の事見てるの知ってるんだから!」
それは鋼もよく知っている。隠す気があるのか疑わしいくらい、ミオンは毎日あからさまにこちらをじっと見てくる。
「そ、それは……」
「……なんか言いたい事があるなら聞くぞ?」
もはや一月も前だが、牢から助けた時の事について改めて礼を言われるのかなと鋼は予想していた。それですっかりわだかまりが解けるとまでは思わないが、こちらも友好的に対応すれば多少なりとも彼女の苦手意識を払拭してやれるだろう。
だがそんな思惑をぶっちぎり、意を決した様子の狐娘は穏やかでない発言をもたらしたのだった。
「あ、あの! カミヤさんって人間じゃないですよね?」
◆
「私の仮説をまとめる。コウ、君は他者の魔力を消化できる特異体質の持ち主だ。消化した魔力は君のものとなり、その子達の魔力を取り込んだ事で君自身の魔力の性質も変化した。恐らくは全員分の魔力の性質を兼ね備えていて、本人の魔力だと錯覚させる事で拒絶されず彼女らに干渉できる。つまり、『魔力を食べる』『魔力を食べた相手に対しては同調出来るようになり、双方向の受け渡し・干渉が可能になる』というのが君の能力だ。違うなら否定して欲しい」
かつてニールは鋼の体質を、少ない情報から推測してみせた。
当たっていると鋼は認めた。だが魔術師の追究はそれで終わらなかった。
「……一つ、私はその体質と同じものに心当たりがある」
「そんな体質の話は聞いた事がないって、さっき言ってなかったか?」
揚げ足を取るように鋼は突っ込むが、ニールは静かに首を横に振る。
「『魔力毒が全く効かない体質』と聞けば、心当たりは無かった。だが『魔力を消化し自分の物にする』というのが君の能力の正体なら、同じ能力を持つ存在を私は知っている。むしろ専門家だ。それは――」
それは。
「魔物だ」
◇
ミオンの半ば確信している問いかけに、場が静まった。
奇妙な緊張感が漂い始めた店内で、リュンが戸惑いミオンと鋼を見比べる。沈黙を受けてミオンの耳がへたりと倒れた。
「ね、ミオンちゃん?」
そんな中で殊更明るい声をあげたのは日向である。
ただし、微妙にその目は笑っていない。笑顔と無表情のどちらを浮かべればいいか迷って、その中間を選んだような表情だ。
「人もいるのに軽々しく口にするのは、ちょっと迂闊な話題だと思うんだ、それ」
「あ、は、はいっ! そ、そうですよね……」
俯いたミオンが再度顔を上げ、ちらりと鋼を窺った。
「あの、すみません。私、魔力には結構敏感で、その。カミヤさんの魔力があまりに……」
「あまりに、魔物みたいだった?」
この場の部外者はリュンだけで他に客はいない。そのリュンにしても、まあ、言ってしまえばこちらは彼女の恩人という立場で、知ったところで広めるような真似はするまい。隠し立てせずにシンプルに放った鋼の問いかけに、ミオンはぎこちなく頷いた。
「カミヤさんが以前魔力を使った時、人とは違う気配がして……」
「で、怖くて近づきづらかったと。……お前が言うなって感じだがな」
そう言うとミオンは表情をはっきりと硬くさせた。配慮のない狐娘への意趣返しのつもりで鋼はそれを口にする。
「お前だって『魔物憑き』だろうが」
「ど、どど、どうして、それを……!?」
飛び上がらんばかりにミオンは驚きを露わにする。確認するようにリュンの方を振り返るが、彼女は慌てたように首を左右に振っていた。そのやりとりの意味するところは、ミオンは彼女には自分の正体を伝えていたという事だろう。意外である。
もちろん事前にリュンから聞いていたというような事はなく、今のは鋼の当てずっぽうだ。そうではないかと前々から疑ってはいたが。
「俺はお前みたいに魔力に敏感なわけじゃねえからな。ただの勘」
カマをかけられたと知って情けない顔でミオンは項垂れる。鋼が視線を移すと、ぽかんとした様子のリュンと目が合った。
「えーと……。つまり、カミヤ君も魔物憑き、なの?」
「……まあ、そうだな」
「ニホンの人にもいるんだ……、魔物憑き」
いや、多分他にはいない。
――魔物憑きというのは本来、特定の亜人を指して使われる言葉である。語感的には精霊憑きとよく似ているが、そちらとは特に関係ない。
亜人と呼ばれる者達は、多かれ少なかれ通常の人族には無い特徴を備えている。例えば獣人が獣の耳や尻尾を持つように。そういった人外の部分は同じ種族でも個体差があり、特にそれが強い者、一際人間離れした者が魔物憑きと渾名されるのだとか。
とはいえこれはニール曰く、正しく条件が定義された言葉では無く、差別用語・蔑称としてなんとなく定着しているものであるらしい。人ではあり得ない要素を持つ亜人達は、人よりも獣や魔物に近い存在ではないかと恐れられ差別を受け易い。性格が人よりやや乱暴者であるというだけでも、やはり理性の薄い獣だと決め付けられ、魔物憑きと呼ばれるなど強い差別の対象となる。
だがこれが問題をややこしくしているポイントなのだが、単なる個人差であるのに不当に差別される者が多くいる一方で、本当に獣寄り、魔物寄りの亜人も実在している。本来なら『魔物憑き』とは彼らだけを示す単語であり、恐らくは日本でいう『悪魔憑き』『狐憑き』などと近い概念だと思われるが、他の亜人からしてもそれは忌避の対象になるという。
鋼がカマをかけてミオンが驚いたのは、当然曖昧な悪口を肯定したからではなくて、本来の意味で受け取った上での反応だろう。
この狐娘は、自分が普通の獣人ではないという自覚があるのだ。
「……言っとくが、他の日本人の奴らに訊いたりするなよ? 日本にも魔物がいるのか、みたいな事を」
念を押すとリュンは頷きながらも首を捻った。
「そういえば、そっちの世界は魔物がいないって聞くけど……」
「俺が例外なだけで、魔物憑きもいないからな? そもそも妙な体質になっちまったのは前にこっちの世界に来た時だ」
「鋼は魔物の学者でも聞いた事がない、後天的な魔物憑きだそうだ」
何故かクーが自慢げに横から補足してくれたが、まあそういう事なのだった。
ニールにこの体質や能力を看破されて以来、鋼は出来る範囲で彼女と協力し、この体について色々と調べた。魔道学者の出した結論は、恐らく鋼は死の谷で魔力が変質し、ただの人から魔物憑きになったのではないか、という事であった。
鋼の魔力は変質しており、人間ではあり得ない魔力強度であるらしく。
魔力を消化する。魔力強度が高い。亜人でも持ち得ないそれらは魔物が持つ特性なのだ。人よりもそちらに近い存在になったという考えは不自然なものではない。
魔物憑きとなる可能性があるのは亜人だけで、その症状を抱えているなら生まれた時からのはず、というニールの持っていた既存の知識とは矛盾したが、そちらが間違っていたのだろうと彼女は笑っていた。新事実に興奮する研究者らしい笑顔で。
――そういえば。
連想して鋼は思い出す。ニールはそこから、研究に興味津々だったある戦友の少女と議論を重ね、面白い仮説を立てていたっけ。
元々ソリオンに亜人は存在せず、人間から突然変異で生じた鋼のような魔物憑きを祖先に、その子孫達が亜人へと派生していったのではないか、とかなんとか。種族ごとにそれぞれ元となった魔物憑きがかつて存在しており、人に無い特徴を備えるのはその名残。稀に生まれる魔物憑きは祖先の特性を強く受け継いでしまった、いわゆる『先祖返り』にあたるのでは、というような仮説だった。
魔物の肉を食べ過ぎて魔力が変質したらしい、とミオンとリュンに説明しがてらその仮説についても鋼が教えると、満月亭の店員達は感心したように目を丸くして聞き入っていた。
警戒心が和らいだようなので訊いてみる。
「そういやお前も、俺みたいに魔力を食っても平気な体質なのか?」
「え、その、どうなんでしょう……。ちょっとくらいなら平気ですけど、あんまり食べるとお腹壊します……」
「耐性はあるかもしれんが、普通の人とか亜人とそう変わらんって事か。それならお前が自分を魔物憑きだと思う要因ってのはなんだ?」
ぴたりとミオンの尻尾が静止する。踏み込み過ぎてまた警戒されたかと思ったが、恐る恐るといった調子で狐娘は口を開いた。
「……その、感情が昂ぶったりすると、ついビリビリさせてしまって。あと、多分ですけど魔力に敏感なのも、魔物憑きだからだと思うんです」
「魔力に敏感ってのはそんなに誰もが持ってない能力なのか?」
鋼の魔力なら離れていても察知してくる戦友達を思い浮かべながら訊くと、ミオンはこくりと頷いた。
「その、敏感な人や亜人はいますけど……。私の場合、強いとか強くないとか、人とか亜人とか、なんとなく分かる感じで。多分、それっておかしいと思います」
「へえ。単にそういう才能があるってのと比べても、明らかに高い精度で探知できると」
少しばかり考えて、本当ならどうせいつかバレるかと思った鋼は、向かいに座るクーを見た。きょとんとした目で見返してきた彼女は、ミオンを視線で示してやると意図に気付いたようだ。
「……ふむ。つまり私が魔力を活性化させたら、そこから詳しい事を知れるわけだな」
「え、いや、なんとなくでそこまで詳しくは――」
ミオンの台詞が途切れ、がたんと大きな音が鳴った。クーが魔力を活性化させたのだ。
音は飛ぶようにクーから全速力で逃げ出したミオンが、店の壁にぶつかって立てたものだ。かたかたと体は震え、振り返ったその目には驚愕と畏怖がはっきりと浮かんでいる。
「……なるほど。こりゃマジで本物か」
「な、なななな、なんで……!」
ミオンがクーを恐れて咄嗟に逃げたのは誰の目にも明らかだ。銀の少女の魔力は常人ではあり得ないと、身をもって知ったからこその反応に違いなかった。高位魔術師のニールでさえクーの魔力の気配をおかしく感じたりしなかったというのに。ミオンは相当な魔力の感覚の持ち主と言えるだろう。
「どうして、そんな……! カミヤさん達は、一体何者なんですか……?」
その言い様に思わず鋼は苦笑していた。
「全くだ。なんの因果か、三年ほど前に俺含めて変なのばっかり集まっちまってな」
――戦友? 仲間?
その表現も間違っていないから使っているが。この集団が何なのか。何と名乗ればいいのか。ミオンの問いに対し、胸を張って堂々と言える答えを鋼は持ち合わせていない。将来何者になりたいかすら決めかねている。
むしろこちらが教えて欲しいくらいなのだった。