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ソリオンのハガネ  作者: 伊那 遊
第二章・魔物狩り
41/75

 39 VIP来訪



 しかし昨日は懐かしい顔と再会したものだ。

 早朝の訓練の時間。いつもの無断で使っている校庭の芝に腰を下ろしながら、鋼はルデスで会ったおっさん、カシュヴァーとの経緯を思い返していた。

 二年ほど前、ルデスで骨頭にやられかけていた集団のリーダー。それがあの壮年の男性だ。当時は彼らの正体を雇われ冒険者と説明されていたのだが、どうやらこの国の騎士だったらしい。デリケートな任務だとかで、二年前は正体を隠していたのだと昨日謝られた。まあ、その任務とやらを手伝わされた鋼達に謝る気持ちは分からないでもない。手伝いを引き受けた時点で、見返りとして予備の武器などもらっていたので特に不満もないが。

「なあなあコウ。あれは何の訓練をやっているんだ?」

 早朝訓練に初めて顔を出したクーも含め、戦友の少女達が鋼の付近に集まって座っている。クーが興味津々な様子で指差すのは有坂とマルの試合の光景だった。

「強化使った戦闘の訓練ってとこか」

「ああ、なんか言われてみれば覚えがあるな!」

 覚えがあるのは当然で、ルデスでクー達にもさせた事がある訓練だ。

 視線の先では有坂とマルがのろのろとした動きで訓練用の剣を交わしている。試合と呼ぶのはやや違和感のある低速の戦いだ。もちろんこれはそうさせているのであり、そしてその実態は真剣勝負であった。

 はっきりと剣の形すら視認できるような遅い動きだけで戦えと、二人には制限を課している。互いの動きを見てあまり速度に差を出すなとも。そんな形式で戦って果たして決着がつくのかとやる前のマルは疑問を呈したが、これは案外高度な駆け引きを要求するルールなのだと身をもって実感している事だろう。

 相手の剣がこちらの体に届きそうな状況を作ってしまえば、防御も低速で行わなければいけないためその時点でほぼ決着となる。何手も先を読んで『詰み』の状態を回避しつつ、相手を追い詰める必要があるのだ。

 実戦では速度は違えども誰もが普通に行っている駆け引きであり、無意識にこれを実行するのが上手い者もいるだろうが、意識して訓練する事にはやはり意義がある。加えてこの戦いでは《身体強化》の魔術を解禁しているので、遅く動いても力押しで決着をつけてしまうのも可能だった。

「先を読むのに集中すれば強化が(おろそ)かになり、単純な力押しに対処できなくなる。かといって強化に頼りすぎれば、気付けば詰みの状態に持っていかれる。私もあれは苦労した」

「お前はああいう駆け引きが滅茶苦茶ヘタクソだったからな……」

 元々は駆け引きなど不要とばかりに力押しで戦うクーのために考えた訓練だ。当時を鑑みれば有坂やマルの方が余程そこら辺は出来ている。

「あの二人は強いのか?」

「強いぞ。有坂なんて魔術に初めて触れてからまだ一ヶ月くらいだってのに、あれくらいは出来るようになった。《身体強化》の適性が高いらしい。マルも元から剣も強化も鍛えてたみたいで戦い方のバランスがいいし」

「コウが認めるほどか……。あの二人が一緒になってかかってきたら、私でも負けるか?」

 軽い気持ちで『強い』と鋼は評したのだが、クーはかなり驚嘆していた。その反応を見て即座に鋼は訂正しておく。

「いやお前、強いって言ってもな……。さすがにお前ら基準で言ったんじゃねえから」

「そうなのか」

 はっきりと言うのは避けるが、今の有坂とマルが五人ずついて十人でかかってもクーは本気を出す事なく勝つだろう。入学してから一ヶ月と少し、自分達の強さが常識からやや(・・)外れたレベルにある事を鋼も理解してきている。戦闘の本職である騎士と同等以上と分かっているのだ、騎士候補生の一年生と比べるのは色々と間違っている。

 なんだか不思議そうな顔で、クーはじっとこちらの顔を覗き込んでくる。

「……なんだよ?」

「なんと言うのだったか。ああ、そうだ。コウは丸くなったな」

「は?」

 思わず訊き返すも、凛も日向もその意味が通じているらしく横でうんうんと頷いていた。

「コウの基準で弱いなら、容赦なく弱いと言うのが以前のコウだと思う」

「日本に帰ってからは丸くなったよねー」

「……剣の扱いを教えてもらった時のコウはとても厳しかったです」

 満場一致でそんな事を言われてしまった。確かにまあ、自分でも覚えがありすぎた。心の余裕の無かった当時、鋼の言動は傲慢で色々とひどいものも多かったと記憶している。

「悪かったよあん時は……」

「悪くなどない! おかげで私達は誰一人欠ける事なく生き残れたのだからな」

 クーが断言すればまたもや横で頷く凛と日向。どう答えていいものやら。微妙なむず痒さを感じつつ、曖昧に頷いておいた。

「ところでコウは、何か訓練しないでもいいのか? あの二人を見ているだけか?」

「今日はいい。頭の中で魔術のイメトレするくらいで」

「イメトレ?」

「頭の中だけで練習って意味だよ」

 そんな会話をしていると、何やら不安そうな面持ちで凛がこちらを見つめていた。

「……あの。最近、あんまり魔術の訓練を実際にやらなくなりましたよね?」

「そうか? 特に自覚はねえが」

 自然体を意識してそう返事をすると、言いたかないんだけど、といった気まずい様子で日向も続いた。

「こういう時に平然と嘘ついちゃうのが、鋼の悪い所」

「やっぱりそうなんですね? ヒナちゃんも言うなら間違いないでしょうし」

「ん、何の話だ?」

 意味が分からないクーだけが周りを見回して訊ねる。だが彼女も鋼の事情を知っている。すぐにどういう事か察したようで、クーも深刻な表情を作った。

「まさか。ちゃんと『食事』をしてないのか?」

「……私の知る限り、入学してから一度もありません」

「お前らは大袈裟なんだよ。んな心配せんでもいい。一昨日魔物料理も食ったし」

 鋼には秘密がある。それは鋼だけでなく、この面子は色々と隠さないといけない事が多いのだが。

 三人を心配させているのは、鋼が以前の異世界で獲得した困った性質に()るものだった。

「でも売ってる魔物の肉って魔力抜いたやつなんじゃなかった?」

 日向が余計な事を言い添える。だが丁度良く有坂とマルの訓練試合が終わったので、この話はここまでだと視線で伝えて鋼は立ち上がった。

 実際、凛やクーがそこまで深刻そうに話すほど悪い状態でもない。一月前、兜のおっさんとやり合った際に魔力を使いすぎたというだけで、『食事』なしでも徐々に体調は回復してきている。それはもちろん、なるべく普段から魔力を使わないよう努力を続けてきた賜物なのだが。

 色々と鋭いところのある日向はそのあたりを見抜いているらしく、鋼の嘘を暴きはしたもののあまり心配はしていなさそうだ。全く困ったもので、この幼馴染が相手では強がる事も出来やしなかった。



 ◇


 その日、学園全体にどことなく浮ついた雰囲気が漂っていた。

 気のせいではなく、少し騎士学校内で過ごせばすぐに目につくいつもとの違いとして、いかにもな姿をした騎士らしき人物がそこらに立っていた。学園では普段から、護衛対象に常に張り付いているわけではない護衛官が好き勝手にうろついていたりするのだが、それとは違いあからさまに堅苦しい空気を発散させている。

 考え方が違うのだろう。周囲に溶け込んで護衛するのではなく、逆に存在を主張する事で敵を威圧しようという目論見だ。堂々たる振る舞いを求められる公人の護衛としては、こちらの方がふさわしい姿には違いない。

 いかにも騎士らしい姿の人物達は本物の騎士で、現在学園にはVIPが訪れていた。

 正式な通告が学園側からあったわけではないが隠す気もないらしく、朝から生徒達の間ではこの噂で持ちきりだ。来週の記念式典にも出席予定のある親善大使、第二王女ヴェルニア殿下とやらがどうやら来訪しているらしい。

「来年この学校に入学するかもっていう話も出てるんですよ。本当ならすごい事ですよね!」

「ああなるほど。来年入学する学校に見学に来たって事か」

「生徒の間で出てるだけの噂話ですけど……。情報の出所は貴族の生徒だって話もあって、皆盛り上がってますよ」

 どこから聞き出してきたのかややハイテンションな片平がそんな情報も教えてくれた。威圧感を振りまく騎士達にめげず、噂好きな生徒は今日も元気に活動しているのだろう。

「王女様が後輩とか妙な感じね……」

「護衛の騎士の人らが護衛官するんかな? 何人増えるんやろか」

 有坂と省吾も少しは興味があるようで、マルを抜いたいつもの面子で王女を話題にしつつ次の授業場所へ向かっているところだ。二つ目の授業だがいまだに王女には遭遇していない。授業を見学するにしても上級生のものを見に行っているのだと思われる。

 ふと、廊下の曲がり角に立っていた青年騎士の前を通った際、彼と鋼の目が合う。

「カミヤ君じゃないか!」

 なんとなく見覚えのある顔だなーと思っていたら声をかけられてしまった。

「あー……。なんて名前だったっけか」

「レイゴル、とかそんな名前だった気がします」

 凛が小声で後ろから補足してくれた。

「それだ。おっさんの副官っぽい人の、弟だっけか」

 ルデス山脈で出会い、昨日再会したカシュヴァーの、十数人いた仲間の一人だ。カシュヴァーが騎士であれば当然彼の仲間達もそうなのだろう。王女の警護に駆り出されるのだから、それなりに出世しているようだ。

「僕なんかを覚えてくれてたのかい? いやあ、嬉しいねえ」

「あんたも俺らの顔覚えてたじゃん」

「いや君らの事はちょっと、忘れようにも忘れられないからね。隊長からも学園にいるのは聞いていたし」

 騎士レイゴルは鋼の後ろ、日向や凛やクーに視線を移す。

「うわお……。あの時から分かってた事だけど、美人揃いになっちゃってまあ」

 褒められた一人である凛が居心地悪そうに鋼の背中に隠れた。

「あっと、ごめんね? 再会したばっかりなのに、ちょっと不躾(ぶしつけ)な言い方だったかな」

 そこまで言ってレイゴルは気付いたようだ。有坂や省吾、それに廊下を行き交っていた他の生徒の関心を自分達が引いている事に。んんっと咳払いをして、彼は話し方を改めた。

「注目を集めてしまった。すまない、カミヤ殿」

「ん、ああ……。殿なんて付けなくてもいいぞ?」

「我が隊の隊長はそう呼んでいますので、お気になさらず。……人の目がある場所では威厳を保つのも、僕らの大切な仕事なのさ」

 台詞の後半は声をひそめ、どこか悪戯っぽくレイゴルは言う。喋り方一つでがらっと印象が変わる青年だ。案外堅苦しいと思っていた騎士達も、付き合ってみれば気さくな人物は多いのかも知れない。

「……二年前の助力、自分からも感謝を。長々と引き止めてしまってすまなかった。それでは」

 最後にまた堅苦しい口調で別れを告げながらも、レイゴルの目は親しみを帯びていた。鋼達も軽い返事を返しその場を後にする。すかさず有坂と省吾が訊いてきた。

「なんで騎士の人と知り合いなわけ?」

「隊長って人とも面識あるみたいな会話やったしなあ?」

「ルデスで会ったんだよ……」

 面倒なのでそうとだけ説明しつつ、あとははぐらかしたのだが。移動する先々でレイゴルのように声をかけてくる騎士が何人もいた。今日学園に来ている騎士は、二年前にルデスにもいた者の割合が何故だか妙に多いようだった。



 午前の授業が終わりいつもの満月亭で昼食を取っていると、マルが神妙な面持ちで問いを発した。

「カミヤ。聞いた話なのだが、飛燕隊の方々と知り合いなのか?」

「飛燕隊?」

 学園のそこらに立っていた騎士達の事だろうとは思いつつも、初耳の単語だけ鋼は聞き返す。

「知り合いなのに、飛燕隊の名前は知らないのか?」

「いやまあ、そういうのちゃんと調べた事ねえしな。ルウは知ってるか?」

「確か……、セイラン王国の、王族や王城を守る騎士隊の名前だったと思います」

 マルもそれに頷いた。

「ムライはこちらの国の事をよく調べているな。今日学園に来ていたのは、第二王女ヴェルニア殿下の警護を担当する方々だ」

「王女の警護ね……。結構エリートっぽいじゃねえか。あのおっさん、昨日正体明かした時もそんな事欠片も言ってなかったぞ」

「何を言っている? それとカミヤ、王女殿下のお名前を出す時は、せめて『殿下』か『様』を付けるべきだぞ」

「へいへい、分かったよ……」

 面倒だから王女でいいだろ、という本音を隠し素直に頷いたのは、乱暴な言葉遣いを少しは改める機会かと思ったからだ。敬語なんて慣れだとシシドにも言われているし、鋼も直したくないわけではない。

「俺は本来、王族だろうが皇族だろうが関係なく接するというポリシーがあるんだがな……」

「なんだその取って付けたようなポリシーとやらは。今カミヤが考えただろう」

「で、飛燕隊の話じゃなかったのか?」

「うむ。そうだった」

 話題が戻される。

「生徒の間で密かに話題になっているぞ。カミヤが騎士の方々と、何やら話していたと」

「どんだけ噂が駆け巡るの早いんだよ……!」

 頭を抱える鋼に、やんわりと省吾が突っ込みを入れた。

「いや、あんだけ学園中で騎士の人らに声かけられてたら、トータルやと目撃者かなり多いと思うで?」

「ほんとに何人も話しかけられてたわよねえ……。まあもう神谷君達の事だから、少々の事じゃ私は驚かなくなったけど。学校の皆にとっては違うでしょうしね」

「いきなりクーさんみたいなすごい護衛官も連れてくるし、神谷さんって元から注目されてましたからね……」

 有坂と片平からも口々に言われ、鋼はもう色々と諦めた。確かにここ最近、周囲から妙に注視されていると感じてはいたのだ。剣技でも魔術でも、素人のクラスメイトよりは鋼達はずっと上のレベルにいる。たとえそれが本人としては苦手な分野であってもだ。よっぽど上手く手を抜かない限り、授業で目立ってしまうのは避けられない。

「ん? 私をすごい護衛官だと言ってくれたが、学校の者達は私の実力など知らないだろう?」

「いやクーちゃん、実力とかじゃなくてね? 外見的な意味だと思うんだ」

「外見? 私の外見は何やらすごいのか?」

 日向が教えてやってもクーは本気で意味が分かっていない。自分の外見につくづく無頓着なのだ。

「ほんとにこいつは……。マル、説明してやってくれ」

「何故僕なのだ!?」

 狼狽するマルが面白かったので眺めていると、「説明してくれ」とクーの矛先もそちらに向かう。そうはいないレベルの美貌にじっと見つめられ、いよいよマルケウスは追い詰められていく。

「そ、それは……。あなたがとても、う、う、うつ、……い、言えるかぁ!」

 叫んだ部分だけは顔を逸らし、鋼に向けた台詞である。言い切れなかったが面白かったので鋼としては満足だ。

 限界を迎えた彼に代わりクーに教えてやる。

「お前がそこらじゃお目にかかれないほど美人なもんで、注目されんだよと皆は言ってんだよ」

 言った途端、有坂達がひそひそと「さらっと言ったわよ面と向かって……」「さすが神谷さんです……」「これは『鋼女たらし疑惑』がいよいよ強まったなあ」とか聞こえる程度の声音で話していたがとにかく無視した。

 クーはきょとんとしていた。

「美人? 私がか?」

「全く自覚ねえのかよ……。それを訊き返すのが嫌味になる程度には綺麗な顔してるからな、お前」

「そうなのか。いや、全く自覚していなかったわけではなかったが。あまり意識もしてないのでな。面と向かって言われると照れるな」

「照れてるように見えねえぞおい」

 1パーセントくらいは照れてるのかもしれないが、全くもって平静なクーだった。

「ったく。よく知ってる俺でも油断するとどきっとするかもしれんってくらいなのに。本人には全くどうでもいい話か」

 それこそ油断していたのだろう。少女達を前に無駄に強がる傾向のある鋼は、あんまりこういった事は言わないのだが。ついそう漏らしてしまった。

「コ、コウでもどきっとするのか……?」

 何やらクーが物凄く驚いた顔でこっちを見る。……こいつ、年頃の男を一体なんだと思っているのか。

「いや、しちゃ悪いか? 俺ってサイボーグとでも思われてんじゃねえだろうな……」

 なんとなく言った自分の例えに、本当にそんな感じかもしれないと思い直し鋼は内心(へこ)んだ。三年前から二年前にかけてはひたすらに戦いの日々で、色気のある展開など無いどころか生き残ろうと必死だった鋼はかなり厳しく彼女達と接していた。

 ……そういう経緯があるからこそ、今でも彼女達に対してあまり照れ臭さなどの感情を抱かず、性別が違えども上手く付き合えるのだろうが。

「そ、そうか……。な、なるほど……」

 サイボーグ云々は耳に入らなかったのかさらっと無視され、クーは何故だか急に落ち着きをなくしていた。そわそわしながら意味なく辺りを見渡したり、鋼に視線を戻したりしている。

 有坂達がさっきよりも声をひそめ、椅子を寄せてひそひそと話し出した。

「え、この反応どういう――」「どういうも何も、そういう事じゃ――」「疑惑がとうとう確定してもたな。それにしても――」

 声が小さくちゃんと聞き取れないが、ろくな事を言われてないのは分かるので鋼は努力して聞き流した。


「ちょっと失礼」


 タイミングがいいのか悪いのか。

 そんな時、鋼達の輪の外から声がかけられた。

 そちらを見るとたった今店に入って来たばかりらしい青年の姿があった。

 というか、レイゴルだった。

 先程の軽装ながらも一応鎧姿だった時とは違い、私服姿だ。木綿だか絹だか材質のよく分からないシャツとズボンで、こちらの平民によく見られる格好である。知らない者が見れば騎士とは分からないだろう。

「ごめんね、騎士学校の生徒さん達だね? こちらのカミヤ君を、ちょっとばかし貸してもらいたいんだ」

「昨日ここの場所聞かれたから、来るかも知れんとは思ってたが。おっさんの差し金か?」

「そうなんだ。悪いんだけど、これからちょっと時間もらえるかな?」

「まあもう食い終わってるし、次の授業までまだまだあるから大丈夫なんだが……。俺だけか?」

「ああ、ごめんね、言葉が足りなかった。あの時共にいた彼女達も出来れば一緒に来て欲しい、というお達しさ」

 聞き耳を立てているこの場の面々に配慮してか、レイゴルはどこか言葉を選んでいる節がある。場所を移してまで話をしたいのであればルデス山脈関連の内容だろう。特に断る理由も見当たらなかった。

「……悪いな皆、先に学校に戻っててくれ。何やら用事らしいんで行ってくる」

 興味深げな様子の他の皆を置いて鋼は席を立った。レイゴルが騎士だと知っているマル以外は「後で詳しい話聞かせてもらうから」といった決意すらその目に宿っているように見えて、少し引く。

 日向と凛とクーを連れて、鋼はレイゴルの先導に従い満月亭を後にした。



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