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ソリオンのハガネ  作者: 伊那 遊
第一章・新入生の問題児たち
32/75

 30 電気狐と兜の男


 雷より人が速く動ける道理など無い。

 だが結果的には鋼は無事で済んだ。驚いて手を離した瞬間、稲妻が鉄格子に当たりばりばりと音を立てて掻き消えたからだった。

 ――もし手を離すのが少しでも遅れていれば。

 見た事の無い稲妻の術式がどれだけの殺傷力を持つのかは知らない。だが電気というものは、かなり電力が高くなければ空中を伝わってくる事は無いはずだ。日向だって触れるほどの距離でないと相手に電流を流せないのだ。今のは十分に、人を感電死たらしめる威力があったのではないか。

「……助けてやろうって相手に随分な挨拶じゃねえか」

 ――ぞわり、と。

 鋼の奥底から、どす黒い何かが湧き上がってくる。

 戦意。殺意。そういった類の『何か』。

 死の谷ではいつも鋼と共にあり、日本に帰ってからは全く無縁となった懐かしき感触。

 環境への適応によって形作られた、戦闘に特化した自分と言うべきモノ。

「す、すいません! 本当にすいません! 驚いて、つい……!」

 この期に及んでもミオンに悪意は無く、本心から謝っているように見える。それが更に鋼の苛立ちを加速させた。

「驚いただけで人を殺しにかかるとは、中々いい性格してるなお前」

 久しぶりだ。本当に久しぶりに、手加減無しの本格的な《身体強化》を自分自身に施す。

 派手ではない、鈍い色の魔力光が腕から漏れ始める。ミオンが畏怖の表情を浮かべた。どれだけ強力な強化なのか、見ただけで相当詳しく把握しているような反応だ。狐の耳と尻尾が生えているような奴だし、通常の人にはない鋭敏な感覚を持っているのかも知れない。まあ、それで反射的に攻撃していい理由にはならないが。

 光る両腕で再び鉄格子を掴む。

 一息に捻じ曲げ、引き裂いた。

「……は?」

 誰かがそんな間抜けな声をあげる。

 鋼も少し、拍子抜けしていた。牢に使う鉄の格子でもこの程度なのかと。手の中の捻じ切れた鉄片を眺め、その辺に捨てる。まだ何本も残っている格子をめきめきぐにゃぐにゃと折り曲げ、通りやすいよう大穴を空けた。

「いや。いやいやいや、いくら全開で強化しても、それはデタラメ過ぎだろ……」

 呆然とするバートと同じ感想なのか、リュンやオルタムは言葉も無い。室内の誰からも驚愕の気配が伝わってくる。

 無言で見下ろすと、獣人の少女は「ひっ」と息を詰まらせた。拘束している錠ががちゃがちゃと音を鳴らし、彼女の体の表面にはパチパチと電流が走る。

「……」

 さすがにそのあまりに不自然な現象を目にしては、鋼も冷静にならざるを得ない。

「……完全に無意識に《電撃》の術式を使ってんのか? それ以前にお前自身はなんで感電しない?」

「わ、わ、分かりません……」

 ……あり得ないだろうとさっきまでは思っていたが。

 震えながら答えるミオンを見て、鋼は認識を改める。本当にこいつは精霊憑きかもしれない、と。

「なるほどな。本物の精霊憑きだったとしても、確かに電気じゃ鉄の錠は壊せねえ」

 ぶんぶんと首を横に振り、鋼の言葉を否定するミオン。こちらが的外れなのか、本当に精霊憑きだからこそ否定するのか、その反応だけでは判断出来ない。

「おい。その鎖切ってやるから、絶対に攻撃してくんじゃねえぞ。またさっきの撃ちやがったら……、分かってんな?」

 ぎろりと睨みつけると、ミオンはかなりの勢いでこくこくこくと何度も頷いた。ついでに体を走る電流の量も倍増する。

「おいこら! んなバチバチしてたら触れねえだろうが! 置いてかれたいのかお前は!」

「ううう、ごめんなさい! 見捨てないで下さい~っ!」

 ……どうも恐怖を感じると条件反射的に放電する体質らしい。不便すぎる。

 想定以上に電流が強ければ破られる危険性は伴うが、一応《防電》は習得している。体の特定部位あるいは全身を、電気を通さないよう変化させた薄い魔力の皮膜で覆うという魔術だ。少女が落ち着くまで待っているのが面倒になった鋼は、早々にその術式を用いて鎖を外そうかと考え始めていた。

 そこまで得意でもなく、ほとんど使った事がない術式なのがやや怖いところだ。早く帰りたい願望と身の安全に対する優先度を秤にかけ、やはり慎重に行くべきかと鋼が思案していると。がちゃりと、この室内から発せられたにしては違和感のある硬質な音が背後から聞こえてきた。

 振り向けば、同じように室内の奴らが入り口に向かって振り向いたのが目に入る。

 開けっ放しにしていた入り口ドアの付近に何者かが立っていた。


「その子から離れろ。事情は知らんが、怯えているではないか!」


 その人物はびしっとミオンを指差し、それだけ聞けばカッコいい台詞を吐いた。

 日本製らしきシャツとカーゴパンツを着た、服装からすれば違和感がある程に引き締まった筋肉の巨漢だった。ただし顔は分からない。騎士が装着するようなイメージの、大仰なフルフェイスの金属兜を被っているからだ。先程の硬質な金属音は、立ち止まった時に兜のパーツが音を立てたらしかった。

「へ、変質者……?」

 リュンが見たままを言った途端、謎の巨漢はショックを受けたようにふらつく。だがすぐに立ち直った。

「俺は通りすがりの正義の味方というやつでな。この辺りで誘拐事件が起きたと小耳に挟んだのだが……、んん? まさかその子が、誘拐された子じゃなかろうな?」

「わざとらし過ぎだろおっさん。いや、変質者と呼ぶべきか?」

「呼ばんでいい!」

 変質者が叫ぶが、どっからどう見ても怪しい人である。マッチョが日本の服を着て、中世ヨーロッパ的な兜で顔を隠しているのだ。この格好で日本を歩けば間違いなく通報モノだ。リュンの反応からして、こちらの世界の基準で見てもアウトなのは間違いないし。

「なあ……。もしかしてあいつ、ギルドの幹部とかだったりするのか?」

 組織に関係ない外部の人間らしかったが、一応バートとオルタムに訊いてみた。

「あんな変態みてえな幹部がいて(たま)るか!」

「犯罪行為を行う際、顔を隠す者はそう珍しくはないがね……。さすがにあんな、逆に目立つ頭のおかしな格好を選択する輩は、うちの組織にはいないと信じたい」

 二人は即座に否定する。既に変質者はふらつくどころか、がっくりと床に膝をついていた。

 それでもめげずにふらふらと立ち上がり、もう一度ミオンを指差す。

「と、とにかく。俺は正義の味方なので、誘拐された少女は連れて行かせてもらう。なあに、妨害しようとしない限りは、俺からも危害は加えんさ。……ところで」

 兜の中の視線が鋼に固定される。いや、そのように感じたというだけで、表情など全く窺い知れないのだが。

「む? んん? 騎士学校の制服、だよな? どうして誘拐犯の一味と……」

「見ての通り。話し合い(・・・・)の結果誘拐犯達は改心して、こうして人質を解放してくれる事になったんだよ。っつーわけで、正義の味方の出番はもう無くなったとこだ」

「……」

 兜の男は腕組みをして、考え込むような間を取った。「……こいつか。噂の問題児とやらは」とか、かなり小声で呟いた気がするが、兜のせいで声がくぐもっていたのでちゃんと聞き取れた自信は無い。

「……人質はもう解放されると?」

「ああ」

「ほう? ついさっき、お前の怒鳴る声と、その人質の少女の『見捨てないで下さい』という声を俺ははっきり聞いているのだがな。どうもお前の言う事は、そのまま信用できん」

「また面倒なとこだけ聞いてやがんなこのおっさん……」

 この変質者が来るのがほんの少し早ければ、こうして不審も抱かれなかっただろうに。せっかく誘拐に関しては解決したのに、またもや面倒に見舞われそうな予感に鋼はげんなりした。

「とにかく、候補生一人に任せきりにするわけにも、ここに置いていくわけにもいかんしな。その子と一緒にお前も来てもらうぞ」

「いやあ、あんたが通りすがりの変質者じゃないと決まったわけでもねえし……」

「だから変質者ではないと……! 顔を隠さないといけない事情があるのだ! 俺は誘拐された子の救出を頼まれている。ここで引き下がるわけにはいかんのだ」

 だったら最初からそう言えば良かったのに……。

 ――しかし、やはりそうか。

 あの兜はどう見ても騎士に関係のない一般人が持っている物では無い。このタイミングで人質救出を頼まれるとなると、この男は恐らくシシド教官の差し金だ。頼まれただけで人質の顔すら知らないから、ミオンを満月亭の娘だと勘違いしていると思われる。

 もしミオンの方を救出しに来た彼女の関係者であれば、さすがに彼女に声くらいかけるだろう。多分シシドはリュンの名前を知らないはずで、この男も人質の名前を知らないから『その子』としか呼べないのだ。

 ともかく、推測とはいえ状況がはっきりした事で、鋼は思わず顔をしかめた。

 この男と一緒に行けば、絶対に面倒な事になる。

 鋼としてはこの後、ひっそりとこの場を引き揚げ、この本拠には騎士学校の生徒など来なかったという事にしておきたかったのだ。騎士学校の制服姿の目撃証言が後で出て、学校側から問い詰められても自分達とは関係無いと言い張ればいい。人質を取り戻した謎の人物達は騎士候補の仕業に見せかけるために変装していたのでは? とか何食わぬ顔で言ってのける自信が鋼にはある。今日の事は寮の門限破りについて叱られる程度で済むはずだ。

 だがこのまま兜男に騎士学校のシシドの元にまで連行されてしまえば、言い訳は利かなくなる。セイランでは犯罪者相手に正当防衛で暴力を振るっても罪に問われる事は無いが、だからといって学校側が生徒に何の処分も下さないとは考えづらい。教官に止められていたにもかかわらず犯罪組織の本拠に押し入るという暴挙に出たのだ。これが学校側にどれだけ問題行動と見なされるか分からないが、もし退学など言い渡されようものなら目も当てられない。

「逃げようと計算を働かせている者の顔だな」

 のしのしとこちらへ歩を進めながら、兜男はこちらの心中を容易く見抜いてみせた。

 じっくりと考えている猶予は無い。そしてこの男が本当にシシドの協力者かどうかも確証はないので、逃げ出して後はこの男に人質を任せるというのも躊躇われる。

 ならば、残る選択肢は一つだ。

「っ!」

 鋼が決断した、まさにその瞬間。兜の男が突如踏み込んでくる。

 決断と男の急接近に、一切のタイムラグは無かった。完全にこちらを見透かしたかのようなタイミング。物騒な行動を起こそうとした鋼を察知し、先に取り押さえようと動いたのだ。

 その速度が尋常では無い。瞬時に《身体強化》を発動させた男の踏み込みを、今から避けるのは不可能に近かった。思考を挟む余地などもはや無く、本能は鋼に迎撃を選択させる。

 こちらも強化した身体能力で、伸ばされた腕を払いのける。残ったこちらの右腕は組織の下っ端から奪った長剣を現在も握っていた。鞘に納めたままとはいえ殴りつけるのも気が引けたので、兜男の体を持ち上げるようにその剣ですくい上げる。

 もちろん男は踏ん張ろうとした。だがこの場合、持ち上げる側がかなり有利と言える。どれほど強化しても体重は増加しないからだ。

 だから鋼は疑いなく、易々と持ち上げられるものだと思っていた。相手がいくら強化が得意でも、こちらだって相当に得意なのだから。実際は剣を持つ手にかかる重みに鋼は驚愕させられる事となった。

 ――重っ!?

 それでも構わず力を込め、鋼は無理やり男を押し飛ばす。それほどたいした勢いはつかず当然男は平然と着地してみせた。両者の間に再び少しの距離が空いただけだった。

 そうしてお互いが、どちらも戸惑ったように相手を見据えながら様子見を選ぶ。

 今度は男も不用意に近づいて来ないし、鋼も警戒のレベルを最大にまで引き上げている。

「……おいおいおい。本気で踏ん張って飛ばされるとは思わなかったぜ」

「ありゃ飛ばされて当然の状況だろ……」

 有利なはずの勝負を、強化された相手の筋力が想像以上で覆されかけた。恐らくはそういう事だ。

 凛の自力での《身体強化》より、少なくとも上。相手の技量を鋼はそう分析する。ふざけた格好をしているが、この兜男は鋼が今まで会った人間では間違いなくトップクラスの強化の使い手だ。

 ならば、魔術以外の要素はどうか。

「むぅ!?」

 今度は鋼から奇襲をかける。強化と純粋な体術、どちらも最大限に組み合わせた本気の一歩で懐に潜り込む。一般人はもちろん、多少戦い慣れしている程度の者でも消えたように錯覚するであろう、渾身の速度だ。

 もちろん馬鹿正直にスピードだけに頼り切った攻撃はしない。見切るのが困難であろうその速度の中で更に鋼はフェイントを織り込んだ。鞘に入った長剣で殴る素振りを見せながら、本命として右足での蹴りを叩き込んだのだ。

 目がいい。速い。力がある。そういった個々の強化性能がいくら高くても、それだけでは防ぎきれない攻撃だ。各身体能力がかなり優秀である事を完全に前提とした、その領域内での更なる駆け引きだ。これが通用するのならまだ楽だったのだが……。

 やはり、男は防いでみせる。

 フェイントにも反応したが、こちらの蹴りも見逃さない。蹴りに対して男も反射的に蹴りを繰り出し、互いの攻撃がぶつかり相殺する。強化で硬度すら高めた互いの足からは棍棒でもぶつけ合ったような鈍く重い音が辺りに鳴り響いた。

 驚いて攻撃の手を緩めるような真似はさすがにしない。防がれたなら次、それを避けられればまた次と、手足を用いて男に打撃を浴びせていくのだが、これがまた見事に思い通りに行かなかった。動きに緩急をつけ、フェイントも織り交ぜて、鋼はいまや本気で戦っている。なのに全く兜男のガードを崩せない。技術も強化も負けているわけでは無さそうだが、こちらがペースを握れるほど圧倒的に勝っているわけでも無いようだった。

 兜男も守るだけでなく、隙を見て反撃してくる。そのまま戦闘は高速の打撃が飛び交う乱打戦へと突入した。

「ちょ、な、なんでいきなり戦ってるのよ!」

 リュンの疑問の叫びを二人の耳は聞き流す。鋼も兜男も今戦っている相手の挙動に完全に集中していた。そうせずに勝てるほど甘い相手ではないのはもはや明らかだ。

「これで騎士候補とか、悪い冗談にしか思えんな……!」

「そういうお前も、ただの変質者じゃねえな」

「だから違うと言っているだろう!?」

 喋っているのが隙と思わせて、相手に誘いをかけているのだが、相手もそれを分かっているから乗ってこず、更なる会話で返す。

 そういった駆け引きが密かに展開されながら、殴り合いつつ声を掛け合う二人。拮抗した戦いだった。リュンはもはや口を噤み、息を詰めてその戦いを大人しく眺めている。バートにオルタム、ミオンも同様だ。

 唐突に始まった殺意だけは無い戦いを止められる者はこの場にはいなかった。



 ◆


「ヒナ。どう思いますか」

 余裕の無さを押し隠した表情で凛が日向に問いかければ、無機質な声音で答えが返ってくる。

「……魔力をこれだけ使って鋼がまだ倒せないなら、相手はかなりの強敵」

「はい。これ以上長引くのは危険かも知れません。……私が援護に行きます」

 凛の宣言は、この場で騎士候補達を守る味方が一人減る事を意味していた。雪奈が不安そうな顔をしたのも無理も無い。広間にはまだ組織の人員が何人も控えており、凛達騎士学校の生徒を遠巻きに見守っているのだ。

 この場を取り仕切っていいのか、凛は少しだけ悩んだ。指示を出し決定を下すのはいつだって『彼』の役目で、彼女自身はこうした事には不慣れだったからだ。

 だけど『彼』に関する問題で、《加護》を受けている凛が遠慮するなどそれこそあり得ない事だった。

「ヒナは皆さんを連れてこの場から先に離脱して下さい。私はコウと合流して、お手伝いを」

「……うん。それが妥当と思う」

 魔力活性化の気配により、凛は『彼』の居場所を間違えない。合流しようとして行き違うなんて事は起こり得ないから、言いつけを破ってこの場を離れてもそれほどの問題ではないように思えた。

「なあ。鋼はまだ大丈夫なんよな?」

 周囲には聞き取られないよう身を寄せ、騎士学校の面々にだけ聞こえる声で省吾が訊いて来る。

「長引くのは危険っちゅう事は、鋼は強いけど魔力少ないんやろ? わいは鋼の気配感じ取れやんけど、まだ全然無事なんか?」

 省吾なりに『彼』を心配してくれているようだ。凛はほんわかした気持ちになりながら、しかし一つ勘違いしている省吾に訂正する。

「コウは別に、魔力が少ないわけではありませんよ」

「あ、そうなん?」

 むしろ男性の平均を大きく上回る魔力量だったりする。『彼』が魔力をなるべく使わないのは全く別の理由からだ。

「あの人は、戦いとなるとちょっとだけ(・・・・・・)熱くなり過ぎるところがありまして。魔力を本格的に消費するような激しい戦闘を続けたり、本当の意味で命に危険が迫ったりすると、その……。手加減を忘れて、相手を殺してしまうかもしれず」

 実際は戦闘行為が付随していなくても、魔力を消費する行動というだけで『彼』の意識は研ぎ澄まされ、切り替わり始めるらしい。

「神谷君も戦闘モードがあるのね……」

「はい……」

 戦っている相手を殺すだけなら別に構わないとさえ凛は思うけど、『彼』の場合周囲の人間に巻き添えが出てしまう可能性があるのだった。より正確に言うと、巻き添えを厭わず戦うようになる。例えば攻撃する際、別の誰かを巻き込みそうだからやめる、という事を『彼』はしなくなるのだ。

 伊織の戦闘モードという表現は的を射ている。その時の『彼』なら、無力化された相手であっても自身の確実な安全のためなら、敵の息の根を迷わず止められるだろう。

 過酷な環境で培われた凶暴性と容赦の無さは、『彼』の内に確かに根付いているものだ。

 普段の『彼』はそういうのを気に病む性格なので、いつもは慎重にその凶暴性を封じ、自分を律している。しかし戦いが長引くような強敵に対し、いつまでその自制を保てるか。

「ヒナ。後はお願いします」

「ん」

 了承をもらい、目礼で皆に別れを告げ、凛はさっき『彼』とバートが行った通路に向かう。進路の付近にいた男達が必要以上に道を空けた。

 魔力活性化の気配が届いてから数分が経過していた。手遅れでない事を祈りながら、凛は広間を後にした。



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