29 人質救出
鋼の『頼み』は無事バートに了承され、何の憂いもなく案内された扉をくぐる。
まず目に入ったのは、適当に積まれた大小様々な木箱やタルだった。倉庫のような場所かと思い室内を観察するとすぐに違う事に気付かされる。倉庫には普通、鉄格子なんてものは存在しない。
位置的に不便でほとんど使われていない倉庫を、牢屋に改造してみました、というような部屋だった。
右の壁に面した一番奥まった場所にしっかりとした造りの鉄格子の牢があり、その左隣には木の格子で出来たやや簡素な牢がある。歪に空いた残りのスペースには、いかにも雑然と様々な物が放置されていた。木箱やタルならまだしも、足の折れた椅子だとか、粗大ゴミのようなものもちらほら見受けられる。
入室してきた鋼達に、びくりとした反応で鉄格子の中の少女が顔をあげた。意外にも知らない顔だ。隣の簡易牢に目を移してみれば、鋼の目的の人物はそちらにいた。満月亭の少女は憔悴したように項垂れ、こちらに対して顔も上げない。
そして彼女達と鋼の間には、最後の砦とばかりに障害が待ち構えていた。
「騎士学校の制服の少年に、バートか。……妙な取り合わせだね」
簡易牢の前に置いたタルに、ダンディな感じに髭を生やした小奇麗な黒髪の男が腰掛けている。
「……オルタム」
バートの呟きで男の名前は知れた。日本人に似た風貌だが、帝国系の血筋が入っているのだろう。
オルタムの言葉とこのやり取りで満月亭の少女も顔を上げる。鋼を見てぽかんとした表情になった。
「はてさて、私は一体どう判断すればいい? 我々に喧嘩を売ったという少年を、バートが捕縛して連れてきたのか。それともバート……。君が裏切って、その少年をここまで手引きしたのか」
「回りくどいやり取りは無しだ。その子は連れて行かせてもらう。ついでにその隣の牢の子も」
問答無用に鋼が殴りかからないのは、バートを呼び捨てにする事から闇ギルドでは上の地位にいる男なのだろうと推測したからだ。あるいは同格か。男もそこそこの実力者なのかも知れないが、重要なのはそこではない。組織の幹部なら人質以外にも用があるので、気絶させると後々面倒だ。
バートに最初話しかけたオルタムは、割り込んできた鋼に改めて視線を向けてきた。
「報告では三人組と聞いていたのだが。まさか、君だけ別行動かね? 無謀に思えるが、バートを味方につけているのなら自信過剰とも言えんか……」
「回りくどいのは無しと言っただろ。その子を助けに来た。素直に引き下がってくれると助かるんだが」
「そうもいかん」
オルタムが立ち上がり、手を背後に向かってかざす。
「私も多少、身を守るために魔術を嗜んでいる。これ以上近づけば彼女の命は保障できんよ」
近づこうとしていたのをやめた鋼を見て、オルタムがにんまり笑う。実際のところ躊躇したわけではない。魔力活性化の気配を感じたら即座に飛び出し、魔術の発動前にこの男を取り押さえる自信くらいはある。
何故か男が魔力を活性化させないので、もう少し話をする気分になっただけだ。というか、迂闊過ぎだろうこの男。魔法陣を展開させた状態で待機しているならともかく、その状態では強化が得意な奴なら先に距離を詰められると思う。多少と言うだけあってそれほど魔術は得意でなく、長時間魔法陣を待機させたまま交渉などをする自信が無いのだろう。
「ふふふ、待っていた甲斐があった。組織に喧嘩を売ったのははったりで、本当の目的はやはり人質救出ではないかと念のためここにいたのだよ。どうやら予想が的中したようだ」
「あんたら、その子を誘拐したと脅して、もう身代金は手に入れたはずだろ。最初から解放する気が無かったって事かよ」
「もちろんあるとも。君の態度次第だがね」
一瞬どうするか悩んだ――ように見せかけた鋼に、もう一押しとばかりにオルタムが続ける。
「そもそも最初から無謀過ぎたのだよ。君とその連れがいくら騎士候補にしては強いからと言っても、我々は組織だ。それもそこそこ規模のある、ね。首尾よく君が人質の娘を助け出せても、顔に泥を塗られた我々がこれから先も君を見逃すとでも? 我々は警備隊にすら影響力を持つ。そんな組織を相手に、個人が戦う事など出来はしないよ。抵抗をやめて、素直に諦める事だ」
言葉を重ねて相手の心を折ろうとしてくる。腕づくでなんとかしようとした、今までの組織の男達とは違う。交渉役か参謀役かは知らないが、そういう役割の幹部なのだろう。
なるほど確かに、魔法陣を待機させてもいないオルタムの脅し方は迂闊だが、ここで彼をねじ伏せたところであまり意味はないのだ。人質を連れ帰っても、面目を潰された闇ギルドからは延々と報復され続けるはず。
だからまあ、力で取り押さえず喋らせているのだが。
「……残念だよ、バート。君程の男が一体どういった取引や報酬でその少年の方についたかは知らないがね。君はもう少し、賢く立ち回れる男だと信じていた。いや、それとも。この自信過剰な少年の鼻っ柱を折ってやるために、味方になったフリをして彼一人だけを上手い事ここへ誘い込んだのかな?」
今ならそういう事に出来るのだよ? オルタムの表情ははっきりとそうバートに語りかけていた。裏切った奴をもう一度裏切らせようとは、中々ふてぶてしい奴である。
――そろそろ、頃合か。
手の中の携帯の、録画をやめる。場違いな小さな電子音が鳴り、オルタムが怪訝そうな顔をした。
「……? 部屋に入ってきた時から、それを持っていたな」
「あんた、携帯電話知らねえのか? 誘拐された子が確かにここに閉じ込められてた、ていう証拠映像だけ期待してたんだが。放っとくと誘拐犯しか言わないような台詞喋りだしたからな。笑いをこらえんのに苦労したぞ」
「な、に? さすがにケイタイくらいは知っている。しかしこの辺りの地区では使えないはずだ」
「通話かメールかネット以外の機能使うなら、圏外かどうかは関係ねえんだけど。こっちの奴はやっぱり、そういう細かいとこ理解し難いんだろうな」
録画というものをそもそもちゃんと理解しているか謎だが、自らが重大な失態を犯した事は分かったらしい。
「……今すぐそれを、壊したまえ。さもないと彼女の命は保障――な!?」
台詞の途中でオルタムが驚きの声をあげたのは、そのタイミングで魔力を活性化させたからだ。反射的に接近した鋼は、一切の反応すら許さず相手の腕を既に掴んでいる。この男は荒事は不得手らしいと、反応速度を見て確信を深めた。
「保障、なんだって? 続きを聞かせてくれよ」
「くっ……」
「おー、オルタム。俺からも一つ訂正してやる。俺がこいつの側についた理由は、取引でも報酬でもねえぞ。純粋に勝ち目がねえと思ったからだ」
離れた位置からかけられた暢気なバートの声に、オルタムは信じられないような目で再び鋼を見た。
「馬鹿な……。いくらなんでも、まだこんな少年が……」
「所詮ガキだとか学生だとか考えてると痛い目見るぜ? なんせそいつとその連れは、俺が谷にいた頃に知り合った奴らでな。騎士候補のガキ三人組としか聞いてなくて、俺もさっき直接顔を合わせるまで気付かなかったんだが」
オルタムを説得しだしたバートを鋼は意外に思う。援護はほとんど期待していなかったのだ。
「死の谷からの生還者? そ、そんなのが何故のんびり学生などをしているのだ!?」
「いや、冒険者になろうにも日本人だから色々制限がな……。騎士学校卒業しといたほうが便利なもんで」
「それで一流以上の冒険者の実力がありながら、騎士候補生に混じっているのというのかね。……なんて爆弾を我々は引き当てたのか」
案外あっさりと、オルタムは戦意を喪失したようだった。……バートの現在の実力のほどは見ていないが、相当に信頼されていたという事なのか。
警戒は残しつつも、オルタムから手を離し鋼は簡易牢に手をかけた。所詮は木製、強化の前には呆気ないものだ。容易く格子は鋼の手で折られていき、たちまち人一人通るのに十分なほどの穴が空いた。
目を白黒させて成り行きを見ていた満月亭の少女に、手を差し伸べる。
「よお。ついでみたいなもんだけど、助けに来たぞ。無事か? ――ええと」
そこで鋼は、気付いてしまった。
「……そういやお前、名前なんて言うんだ?」
「知らねえのかよ!?」「知らなかったのかね!?」
今更過ぎるにも程がある質問に、バートとオルタムが激しいツッコミを入れた。
満月亭の土地の権利書は商会で売り、その金を身代金として犯人達に渡したと店主から聞いている。その事を突っ込んで訊いてみると、オルタムはそこの商人がグルなのだと認めた。つまり市場に出てしまったように見せかけて、権利書はまだ組織が管理しているようなものだという。
それを持ち主に返し、鋼達にも以降手を出さない。その条件で、闇傭兵ギルドを潰さず見逃してやると提案すると、オルタムは顔を引きつらせた。
「……少し、調子に乗り過ぎじゃないかね。いくら強かろうが、本当に君に組織を潰すほどの力があるはずが……」
「ああ、ここで待ってたあんたはまだ知らねえのかな。とりあえずここに来るまでで三十人くらいは叩きのめしたぞ。この本拠に来る前にも二十人くらいか。闇傭兵ギルドってのは構成員が何人くらいいるもんなんだ? 百五十より下だったら、問題なく全滅させられるとは思うぞ」
「……」
顔の引きつらせ度を二割ほど引き上げて、オルタムはバートを見た。
「実際の人数は知らんが、大勢でかかっても勝てねえと下っ端が泣きついてきたのは確かに見たぞ。それに俺の部下の精鋭メンバー五人がかりでかかっても、こいつの連れ一人に負けたからな。戦うだけ無駄と思ってとっとと降参した。お前も傷が浅いうちにすっぱり諦めとけ」
「つーか、あんたに選択の余地なんてねえぞ。権利書を返せ、以降手を出すな。それが俺からの要求。受け入れられなかったら、そうだな……。この本拠の建物潰して帰るわ」
「……。さすがに、はったりだろう?」
むしろそうであってくれという情けない顔で、オルタムが鋼に視線を戻す。
「はったりなわけねえだろ。要求突っぱねるなら俺らに報復するつもりって事だから、当然そんくらいはしねえと帰れねえよ。魔術で片っ端から壊していって、一時間もあれば瓦礫の山に出来るだろうし」
「……我々は警備隊にも影響力がある。暴行や住居損壊の罪で、君を逮捕させる事だって出来るわけだが?」
「いやあんた、それはやめといたほうがいいぞ? 俺がもし逮捕されたら、正当な理由があったと言ってさっき録った動画提出してやるからな。警備隊に影響力持ってる貴族の依頼人とやらも、あれ見たら手の平返すんじゃねえの? 誘拐があった事実とあんたが関わってる事はもはや言い逃れが効かねえって分かるし。それでも見捨てられねえ自信があるならやってみろよ。そもそも子供三人に潰されるような組織をわざわざ守ってやろうって依頼人がいるのか、怪しいもんだが」
動画が無くとも脅迫状の現物が残っていて、人質だった本人が無事なのだ。証拠は十分揃っていて、それでも鋼達だけ逮捕されるほどに組織の権力が強いとは考えづらい。
がっくりと項垂れるオルタムと取引を成立させて、鋼は結局闇傭兵ギルドは潰さない事にした。
別に鋼達と無関係なところで活動してくれるならどうでもいいので、組織をきっちり潰す手間を思えばこれでいいだろう。少数の学生に好き勝手暴れられ最後は見逃してもらったとなれば、闇ギルドの威信は完全に失われるわけで、どうせそのうち勝手に潰れる。
「あと言っておくが。それでも性懲りもなく手ぇ出してきやがったら、二度目は無いと思え。関わった奴全員、二度と普通の生活が出来なくなる怪我を負わせてやる。……それでもし、俺の身内を死なせるような事態になってみろ。怪我じゃ済まさん。関わってなくても構わん。この組織にいた奴一人残らず殺してやるから、その覚悟で来い」
さらっと脅すつもりが、言っている途中で仲間が奇襲され死ぬ場面を具体的に想像してしまった。なので後半はかなりの殺気を滲ませて言ってやると、オルタムは瞳に恐怖を浮かべ、最大限に顔を引きつらせこくこくと頷いた。
と、いうわけで。
「これでまあ、ほとんどの問題は片付いたか」
「ねえ、あの、カミヤ君」
肩の荷が降りて安堵していると、横から声をかけられた。
声の主はさっき改めて互いに自己紹介しあった、満月亭の少女リュンである。
「……この子も、助けてあげてくれない? 私が連れて来られた時にはもうここにいて」
「ああ、元からそのつもりだぞ。鉄格子はちょっとばかし手こずりそうだから、後回しにしてたが」
隣のしっかりした牢には、部屋に入った時最初に見た少女が今も閉じ込められている。リュンと同じく金髪だが、彼女のやや暗い色合いと違い、こちらの少女はかなり明るい色だ。体型は小柄な部類で、年齢的には十代半ばくらいと思われる。
助けてもらえると察して、少女が期待に満ちた眼差しを鋼に送ってくる。ふんわりした雰囲気の可愛らしい少女だ。それは結構な事だが、それより何より、さっきから鋼はあるモノがずっと気になっていた。
少女の頭上である。
髪の毛の隙間から、ちょこんと飛び出ている三角形の物体がある。
どう見ても耳なのだが、普通耳というものはあそこまで存在感をアピールするほどの大きさはない。そもそも顔の横についているはずではないのか。というか、三角である。
現実を認めるなら、それは狐の耳に見えた。
そして座っている足元、少女の背後の床にはふさふさした金色のものが横たわっているような。もしやあれは少女から直接生えている、狐の尻尾ではないのか。
存在は一応、知っている。ただし目にするのは初めてだ。恐らく少女は獣人だ。
「あ、あの……?」
「ああ悪い。獣人って初めて見たから」
地球では人種が違ってもせいぜい肌や髪の色、顔つきが異なる程度だが、ソリオンでは人種の差異はもっと特徴的だ。通常の人間種族から大きく離れた特徴・特性を持つ人種は、厳密には人間ではないという意味で『亜人』とひとまとめに呼ばれており、土地によっては差別や迫害の対象となる。
獣人は最もポピュラーな亜人種であり、人でありながら獣の身体的特徴も持つ人種である。見ての通りこの少女は、その外見を備えている。
「……俺はまだ、セイランの法律にはそれほど詳しくないが。この国じゃ人身売買は禁止されてるはずだよな。まさか獣人に関しては認められてたりしねえよな?」
「しねえな。だがまあ、そういう商売が無いわけでもねえ。トリル方面から人間をさらってきて、この国を通って帝国に売りに行く奴隷商人なんざ案外いる。もちろん奴隷連れて通るだけでも、この国じゃ違法だが」
バートが軽く教えてくれた。違法を承知で活動する、アングラな商売人はどこにでもいるという事だ。
「この子もそういう奴らに売り払うつもりでさらってきたのか?」
「多分そうだが、俺もよく知らん。オルタム、そういうのはてめえの管轄だろ」
「……私も別に、積極的に人さらいをするよう指示しているわけではないのだがね。この国では人を売るのは難しいから。間抜けな下っ端に任せて足がついてはいかんから、商談の場に私が出たりするだけだよ。どこでさらって来たのかも私は知らん。連れてきた者達が、この娘を『精霊憑き』だとか騒いでいたのは知っているがね」
多少緩んでいた鋼の警戒心が、その単語を聞いて瞬時に引き締まった。
「……嘘だろ?」
「さて、どうだろうね。私も違うと思っているが、断言は出来ないな」
檻の中の獣人の少女を改めて見下ろす。隠し切れないこちらの緊張が相手にも伝わり、怯えた様子で首を横に振っていた。
精霊憑き。
そう呼ばれる人間が、こちらの世界では稀に生まれる。鋼も知るそれは才能の名だ。まるで精霊に愛されているかのように、人の身に余るほどの圧倒的な魔術の才を持つ者をソリオンではそう呼ぶのだ。
ただの『常識外れの天才』程度の意味ではない。精霊憑きは魔術全般に適性が高いが、特に一つの方面に対しては異常な才能を発揮する点が有名だ。例えば炎系魔術に異常に特化した者は『炎の精霊憑き』と呼ばれたりする。特化した分野の才能がどれほど非常識かを簡単に説明すると、これはニールの受け売りだが一国の軍事力に影響を与えられるレベルだという。
何故そのような異常過ぎる才能が宿るのか判明していないが、精霊憑きが生まれる確率は非常に少ない。同じ時代、一つの国に現れるのは二人か三人程度だとか。それほどに希少で、皆に畏怖される存在が精霊憑きというものだ。間違ってもこんな所に放り込んで拘束していい存在ではない。鋼が「嘘だろ」と思わず訊ねたのは正常な反応である。
「まあ、ほんとに精霊憑きなら大人しく捕まってるわけねえしな……」
それでもなんとなく、鋼は身構えてしまう。もしも本物であれば油断している鋼を殺すくらい屁でもないだろう。相手が己の命を握っているかもしれない可能性は、たとえ可能性だけでも十分警戒に値する。
よく見れば、リュンとは違いこの少女は手足までも金属製の錠で拘束されていた。精霊憑きだと騒がれる程度には特殊な、攻撃力を備えた魔術を少女が使うのは間違い無さそうだ。
「お前、名前は?」
「……ミオン、です……」
ぽそりと狐娘が答えた。
「そうか、ミオン。ここで会ったのも何かの縁だ。お前もついでにそこから出してやる」
「あ……、ありがとうございます!」
ぱあ、と一転して明るい表情となる囚われのミオン。警戒する必要など微塵も無さそうな、屈託の無い笑顔だった。鋼も安心して肩の力を緩めた。
「まあ、もう好きにしてくれたまえよ……。君が誰を連れて行こうと、今の私には止められん」
オルタムの台詞を聞き流しながら、鋼は鉄格子に手をかけた。それにバートが呆れた声をかける。
「おいおい、一応それ鉄製だぞ。素直に鍵を探したほうがいいんじゃないのか」
「ま、物は試しって事で」
挑戦した事はないが、なんとなく力ずくでこじ開けられる気がしている。
――問題があるとすれば。
鋼は普段、《身体強化》にあまり魔力を使わない。強化というのは必要な分だけあれば十分で、それ以上の筋力を得ても無駄どころか害にすらなり得るからだ。だが鉄を曲げるとなれば、求められるのは純粋な怪力だ。普段は使わないレベルで強化に魔力を注ぐ必要があるだろう。
唯一心配なのは、その魔力を察知して要らん援軍が来ないかという事だ。鋼の戦友達は鋼の魔力には人一倍敏感で、理由不明だが《加護》の最中はその察知能力は更に跳ね上がる。
――外に漏らす魔力活性化の気配を、なるべく殺す。
それは《身体強化》でだけ鋼が成功させられる、そこそこ高等な魔術のテクニックだ。さすがにこの室内くらいの距離の人間に隠し通すのは無理だが、活性化の気配が広範囲に飛び散らないようする程度は可能だったりする。それに意識を割きながら、鋼は体内で待機状態で留めておいた《身体強化》に再び魔力を注ぎ始めた。
この時、魔力の制御に気を取られていた鋼は気付かなかった。鋼の魔力活性化の気配に、目の前のミオンが怯えるように体を揺すった事に。
鉄格子を掴む手にぎりぎりと力を込めるが、それでも足りず。鋼はミオンの反応に気付かないまま、魔力光が溢れるほどの魔力を本格的に解放した。
その途端。
「ひゃあああああっ!!!!」
ミオンが絶叫した。
だけでなく、ただの一瞬で彼女の両肩あたりに一つずつ、魔法陣が発生する。それはかなりの速度を誇る戦友達の魔術行使を見慣れている鋼にすら、思考の猶予を許さない程の早業だ。
驚くこちらに対し、二つの魔法陣は一切の容赦なくその役割を果たす。
光り輝く二つの円から、鋼に向かい二条の稲妻が襲い掛かった。