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ソリオンのハガネ  作者: 伊那 遊
第一章・新入生の問題児たち
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 8 街中の襲撃

 ――標的のニホン人が、同じ学園の生徒達と共に帰路についている。

 唯一の障害だった『銀の騎士』とは先ほど別れた。手を出すなら今を置いて他にはない。

 慎重に様子を伺い、学園までのルートを先回りする。待ち伏せながら、人ごみを挟み遠目に観察を続けた。


 ――ニホン人の女ってのは、やたらと上玉ばかりだな。


 男はそんな感想を抱く。標的の他には男一人に女四人。好みの年齢より少しばかり若いが、生意気そうなのと胸がでかいのの二人の女はかなりの美少女だった。あとは地味な少女やら子供みたいな奴やらいたりもするが、女四人連れで街を散策とはいいご身分だ。一緒の男二人には、依頼に関係なくとも何か不幸をプレゼントしてやりたいところである。

 とはいえ標的はその内の一人だ。少女達と雑談しているその少年に、せいぜい今だけは楽しんでおけと呪詛を送る。その楽しい時間はもうすぐ終わる。男が、終わらせる。

 魔力の活性化はぎりぎりまで控えないと他のセイラン人に気取られる恐れがある。それでも予めやっておける準備として、術式を繰り返し想起し、イメージを固める。あとは魔力さえあれば魔術が発動する状態だ。これを維持しつつ、あとはただ待てばいい。

 そして機が来た。

 標的がこちらを見、そして男との間に空白が出来る。

 その瞬間魔力を活性化させ、組み立てていた魔術を解き放った。

《火矢》。

 炎を矢のようにして標的へと撃ち出す攻撃魔術だ。標的の少年は集団の先頭にいて、障害物は何もない。

 文字通り矢の速さで炎が少年に迫った。その顔にはまだ驚きすら浮かんでいない。それだけこの魔術行使が早業だったのだ。魔力を少なめにし威力を絞ったため、通常よりも速く発動している。

 これは当たる。

 その確信と共に結果を見届けた男は、次の瞬間には脳裏に無数の疑問符を浮かべる事となった。

「……は?」

 意味が分からない。理解不能の現象がたった今、目前で起きた。

 混乱し始めた男の脳が、今見た映像をもう一度繰り返す。見たままを素直に表現しよう。



 ――胸のでかい少女が、瞬間移動した。



 ◇


 想定外の不意打ちに、驚かなかったわけではない。

 それでも迫る脅威に対して体が硬直してしまうような、平和の中だけで生きてきた人間では無かった。さすがに日本に戻って二年が経っているとはいえ、怪しい人影を見つけた時には無意識に《身体強化》の準備も始めていた。

 前に落ちた異世界は、その程度の心構えなく生き残れるような甘い場所では無かったのだ。

 同じタイミングで警戒していた凛が動くのを肌で感じ取る。だから鋼は炎の弾丸が迫ってくるのに対し、何もしなかった。安心してそれを見守っていた。


 目の前に割り込んできた影が、片手で炎を握りつぶすのを。


「は?」「え」「へ?」

 省吾・有坂・片平が、三者三様の戸惑いの声をあげる。こちらを狙う危険が他に無いか周囲に注意を向けながら、鋼はついでに三人の様子も見守っておく。

 省吾と片平が呆気にとられた顔で凛を見ており、次にさっきまで凛が立っていた場所へ何故か視線を移してから、その場所と凛を戸惑ったように見比べる。瞬間移動したわけでもあるまいし、なんとも大袈裟なリアクションだ。

 有坂のほうはただじっと、硬い表情で凛を見つめていた。

 ちなみに日向は目をぱちくりさせてこちらを見ていた。……誰に言い訳するわけでもないが、こんなでも一応こいつも共に地獄を生き残った仲間である。三人中一人だけ襲撃に対応できていないこの状況だけを見れば、残念な子に見えるかもしれないが。

 大丈夫だと視線で日向に伝え、物騒な魔術を仕掛けてきた相手を見据える。通りを行き交っていた人達も足を止め、一部は襲撃者を指差し騒ぎ始めていた。

 黒ずくめの人物が逃走に移った。小さな路地の奥へと駆けて行く。

「……捕まえてきます」

 その背中を睨み、凛がぼそりと呟いた。

「向こうも明らかに殺す気は無かった。やりすぎるなよ?」

「はい」

 短い返事。そして。

 凛は先程と同じように、《身体強化》を体に宿して動いた。上昇したスピードを生かし襲撃者を追いかける。彼女の速度と比べれば、逃げ切る気がないのかと疑うほど襲撃者の足は遅い。

「は、はやっ!? え、うそぉ!?」

 省吾がその台詞を言い切る前に、凛の姿はとうに路地の向こうに消えていた。省吾の素っ頓狂な悲鳴は魔術をよく知らない日本人ならではだろう。実際あの襲撃者が放った炎の速度より、凛が走るほうが速いのだ。

 逃げる際の《身体強化》も相当下手なようだったし、あの人物の正体はあまり腕の良くない魔術師か、そのなりそこないといったところか。だから安心して凛一人に任せられた。

 凛が視界から消えてから十秒ほどだろうか。その間魔力の波動がびしばしとこちらまで届いていたが、ほどなく彼女が路地の向こうから現れた。ずるずると先程の黒ずくめを引きずっている。

 ついさっきとは違う意味で、にわかに場が騒然となる。

「軽く痛めつけた程度で、まだ意識はあります。どうしますかコウ」

 鋼の前まで戻ってきた凛が、襲撃者を冷ややかに見下ろしながら訊いてくる。さすがに基本弱気で人見知りな彼女でも、完全な敵対行動をとった者に遠慮を示すほど甘い性格はしていない。

「お疲れ。まあ、ひとまずは普通に訊いてみるか。襲ってきた理由を」

 (うめ)き声をあげ(うずくま)る人物の、フードが取り払われた。

 現れた男の顔に鋼は思わず顔をしかめる。昨日今日でもう三度は見た、昼にクーに睨まれ退散した四人組の一人だったのだ。

「コイツ、あの店にいた奴らの一人じゃない!」

「……というか、わいは何がどうなってこうなったんか、よう分かってないんやけど。いきなりなんや、火の玉みたいなん撃ってきたんよな?」

 有坂が怒りの声をあげ、省吾は困惑気味に確認してくる。男は息も絶え絶えで、いまだ受け答えできる状態では無さそうだ。

「ああ。炎を撃つ魔術……《火矢》とかいう奴だったか? 死ぬような威力じゃ無かったとはいえ、人に撃っていいもんじゃねえのは確かだな」

「意味分かんない。日本で言ったら刃物持った男に街中で襲われたようなものでしょ? さっきの八つ当たりにしてもこいつ頭おかしいわよ」

「……それにしても、なんでこんなボロボロなん? 村井ちゃん何やったん?」

「その、風の魔術で少々全身を滅多打ちに……」

 どこか恥じ入るように凛が告げる。可愛らしい表情ではあるのだが、台詞が物騒すぎて何かもう台無しだった。訊いた省吾も顔を引きつらせている。

「まあいいさ。話が出来るようになるまで少し待つか」

「すいません……。もう少し、手加減すれば良かったんですが」

「ルウちゃんの風は殴るより威力あるもんねー」

 日向が明かした凛の魔術の攻撃力に、有坂と片平も納得したように、あるいは哀れむように倒れる男を見下ろした。

 よせばいいものを男が再び魔力を活性化させる。愚かな行為だとしか言いようがなかった。

「畜生……っ! クソがぁっ!」

 まだ自身のダメージも抜けていないのに、男は叫んで手をかざす。既に囲まれ目撃者も多数いるこの状況で、まさかまだ逃げられる目があるとでも思ったのだろうか。

 不意打ちにすらなりはしない。男が鋼に放った《火矢》はまた、凛が横から掴み取ってしまった。

「……せっかくコウが、あなたみたいな人相手でも穏便に済まそうと回復を待ってくれていたのに、それですか。慈悲をかけてもらっている立場なのだと理解できてないんですか? 『これ』を返して差し上げれば、さすがに理解してくれます?」

 今度は握り潰さず、軽く握った凛の手の中には男が放った《火矢》が留まっていた。それを示し、一段低いトーンで凛が無感情に呟く。

 いかん。多分、これはキレる一歩手前だ。

「なっ、なんだそれ! どうやって俺の魔術を掴んでるんだよ!?」

 凛の手中で炎が大きさを増すと、わめいていた男は真っ青になり硬直してしまった。その燃え盛る手が少しずつ近づいてくるのだから、嫌でも理解出来た事だろう。己の立場というものを。

 とはいえ、まさかそのまま男を燃やしはしないだろうが、これ以上は周りの目もある。本当に脅して何かを吐かせるにしても、そういった役目を凛に押し付けたくは無かった。

「……ルウ」

「はい」

 鋼の一言で即座に《火矢》は握り潰され、火の粉を飛び散らせながら消え去った。

 張り詰めていた場の雰囲気が一気に弛緩する。省吾達だけでなく野次馬達もほっと胸を撫で下ろしていた。

「畜生……、こんなの聞いてねえぞ。ニホン人は魔術が使えないんじゃなかったのかよ……」

「さすがにもう、抵抗する気は無いと思うが。一応言っとくぞ。次逃げようとするか魔術を使おうとしたら、足を片方折るからな」

 鋼の宣告に顔を硬くさせ、僅かに頷く男。

 やがてすぐに街の警備兵が駆けつけてきて、この場はなんとか収まったのだった。




 三十分ほど後には、鋼達六人の姿は学長室にあった。

 警備隊からの連絡でさきほどの魔術による襲撃はすぐにパルミナ騎士教育学園の知るところとなり、帰ってきて早々呼び出しを受けたのだ。

 まさか入学式で長話をしていた学園の最高責任者と、翌日にこうして顔を合わせる羽目になるとは人生何があるか分からないものだ。ラガートン学長は眼鏡をかけた金髪のおじさんで、あまり厳しくは無さそうな人だった。並べられた椅子に促されるまま着席した鋼達は、襲撃の際の状況の説明を求められ、訊かれるままに答えている。

 もっとも受け答えするのはほとんどが鋼だ。

「うーん、なるほど。直前に昼食をとっていた店で、その男も食事していたのだね?」

「ああ、いや、はい。そうです。入学式の日も、同じ店で出くわして、妙に睨まれましたね」

 敬語すごい不自然だよ、と日向が笑いをこらえる表情で見てくるのを、うるせえ、と無言でちらりと睨んだりしつつ。慣れない敬語でどうにかこうにか鋼は話していた。

 室内には鋼達と学長以外にも、四人の人間がいる。

 一人はかなり背の高い赤毛の若い男性で、学園で剣術の授業を教えているマイトック・シシド教官だと紹介を受けている。小難しい顔で腕を組んで、ずっと無言で室内の会話を聞いている。

 もう一人も学園の教師で、こちらは三十くらいに見える女性だった。魔道学者のシギリー・ペイル・クオンテラだそうだ。魔術師とその役職がどう違うのか鋼は知らないが、つまり魔術の授業の担当教師らしい。

 後の二人は街の警備隊の人間だった。これは日本でいう警察の役目を(にな)っている組織だ。

 凛が路上で襲撃者を無力化した、あの後。

 鋼達は通報を受けてやってきた警備隊の兵士に襲撃者の男を引渡し、後で話を聞きにいくからと言われるまま一旦学園へ戻ってきた。すぐにこの二人が派遣されてきて、学長と二人の教師の立会いのもと、事情聴取のようなものをここで受けているわけである。

「そういや、……そういえば、襲い掛かってきたあの男にそれまでに会った時、いつも他に三人の男がいたんですが」

「四人組だったという事かね? 昨日も今日も、その三人は同じ顔だった?」

「同じ面子です。剣とか斧とか、持ち歩いてたんで冒険者か傭兵だと思ってたんですが」

「ふーむ……」

 受け答えの相手はだいたい学長で、警備隊の人間は時折、もっと細かい部分を横から訊いてくるだけだった。主導権を握っているのはどう見てもラガートン学長で、警備隊よりも権力的に上、という事なのだろう、恐らく。

 警備隊二人の内、年かさの男の方を見て学長が訊ねる。

「捕まえた男の他には、周囲に怪しい人物などはいなかったのかね?」

「目下、確認中です。ただ襲撃者が一人だったのは通行人の証言でも一致していますので、その三人については分かっても話を聞くだけになると思われます」

「そうか。それは仕方が無い。ただ、その三人が捕まった男の仲間だとしたら、報復が少し怖いね。その三人の素性についても確認を頼むよ」

「了解しました」

「他に訊きたい事はないかね?」

 もう鋼もあらかた話し終えたのを見て取って、学長が最後に確認をとる。警備兵の若い方の男がちらりと興味の視線を凛に向けたのだが「いえ、十分です」と年かさの方が答え、退室する旨を告げた。

「賊の逮捕、ご協力感謝します。それではこれで、私どもは失礼します」

「うん、ご苦労」

 ご協力感謝します、の部分は年かさの警備兵も凛を見て言っていた。明確に自分を見据える視線に二度晒された凛が、かちこちに緊張しながら小さく頷くのが横目に見え鋼は笑いそうになってしまう。

 賊を捕らえた時の勇ましさが、その半分でもこの人見知り少女に普段からあれば。無い物ねだりだとは分かっていても、思わずにはいられない。

 学長の労いを受け、警備隊の二人の男は退室して行った。

「君らも災難だったね。怪我がなくて本当に良かった。君が皆を守ったそうじゃないか?」

「あ、いえ……。なにぶん、咄嗟の事で……」

 居心地が悪そうに小さな声で答える凛。もっと堂々と胸を張ってくれたほうが、鋼としても嬉しいのだが。凛がそんな調子なものだから代わりに鋼がほとんど事情聴取に答える羽目になったのだ。警備隊の人間に『あの少年今回の事件で別に何もしてないのに、なんで六人の代表みたいな顔して答えるんだろう?』とか思われたかもと想像すると、軽く死ねる。

「君――ムライ君と、そちらの彼、カミヤ君と、カガミ君は同じ場所に落ちた『異界の迷い子』――そちらでいう『帰還者』なんだってね。以前こちらの世界で、魔術を習った事が?」

「あ、はい……少しだけ」

 謙遜も度が過ぎれば場合によっては嫌味になる。彼女の実力を知る鋼からすれば『少しだけ』というのは悪い冗談にしか聞こえない。

 完全に悪気が無いのは分かっているので、凛にはもう少し自信をつけてもらえればと鋼は常日頃から思っていたりする。

 学長も苦笑を浮かべた。

「謙遜しすぎるのはニホン人の悪癖だ。見た人の話では《火矢》を素手で掴んだそうじゃないか。私も魔道全般に通じているとはとても言えない人間だが、それが高度な技能と複雑な術式によってなされた事くらいは分かるよ」

 なんと答えていいか分からず、凛は俯いてしまった。

 全くもう、見てられない。口を出したい。だがいつもそうやって甘やかすから、いつまで経っても彼女は人見知りなんだと自分に言い聞かせ、鋼はなんとか耐え抜いた。

「見た事の無い魔術だった、という話がちらほらと出ているみたいでね。良ければどういった原理なのか、教えてくれないかい?」

 顔を更に硬くした凛に、学長は慌てたように手を振った。

「ああ、別にその内容を触れ回ろうというわけではないよ。生徒の習得している魔術がどんなものか知りたいというだけの、私個人の興味に基づいた質問だ。答えたくないものを無理やり訊き出そうという気は、誓って無いからね?」

 数秒ほど硬直してから、凛は鋼のほうへちらりと視線を寄越した。

 ……本当に。どうしていつもいつも、判断に困るとこちらを見るのか。

 内心でため息をつきながら、よくそうするように、お前の好きにすればいいと視線を送ってやる。果たしてそれだけで都合よく意図が伝わっているのか、本当のところは鋼にも不明だったりするが。「言え」とか「言うな」とか別の意図で伝わったとしても、それは彼女が受け取りたいように勝手に受け取ったという事なので、まあ問題は無いだろうと軽く考えている。

「その、特に複雑な術式というわけでは、ないです……」

 凛は話す気になったようだった。なんだかんだで魔術に関しては一家言あるような奴なので、自分の術式を解説できるのは嬉しいのだと思う。

「《圧風》と《防熱》が使えれば、誰でも出来ます。手に《防熱》をかけておいて、その上から《圧風》で空気圧の膜をまとわせるんです。出ていかないように調整するのは少し難しいですけど、隙間なく空気圧で覆ってしまえば炎を掴んで固定できます。そのままだと燃え尽きてしまうので、私の場合はそこに《空調》で周りの酸素を流し込み続けて燃やすことで、手の中に固定し続けました」

 風系適性の高い魔術師にとって、風圧を操る《圧風》はかなり基本的な魔術だ。炎系魔術師にとっての《火矢》のようなもので、風系攻撃魔術では恐らく一番難易度が低い。

 だがその応用範囲は広く、非常に奥が深い術式でもあった。《圧風》は凛が最も得意とする魔術で、襲撃してきた男を無力化させた『風のパンチ』の正体もそれだ。

「……ふむ」

 流れるような解説に、場が奇妙な静まりを見せる。学長が神妙な様子で魔術教師に訊いた。

「クオンテラ君。彼女の言った通りに実践すれば、他の者でも同じ芸当は可能かね?」

「《火矢》を素手で払うくらいなら、魔術師志望の上級生にも出来ると思いますが……。掴んで固定となると、それなりに練習が必要でしょう。《空調》も使って燃やし続けるとなると、更に難易度は上がります。生徒の中でも出来るようになる者が一人か二人、出ればいいほうかと……」

「そこまで難しいのか」

 学長が驚き、シシド教官も目を瞠っている。

「何度か挑戦して、一度だけ成功すればいい、というものではありませんから。三種類の魔術の併用が、咄嗟に危なげなく出るだけでも驚きなんです」

 実際は《火矢》を掴むため《身体強化》も同時に使っていただろう。この場で鋼も言いはしないが。

「なんとまあ、それは」

 魔術の教師を驚かせるほどの技量の持ち主に視線が再び集まり、凛は怯えたように体を硬直させる。

 つい鋼は視線からかばうため、凛の前に出そうになった。学長の様子がもっと険しいものだったならそうしていただろう。

 実際は険しいどころか、学長が浮かべたのは穏やかな笑みだった。

「将来が楽しみな生徒じゃないか。魔術や剣術、人の持つ技術が人を助けるというのは、教育者として胸がすく話だね。カミヤ君とカガミ君も、同じくらい魔術を修めているのかな?」

「いやいやいや」

 つい敬語も忘れて鋼は日向と一緒になって手を横に振った。

「あー、ルウ、じゃなかった、凛の奴と一緒にされちゃ困ります。それはまあ、ただの日本人よりは俺もこいつも、魔術に通じてますが。こっちの凛はもうなんというか別格なんで、そこんところ勘違いしないでもらいたいですね」

「私達《空調》なんて使えません……」

「ははは、覚えておこう。さて、関係ない話ばかりで悪かったね。君達に魔術を放った男については、警備隊が適切に処理するだろう。後は彼らに任せなさい。男の仲間からの報復がもしあったとしても、学園が可能な限り君達を守ると約束する。安心して勉学に励みなさい」

「はい」

「カミヤ君」

 これはもう帰っていいのだろうかと思っていたところに、何故か名指しで鋼が呼ばれる。

「私の個人的な意見だけどね。君はムライ君を別格で、一緒にされると困る言ったが。そういう言い方をすべきではないと、私は思う。最初から線を引いて区別するのは、追いつくのを諦める言い訳にもなってしまうからね。これから努力を重ねてムライ君と同じ事が出来るようになる可能性も、ムライ君とは全く違う分野の魔術師として大成する可能性も、君の中には眠っている。君が魔術師志望かどうかはこの際、別の話としてね」

 君達も、と学長は言って、残りの面々を見やった。

「人はたくさんの可能性を抱いて生まれてくる。才能があると言われる者には目に見えて分かりやすい道が用意されているだけで、誰にだって無数の未来は広がっている。進みたい未来を見つけ、なりたい大人になりなさい。学園はそれを手助けする場所だよ」

 穏やかに笑い学長はそう語った。



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