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『神になるには、遅すぎた』 ―誰にも求められなかった男の創世記―  作者: 凡夫 成


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8/8

Episode 1-7 「眠るように」

いつも読んでいただきありがとうございます。

『神になるには、遅すぎた』は、異世界転生・国家運営・ダークファンタジーを軸にしつつ、“人間性の変化”をテーマに描いています。

主人公は決して善人ではありません。

ですが、悪人とも少し違います。

長い時間の中で、人が何を失い、何を残すのか。

そんな物語として楽しんでいただければ嬉しいです。

それでは本編をどうぞ。


四十年の月日が流れていた。


かつて小さな集落だった“ハザムの庭”は、今や巨大な国家へ変わっている。


石壁に囲まれた都市。

整備された街道。

混血種たちの市場。


人と魔物が共に歩く光景は、もはや珍しくなかった。


人々は彼をこう呼ぶ。


――ハザム。


建国王。

混血の祖。

灰神。


その名を、本名で呼ぶ者はもうほとんどいない。


「……また増えたな」


高台から都市を見下ろしながら、ハザムは呟く。


隣にはユリアがいた。


白髪が増え、顔には深い皺が刻まれている。


歩く速度も遅くなった。


だが瞳だけは変わらない。


静かで、どこか懐かしい色。


「変わらないね、ハヤマ」


ユリアが小さく笑う。


ハザムは答えない。


自分だけが変わらない。


その事実に、最近はもう驚きもしなかった。


後ろから足音がする。


「ハザム様!」


少女が走ってくる。


淡い茶髪。


少し吊り気味の目。


年齢は十六ほど。


名前はクメル。


数年前、疫病で死にかけていた孤児だった。


全身が熱に侵され、あと数日も持たないと言われていた。


だが。


ハザムが“命を与えた”。


その日から、クメルは生き延びた。


普通の人間より少し生命力が強い代わりに、ときどきハザムと感覚が繋がる。


「また書類放置してますよね?」


クメルが書類を押し付ける。


「あとでやる」


「昨日も聞きました」


「気のせいだ」


「絶対違います」


ユリアが笑った。


「なんか、昔の私みたい」


「どこが?」


「ハヤマに文句言ってるところ」


クメルは首を傾げる。


「?」


ユリアはそれ以上言わなかった。


ただ、少し優しい目でクメルを見る。


その時。


背後から、低い声が響いた。


「東部の鎮圧、完了しました」


空気が少しだけ張る。


黒い外套を羽織った男が、いつの間にか後ろに立っていた。


長身。


鋭い目。


だが口元だけ、どこか軽薄さが残っている。


クメルが少し顔をしかめた。


「……いつ見ても怖い」


男は気にした様子もない。


静かにハザムへ頭を下げる。


人々から“黒騎士”と呼ばれる側近。


ハザムに最初に仕える者。


そして。


誰も知らない。


この男が、かつて“勇者カズキ”と呼ばれていたことを。


ハザムは短く問う。


「死者は」


「反乱兵のみです」


淡々とした声だった。


まるで天気でも報告するみたいに。


クメルが小さく呟く。


「……ほんと嫌」


黒騎士は視線だけを向ける。


その瞬間。


ほんの一瞬だけ。


ハザムの脳裏に、昔の笑い声が蘇った。


『先輩、遅いっすよ』


だが、それもすぐ消える。


もう遠い。


あまりにも遠い。


その時。


視界の端に文字が浮かぶ。


> 《感情同期率:82%》


《接続劣化》


《生命反応 低下》




ユリア。


最近ずっと表示されている。


ハザムは、見ないふりをしていた。


ユリアは都市を見下ろす。


「大きくなったね」


「ああ」


「最初、森しかなかったのに」


「……そうだったな」


最近、思い出せないことが増えた。


最初の焚き火。


最初の恐怖。


最初の孤独。


全部、少しずつ遠くなっている。


ユリアがぽつりと言う。


「ねぇ、ハヤマ」


「なんだ」


「まだ、怖い?」


ハザムは答えなかった。


何が怖かったのか。


もう曖昧だった。


ユリアは静かに笑う。


「そっか」


それだけ言って、ベンチへ座った。


陽射しが暖かい午後だった。


クメルが書類を抱えながらぼやく。


「ユリアさん最近ほんと寝てばっかですね」


「歳だろ」


「最低」


ユリアが笑う。


その笑い声は、昔よりずっと小さい。


風が吹く。


その時だった。


クメルが顔を上げる。


「……ユリアさん?」


返事がない。


ユリアは目を閉じたまま、動かなかった。


穏やかな顔だった。


まるで。


少し眠っているみたいに。


視界の端に文字が浮かぶ。


> 《感情同期 解除》


《個体反応 消失》




クメルが息を呑む。


「……え?」


黒騎士は黙ったまま立っている。


ハザムも、動かなかった。


白髪。


皺。


細くなった手。


変わってしまった姿。


だが最後まで。


どこか懐かしい女だった。


風が吹く。


遠くで、子供たちの笑い声が聞こえる。


世界は続いていく。


ユリアだけが、静かに止まっていた。


その時。


ハザムは初めて理解する。


自分だけが。


もう、人の時間の外側にいることを。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

少しずつですが、主人公自身も“人間”から変わり始めています。

この作品は、戦いや能力だけではなく、

「世界を作る側になった時、人は何を失うのか」

を描いていけたらと思っています。

よければ感想などいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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