5-8 ネコ戦士、シチューを食べる
村に戻ると、三人娘たちがちょっとしたアクション付きで、私がモモイロヒヒのオスと対峙した時のことを村の人たちに話し始めた。
「…でねっ、”その木よりこっちに来たらダメにゃ。来たら倒すにゃよ”って、静かだけどすごい迫力でモモちゃんがそう言ったら、モモイロヒヒのオスはすっ飛んで逃げてったの!」
エマが私のマネで”にゃ”をつけて話すの、かわいい。
私がそう思ってふっと笑うと、焼き肉屋台のジンさんが
「おっ、モモちゃん、ニヒルな笑みってやつかい?」
と、からかってきた。
「違うにゃ!エマが”にゃ”をつけて話すのがかわいいにゃって思って笑っただけにゃよ」
私がちょっと頬を膨らませてそう言うと、
「え?かわいい?私も”にゃ”をつけて話そうかな?」
エマが笑って言った。
するとカールさんが
「”にゃ”をつけて話してかわいいのはモモちゃんだけだよ。ヒトが”にゃ”をつけて話しても不自然だ」
と、ちょっと呆れたような顔でエマに言った。
エマは
「そ、そうね…」
と、しょんぼりしてしまった。
カールさんの言葉は、中身アラサーオタク女子の私の心にも刺さった。
ていうか、前世でうちのモモに話しかける時にも、私は語尾に”にゃ”をつけることが多かったよ…
「…カールさんは、女の子への口のきき方をちょっと考えた方がいいにゃ」
私が目を細めてカールさんを見ながらそう言うと、
「え?!俺?!俺が悪いのか?!」
カールさんは慌てて、エマは
「うふふっ、モモちゃんありがとう」
と笑った。
「エマには笑顔が似合うにゃよ」
私がエマに笑いかけたら、ジンさんが
「モモちゃん、スケコマシの男みてぇだな」
またからかうように言ってきた。
なので私は
「ジンさんも女の子への口のきき方をちょっと考えた方がいいにゃよ」
とジンさんに言いかえした。
「うわ、俺も?!俺もかよ?!」
ジンさんがそう言うと、村の人たちがみんな声を上げて笑った。
平和だ。
その後バーサさんたち女性陣でキノコを料理することになり、まずは石づきを処理してた。
キノコの処理が大体終わったら、ジンさんが氷室から出してきたツラーオの肉を小さく切って、バーサさんに渡した。
カールさんが倉庫から出してきたファイアドラゴンの焚き木を広場の真ん中に組んで火をつけて、大きなお鍋を火にかけたところに、ダシの出るツラーオの骨と水を入れてダシを取った後、キノコとツラーオの肉を入れてバーサさんがお鍋をかき回し始めた。
雑貨屋のリーナさんがトウモロコシみたいなのの粉を持って来て、それをお鍋に入れてしばらく煮込むと、なんだか前世で見慣れたような料理になってきた。
鶏肉とキノコのクリームシチューだ。
バーサさんが塩とハーブの粉みたいなのを入れてかき混ぜて
「さあ!シチューができたよ!」
とみんなに言うと、みんなそれぞれお皿を持って、うれしそうな顔で集まってきた。
私は前世ではビーフシチューより鶏肉のクリームシチューが好きだったので、すっごくうれしくなった。
多分味は多少違うだろうなと思ったけど、見た目は完全に鶏肉のクリームシチューだ。
私もお皿とスプーンを前脚に持って、シチューを入れてもらう列に並んだ。
「はい、モモちゃん。熱いから気をつけなよ」
バーサさんがお玉でシチューをすくって、私のお皿に入れてくれた。
「ありがとにゃ!いただきますにゃ!」
私が広場のベンチ代わりの丸太に座って、シチューにふうふうと息を吹きかけて冷ましていると、カールさんが私の隣に座って
「モモちゃん、シチュー冷ますのかい?熱々がうまいぞ」
と話しかけてきた。
なので私は
「私は熱いのはダメなのにゃ」
とカールさんに答えた。
「そうか、ネコ戦士はヒトとは違うんだな」
カールさんの言葉に、私たちと同じようにあちこちの丸太に座ってたみんなは
「なるほどなぁ」
とうなずいてたけど、実は前世の私もネコ舌だった。
イベント帰りにオタク仲間達と一緒にラーメン屋とかに入った時も、冷ましてる間に麺が伸びてしまって、みんなに”伸びた麺ってスープがしみておいしいよね!”と慰められていた。
そんなことを思い出しながら、私は冷ましたシチューを口にした。
前世のクリームシチューとは少し違う味だけど、村のみんなで食べるシチューは、あったかくておいしかった。
私がシチューをちびちびと食べてる間に、カールさんは一皿食べてしまって、おかわりのシチューをお皿によそってた。
そしてまた私の隣に戻ってきて
「…なぁ、もしまた王都に行くことがあったら、俺も連れてってくれないか?」
カールさんはシチューを食べながら小さな声で言った。
「なんでにゃ?カールさん、王都に何か用があるのにゃ?」
ちょっと驚いた私がそう尋ねてみると、カールさんは
「王都の学者先生に、山みたいなドラゴンのことをもっと詳しく聞いてみたいんだ」
と、他のみんなには聞こえないぐらいの小さな声で言った。
私は、はっとした。
カールさんは、私がこの世界からいなくならないために、ギルド長やケラーさんたちとみんなで、山みたいなドラゴンが現れないようにする方法はないか、考えようって言ってた。
そのために王都に行きたいって言ってくれてるんだ…
「カールさん、ありがとにゃ…」
私は胸がいっぱいになって、そう短く言うだけで精一杯だった。
この優しい人を…この村の優しい人たちを、絶対に守ろう。
私は改めて、そう心に誓った。
その時、やや日が傾きかけた北の空に、大きな鳥の影が見えてきた。
王都の伝書鳩だ。
伝書鳩用の止まり木におりた伝書鳩の脚に結び付けられていた紙を広げた村長は、
「モモよ…アクアドラゴンが現れた…と、王都から知らせが来たぞ…」
少し震えながら、青ざめた顔で、私に向かってそう告げた。
これにて第5章終わりです~。明日から第6章開始です。うちのネコは相変わらず天使です←




