1-4 ネコ戦士、悩む
山間の村の日が暮れていく中、村のみんなが広場に集まっていた。
私と一緒に行ってくれた村人が現地で解体したモンスターを、さらに小さく切る村人たちは笑顔でいっぱいだった。
私はその光景を見ながら、ぼーっとしていた。
なんだか右前脚の毛がノリかなんかで固まっているようで、私は右前脚を見た。
モンスターの血がついて固まってた。
家に戻ってお風呂に入ろうかとも思ったけど、今の私はネコだ。
うちのモモがやってたように、舌でなめてきれいにすることにした。
モンスターの血はレバーみたいな味がして、ちょっと気持ち悪かったけど、私の舌はネコのモモの舌のようにざらざらしてて、少しなめていると血はきれいに取れた。
「モモちゃん、おいでよ!」
八百屋のおばさんが私を呼んだ。
「もう肉が焼けるよ!一番おいしいとこ食べなよ!」
おばさんは、すごく嬉しそうに笑ってた。
村の人たちがみんな、私の方を見てにこにこ笑ってる。
おじさんとおばさんが多いかと思ってたけど、若い人や子供たちも結構いた。
姉の子供たちがお肉大好きだったのを思い出して、
「おいしいとこは子供たちにあげてにゃ」
と私が言うと、おばさんはびっくりした顔をしていた。
「子供にはいっぱい栄養が必要にゃ。いっぱい食べて元気に育ってほしいにゃ」
私の言葉に、
「この肉はモモちゃんのおかげで食べられるんだからね。モモちゃんにいい所を食べてほしいんだよ。ホントにありがとうね」
おばさんは優しく笑った。
前世での私の母のような、優しい笑顔だった。
私はおばさんが渡してくれたお皿の焼き肉を食べた。
牛カルビみたいだった。
…干し肉戻して焼いたやつの方があっさりしてて好みだなーと私は思った。
焼き肉を少し食べて、私はひと足先に家に戻った。
みんなはまだ、わいわい騒いで焼き肉を食べているようだった。
私は毛づくろいをして、防具と武器をクローゼットみたいな所にしまって、ベッドに飛び込んだ。
毛織物を重ねたようなベッドはふかふかで気持ちよかった。
…でも、私はなかなか眠れなかった。
みんなのため…みんなの食糧を確保するために、あのモンスターを殺した。
思えば前世では、誰かが育てて精肉してくれた牛とか豚とかを、当たり前のように食べていた。
前世でも、自分以外の生き物の命をもらって生きていたんだ。
だから、モンスターを殺してその肉を食べることも悪いことじゃないはず。
…ただ、自分の手で他者の命を奪うというのが辛いんだ。
怖くて、つらくて、申し訳なくて…
私が倒した一頭は、群れの中で一番体が大きかった。
逃げて行ったのは、それより少し小さいのと、もっと小さい…子供みたいなの。
…もしかしたら、あのモンスターたちは家族だったのかもしれない。
私が倒したのは、お父さんだったのかもしれない…
ごく最近、父を亡くしていた私にとって、その想像はあまりにも辛くて悲しすぎた…
でも、ふとその時私は、この世界に来る前の…最初の選択画面を思い出した。
ネコ戦士になるか、ヒト戦士になるか。
もしもヒト戦士を選んでいたら、この世界じゃなかったかもしれない。
もしかしたら、人間と人間との戦争中の世界だったかもしれない。
そしたら…ヒトでヒトを殺さなきゃいけなかったかもしれない。
そこで私は、ネガティブに考えるのをやめた。
ヒト戦士になってヒトを殺しても、きっとヒトはヒトを食べないだろう。
敵?のヒトを殺せば仲間は喜んでくれるかもしれないけど。
だったら、やっぱり私はネコ戦士がいい。
村のみんなのお腹を満たすために、おいしそうに食べてくれる笑顔を見るためにモンスターを倒すなら、その方が絶対にいい。
ベッドから見上げた天井には、大きな獣の骨が柱として使われてて、その上には獣のなめし皮みたいなものが張られていた。
私が倒したあのモンスターの骨や皮も、きっと村の人たちが大切に使ってくれるだろう。
だったら、いいんだ。
食べるため、生きるために私の…ネコ戦士の力が必要なら。
私は村のみんなのために頑張ろう。
子供たちがいっぱい食べて元気に成長できるように。
村の人たちの生活が、少しでも豊かになるように…
心が落ち着いた私は、眠くなってきてあくびをした。
ネコのモモのあくびのように大きく口が開き、私はモモのことを思い出した。
そしてモモがそうしていたように丸くなって、私は眠りについた。
やわらかな体毛としっぽに包まれて。
今日は昨日よりさらに寒くて、家の中で遭難しそうです…うちのネコもコタツから動きませんw




