1-3 ネコ戦士、初めてモンスターを倒す
カタログによれば、このピンクのかわいいワンピみたいなのを作るには、モモイロヒヒとかいうモンスターの素材が必要なようだった。
でも、カタログにはそれより格下っぽい装備があるということは、モモイロヒヒはそれなりに強いモンスターなんだろうな…と私は思った。
今の自分は胸元を隠す程度の短めの白いベストっぽいものしか身に着けてない。
こんな丸腰でモンスターを倒しに行けるんだろうか…と思って、ふと思い出した。
村長が提供してくれた家の中に、ネコ戦士用の装備があるとかなんとか言ってたっけ。
家に戻って確認すると、ウールみたいな織物っぽいのでできた腰より少し下ぐらいまでの長さの上着みたいなのと、耳を入れる穴が開いた帽子みたいなのがあった。
そして、太い棒の手元だけが細くなってて、私のネコの手でも握れそうな武器っぽいのもあった。
なるほど、これが私の…ネコ戦士の初期装備ってことだな。
こんな装備でモンスターと戦うとか大丈夫なのか、はなはだ疑問だったけど仕方ない。
防具を身に着けて、ホルダーみたいなのに入った武器を背負って、私は家を出た。
すると村長が寄ってきて、
「モモよ、肉を調達してきてくれんか?」
と私に言った。
「肉ってなんの肉にゃ?家畜は飼ってないにゃ?」
私が尋ねると、
「王都では新鮮な家畜の肉を売っているが、王都はこの村からではとても遠いので干し肉しか買えないのじゃ。この村では牛に似たモンスターの肉を時折食べておるんじゃが、村の男たち総出でかかっても、なかなか倒せないんじゃ」
と村長は言った。
そして
「モンスターのおる所までは村の者が荷車を引いてついて行くので、モモにはそこで一頭、そのモンスターを倒してほしいのじゃ。血抜きや解体は村の者がするので、おぬしは倒してくれるだけで良いぞ」
…牛っぽいモンスターを私が倒す…?!
朝にこの世界に来て、ちょっと寝て起きたばっかりなのに、もうモンスターを倒せと言われて、私は怖くなって震えた。
でも…やるしかないんだろう。
私はネコ戦士で、村のために働くために呼ばれたんだろうから。
…嫌なことはさっさと終わらせたいっていうのが、私の性格だ。
「わかったにゃ。行ってくるにゃ」
私がうなずくと、
「うむ。では村の者に荷車を準備させよう」
村長はそう言って、村の若い男の人に声をかけた。
「モモちゃんは荷台に乗っていきなよ」
と、その若い男の人が笑って言った。
「モンスターがいる所はそんなに遠いにゃ?」
と聞いてみると、
「そうでもないよ。村の東門から出りゃ、大体そこに目的のモンスターはいるから」
とその人は言った。
「なら、私は走って行くにゃ」
私はそう答えて四つん這いになった。
…走れる。
すっごく速く。
うちのモモがネコ用トイレでおしっことかした後、トイレハイですごく速く走り回ってたけど、モモもこんな感じに家の中を走り回ってたんだ…
そう思うと、なんだかホントにネコのモモになったような気がして…ちょっとだけうれしくなって、私は荷車の先に立って走った。
村の人が東門を開けてくれると、そこには広い…広い大自然の世界が広がっていた。
遠くに雪をかぶった山が見えて、近くには川もあって、前世の日本のどこかにもあったような風景だった。
東門を出ると少しゆるやかな坂があってその先には草の生えた、ちょっとだけ広い平らな場所があった。
そこに、牛みたいで牛じゃない…牛とヒツジとその他何かが混ざったような…でも、牛ぐらいの大きさのモンスターが三頭いた。
「モモちゃん、あれだよ」
村人の言葉にうなずいて、私は四つ足でそのモンスターに走り寄って、背中の武器をホルダーから抜いてそのモンスターに殴りかかった。
見た目の割に武器は軽くて扱いやすかったけど、まだ私はモンスターを倒すことに対して迷いがあった。
…空振り。
やっぱり、怖い。
ネコ大好きだった私が、ネコじゃなくても生き物の命をこの手で奪うなんて。
…でも、ただ殺すんじゃないんだ。
このモンスターは、村のみんなの食料にするんだ。
相手は前世の牛じゃない、モンスターなんだ。
心の中であれこれと自分自身に言い聞かせて覚悟を決めた私は、三頭の中で一番大きい一頭の頭を武器で殴った。
そのモンスターはどうっと倒れて、他の二頭は散り散りに逃げて行った。
「良くやった!後は俺に任せて!」
村人の声を聞いた後、私は倒れたモンスターから目をそむけた。
どうやら村人は、モンスターの血抜きや解体をしているらしかった。
そして村人は解体が終わると肉や皮などを少しずつ分けて荷車に載せ、
「さあ、村に帰ろう!」
と言った。
私はまた村人の先に立って、四つ足で速く、速く走った。
初めてモンスターの命を奪ってしまったその場所から逃げるように。
私たちが村に戻ると、みんなが喜びの声を上げた。
「やったな!今夜は腹いっぱい新鮮な肉が食えるぞ!」
良かった…と思いながらも、私はモンスターを殴った時の鈍い感触を思い出した。
命を奪ってしまった。
この手で。
私は震えながら、自分の手の平を見つめた。
…ネコのモモみたいな、かわいいピンクの肉球だった。
うちのモモのことを思い出して、私の心は少しだけ落ち着き、体の震えが止まった。
めっちゃ寒いのでエアコンつけたんですが、手先だけはいつまでもあったまらなくて…震える手先で入力しましたw




