2-8 ネコ戦士、ネコ戦士の伝説を知る
ギルド長は今日は日帰りするらしいので、私は前から気になっていたことを聞いてみることにした。
「バーサさんが前に、ネコ戦士は伝説の存在って言ってたのにゃ。ネコ戦士って伝説の存在なのにゃ?」
私がそう聞くと、ギルド長はしばらく考えて、ふーっと息を吐いた。
そして
「…ネコ戦士の伝説は、この世界の恥の歴史と共に語らねばならない…」
と言った。
…恥?ネコ戦士が?それともこの世界が?
目を細めた私の表情に気づいたギルド長は、慌てたように
「ネコ戦士が恥なのではない。大昔にこの世界の…隣国の愚かな王がしたことが、我々ヒト族の恥なのだ」
と、そう言った。
そしてギルド長は、この世界の歴史を語り始めた。
何百年も前には、この世界には獣人族という、私と同じようなネコたちがいたそうだ。
獣人族は、体は小さいけど力は強く、足も速くて、ヒト族を助けて働いてくれていた。
その頃モンスターが急激に増えたんだけど、ヒト族の兵士ではモンスターたちにはとても歯が立たず、獣人族にモンスターの討伐を頼んだ。
すると獣人族はたちまちのうちにモンスターたちを倒して、モンスターの数は一気に減り、獣人族はネコ戦士と呼ばれるようになった。
ネコ戦士の強さに目をつけた隣国の国王は、ネコ戦士をだまして、その頃は隣国に存在していた魔法を使ってネコ戦士たちを奴隷のように扱い始めた。
ベリー村のあるこの国の王はネコ戦士と仲良くしていたので、仲の良かった数人をこの国でかくまっていた。
でも、隣国で奴隷にされたネコ戦士たちはモンスターとの戦いで次々に命を落とし、やがて隣国のネコ戦士はいなくなってしまった。
と同時に、山のように大きなドラゴンが隣国にやってきて、あっという間に隣国は滅んだ。
次はこの国に、あのドラゴンはやってくるだろう…我が国も滅ぼされるのだ…と覚悟を決めたこの国の国王に、彼と親しかった四人のネコ戦士は”自分たちがこの国を守る”と言って、国王が引き止めるのも聞かず、ドラゴンを倒すため隣国との国境に旅立った。
その結果、山のようなドラゴンがこの国に攻め込むこともなかったが、四人のネコ戦士たちも戻ることはなかった。
友たちを失い嘆き悲しむ国王の前に神が現れ、こう言った。
「この世界に再び危機が訪れる時、この国の王族だけに使える魔法を残そう。ネコ戦士を召喚できる魔法を…」
「…とまぁ、こういった伝説があるのだが、古文書にも克明に記されているので、おおむね史実だと考えて間違いはないだろう」
ギルド長は、そう締めくくった。
なるほど、この世界には魔法はないって言ってたけど、大昔に滅びた隣の国にはあったんだ。
そしてこの世界に唯一残された魔法が、ネコ戦士召喚の魔法だったってことなんだ…
「にゃるほど…だから、隣国の王がやったことが、この世界の恥ってことなのにゃ…」
私が小さくつぶやくと、
「うむ…そういうことだ…」
ギルド長も小さな声で応じた。
「あっ、それでベリーの実はネコ戦士だけにとって特別な物だって、一般の人にも伝わってるのにゃ?」
と私が聞くと、ギルド長はうなずいた。
そういう歴史があって、伝説があって…だから今の私にとってもベリーの実が特別だってことを、バーサさんも知ってたってことなんだ。
気になったのは、隣国を滅ぼしたドラゴンだ。
「隣国を滅ぼしたドラゴンの死体はあったのにゃ?」
私が尋ねると、ギルド長は
「…それが、古文書には何も記されていないのだ」
と、眉間にしわを寄せて言った。
ってことは…四人のネコ戦士に撃退されただけで、そのドラゴンはまだどこかにいるかもしれないってこと…?
私は山のように大きなドラゴンの姿を想像して、身震いした。
この国の国王が私の召喚に成功したってことは、もしかしたらそのドラゴンがまた動き始めるかもしれないってことじゃないの?
この世界の最大の危機だから、私は呼ばれたんじゃないの?
私はぞっとした。
大昔には四人のネコ戦士で撃退できたけど、今のネコ戦士は私ひとり。
私ひとりでこの村の人たちを…この世界を守れるの…?
…まだ起きてもいないことを恐れても仕方ない。
その日がもしも本当にやってくるなら、私はもっともっと強くならなきゃいけない。
不安な気持ちで下がってしまっていたしっぽを上げて、うつむいていた顔を上げて、私はギルド長に言った。
「…ファイアドラゴンが現れたら、すぐに討伐の依頼を下さいにゃ」
ギルド長は驚いたような顔をした。
さっきの愛想笑いじゃなく、私が真剣な表情で言ったからだろう。
「私、もっともっと強くならなきゃダメにゃ。だから、強いモンスター相手にどんどん戦っていきたいのにゃ」
決意を込めた私の言葉に、ギルド長はうなずいた。
「おお、頼むぞ、ネコ戦士殿」
そしてその後すぐに、ギルド長は馬に乗って王都に戻って行ったけど、私はまだ考え続けていた。
ファイアドラゴンが目撃されたのは数年前って言ってたけど、私がこの世界に召喚されたのなら、きっと近いうちにファイアドラゴンはまた現れるだろう。
そうしたら…
と考えていて、ふと周囲の視線に私は気づいた。
村長やバーサさんたちが心配そうな顔で私を見ていた。
なので私はしっぽをぴんと立てて右前脚を上げ、
「ファイアドラゴン倒して、今度こそピンクの装備作るにゃ!」
と大きな声で言った。
するとバーサさんたちはちょっとほっとした顔になって、
「今度こそ可愛い装備、作れるといいね」
と笑ってくれた。
そこに鍛冶屋のケンさんが
「ピンクの装備が欲しいなら、今の装備の白いとこを染めてみるかい?」
と言ってきた。
青魚のお寿司みたいな装備の白いところをピンクにしたら…赤い酢飯のお寿司みたいなのになるだけじゃん…
「…このままでいいにゃ…」
私は脱力して、ケンさんにお断りした。
昔うちにいた犬は、寒くなると母の手編みのセーターを着てましたが、なぜかネコ柄でした。…なんで犬にネコ柄…




