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魔人の衛兵  作者: 水乃ろか


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第9話 衛兵の連行

 今日もちゃんと起きられた。目覚めはいつもと変わらず、静かな朝だった。

 体の違和感も感じない。少なくとも、表面上は。


 そして、いつものように詰所へ向かうと、先にクレスがいた。

 机に腰かけ腕を組んだガイフォンさんと話していた。


「――最近街の中に怪しい連中がいるようだ。気を付ける様に」

 

 ガイフォンさんは、クレスに先日の俺への話していた事と同じ内容を繰り返していた。


「怪しいやつ? 転生者とかですか? 皆、魔獣の騒動以来、不安になっちゃってるだけじゃないですか?」

「いや、本当だ。これを見ろ」


 ガイフォンさんが机の上に置いたのは、先日俺が見つけた不気味な黒い光沢を放つ短剣だった。


「なんです? この黒い短剣は」

「先日、アデルが巡回中に見つけたものだ。これはな、タチの悪い連中、それも暗殺や殺しを生業とする者が使う得物だ。単なるゴロツキの代物じゃない」


 クレスの顔から、明るい調子が消えた。

 

「え!? そいつらを捕まえたんですか?」

「いや、短剣を発見したのみだ。厄介なことに、連中は商人になりすましている可能性がある。巧妙に、馬車に野菜やら荷物まで抱え込んでいてな。ここまで手の込んだ変装をされると、見分けがつきにくいがな」

「えぇぇぇ……じゃあ、どうやって見つけるんですか? 商人やら冒険者が大量に街に来てますし、毎日たくさんの知らない顔を見てるんですけど」

「……要は、気を付けろってことだ」

「雑ぅ!」


 クレスがぼやき、ガイフォンさんが口の端を上げた。いつものやり取りだ。

 

「ま、無駄な心配をするな。だが、警戒は怠るなよ」


 ガイフォンさんは鍵付きの棚に短剣をしまい、静かにそう言った。


「アデル、クレス。今日は念のため、三人で巡回に出よう」


―――――――――


 警戒を兼ねた巡回は、いつもより厳重なものになった。


「先輩、その槍、どうしたんですか?」


 クレスが、俺の手に握られた新しい槍をジロジロと見ていた。

 それは先日、鍛冶屋のバルカスさんから貰ったばかりの上等な槍だ。


 俺がバルカスから貰った経緯を話すと、ガイフォンさんが大口を開けて笑った。


「お? あの偏屈じじいがか? はっはっは! 気に入られてるな、アデル!」


 ガイフォンさんとバルカスさんは、元々知り合いだ。

 二人は顔を合わせるたびに罵り合うが、結局のところ、なんだかんだ仲が良いのだ。

 その様子を思い浮かべ、俺は思わず苦笑した。


 その時だった。

 遠くからガシャン!という物音と、「誰か!」という悲鳴が重なって聞こえた。


 俺たちは顔を見合わせ、悲鳴の聞こえた方角へ一斉に駆け出した。

 角を曲がると、数人が血を流して倒れているのが見えた。


「どうしたんだ、大丈夫か!?」


 倒れている人は、顔を歪ませながら、指をさした。


「あいつらに、品を盗まれちまって……!」


 指さした先には、数人の男がバタバタと荷箱を馬車に積み込んでいるところだった。

 そして、すぐに御者が鞭を入れ、馬車を勢いよく走らせようとしていた。


「けが人は任せろ! アデル、クレス。追ってくれ!」


 ガイフォンさんの声に、俺たちは同時に「はい!」と応え、すぐさま馬車を追った。


 石畳が粗いこの旧市街の道を、馬車がガタガタと無茶な速度で音をたてて走る。

 ……御者は明らかにこの道に不慣れだ。


 高速で、この道を走ればどうなるのか――


 ガシャアアン!


 勢いのついた車輪が大きな石に弾かれ、馬車は悲鳴を上げて横転した。

 積み込まれた荷箱が散乱する中、二人の男がひらりと馬車から飛び出していた。


「品は置いていけ! 逃げるぞ! 衛兵が来てる!」

「くそ! あの路地に行くぞ! 保険がある!」


 その声を聞き、俺とクレスは速度を上げて追いかけた。

 男たちは迷路のような細い路地へと曲がっていった。


 俺たちもそれに続く。追っていた二人のうち、一人がいつの間にか姿を消している。

 もう一人の男は、しきりに後ろを振り返りながら逃走を続けていた。


 その様子に、俺は強い違和感を覚えた。


 その時、空気の裂けるような、かすかな『ギイイィィ』という軋むような音が、どこからか聞こえた。


 何の音だ? どこから……上か!?


 建物の屋根に視線を向けると、先ほど消えた男が、弓を強く引き絞っているのが見えた。

 やはりこの音だ。


 直後、『ビィン!』という破裂音と共に、矢が風を切りながら放たれた。

 

 その矢は、走る俺からかなりずれた場所だったが……俺の斜め前を走るクレスの頭部へ一直線に向かっていた。


「クレス!」


 思考よりも速く体が動いた。

 俺は咄嗟に、走っているクレスの身体に肩からぶつかるように突っ込んだ。


「うわっ!」


 クレスの悲鳴が響く。


 俺たちは地面に倒れ込んだ。


 ヒュン、という矢の風切り音が頭上を通過するのが分かった。


 危なかった……。


 だが、また『ギイイィィ』という音が聞こえる。

 間髪入れずに、男が弓に弓を弾いてる。


 俺は立ち上がり、持っていた槍を強く握りしめ、屋根の上の男を睨む。

 男は屋根から突き出た煙突の影に隠れて、次の矢を構えている。


「ふざけるな」


 低い声が自分の喉の奥から漏れた。


 俺は、バルカスさんから貰った槍を、全身の力を込めて引き絞り、男に向かって投げつけた。

 槍は、まるで稲妻のような唸りを上げながら、男の方へ一直線に向かった。


 男は煙突に隠れてやり過ごそうとしていたが、槍は煙突を破壊し、男は悲鳴と共に路地の向こうへ吹き飛んでいった。


「クレス、大丈夫か!?」


 慌てて声を掛けると、クレスは痛みに顔を歪ませながらも「ええ、大丈夫です。ちょっとクラクラしますけど。俺のことはいいので、先輩は追いかけてください!」と返事をしてきた。


 矢は間一髪、クレスの頭をかすめただけで済んだようだ。

 だが、クレスの額に血が染まっているのを見て、俺は背筋が凍る思いがした。


「クレス! アデル! 大丈夫か!?」


 そこに、遅れてガイフォンさんが血相を変えて駆けつけてきた。


「ガイフォンさん! クレスを頼みます!」


 俺はそう叫び、再び走り出した。


 もう一人の男を追う。


 この路地の構造は衛兵として何度も巡回しているため、頭に入っている。

 この先に先回りできる道がある。


 案の定、俺が先回りして大通りに出る直前の角で待ち構えていると、先ほどの男が焦った様子で駆け込んできた。


「うおっ!」


 俺がいきなり目の前に現れたことに驚き、男はとっさに大通りへと逃げて行った。

 

 俺が男を追って大通りに出ると、すぐさま「やめて! 誰か!」という女性の悲鳴が聞こえた。


 信じられない光景が目の前に広がった。

 先ほどの男が、あろうことか、大通りにいた幼い子どもを抱え上げ、剣を振り回していたのだ。


「てめえ、昨日の衛兵か! くそっ! バレてたのか!?」


 男が叫んだ。

 その声と、その姿に俺は既視感を覚えた。


 そうだ。昨日の巡回で、道に野菜をまき散らしていた、あの商人の男だ。


「子どもを離せ!」


 俺の警告に、息を乱した男はさらに子どもの喉元へ、剣を突きつけた。

 黒塗りの短剣を。


「坊や!」


 母親の悲痛な叫びが、俺の頭の中に響いた瞬間、俺の中で何かがプツリと途絶えた。


 次の瞬間、目の前が歪んだように感じた。


 ハッと意識を取り戻した時、俺は子どもを人質にしている男の目の前に立っていた。


 そして、俺の左手は男が子どもに突きつけていた黒塗りの短剣の刃を握り潰し、俺の右腕は怯んだ強盗の顔に向かって、止めようもない勢いで振り抜かれようとしている処で意識を取り戻した。


 いや、正確には俺の目の前にいる、人質となった少年のひどく怯えた顔に我を取り戻した。


 振り抜く寸前でなんとか軌道を逸らした右腕は、それでも強盗の身体を掠め、ズガンッ!という鈍い衝撃音と共に、男を大きく吹き飛ばした。


 男は路肩の壁に叩きつけられ、意識を失っていた。


 俺はすぐに少年を母親の元へ返した。

 少年も母親も、お互いに抱き合い、ただ泣いていた。


 ……少年のあの恐怖に満ちた目は、あの強盗へのものだったか、それとも――その場で短剣を握り潰し、人を壁に叩きつけた俺へのものだったか。


 考える余裕もなく、俺は気絶した強盗の様子を確認した。


「アデル!」


 ガイフォンさんとクレスが駆けつけてきた。

 クレスの頭には包帯が巻かれていた。


 そして隣には、縄でぐるぐる巻きにされた男が一人。先ほどの屋根にいた弓使いだ。


 ガイフォンさんとクレスが、気絶していた強盗を縄で縛り、起こして連行しようとした、その時だった。


 大通りが一気に騒がしくなった。


 俺たちの前に、地響きのような足音と共に、ぞろぞろと大勢の人間がやってきた。

 全身を重装備で固めた戦士たち――騎士団だ。


 なぜ騎士団が? 衛兵の管轄外のはずだ。強盗事件の援軍としては、あまりにも大げさすぎる。


 俺が戸惑っていると、突然、目の前の騎士団が一斉に剣を構えた。


 そして……あっという間に、俺を円陣のように取り囲んだ。


 騎士団の後ろにいるガイフォンさんとクレスも、一体何が起きているのか分からず、目を丸くしている。


 もしかして、俺を強盗の仲間と間違えているのだろうか?


「あの、俺は衛兵で……」


 俺が説明を試みようとした瞬間、騎士団の陣を分けるように、見覚えのある金髪の眼帯の女性が割って入ってきた。


 金色の鎧に身を包んだ、あの騎士団長だ。


 彼女はまっすぐに俺の目の前に立ち、剣の切っ先を俺の喉元に向けながら、静かに言った。

 

「お前が、あの衛兵か。抵抗するな、連行する。……貴様、何者だ?」


 敵意に満ちた目を向けている女性のその声は、広場で俺を助けてくれた女性と同じ声をしていた。


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