第34話 再度の拘束
気が付けば、俺は冷たい石の床に座っていた。
周りを見ると湿り気を帯びた石の壁に囲まれた、窓一つない大きな部屋。
鉄格子は無いが、ここは牢だろうか?
そして、俺の正面には、巨大な大砲のような無骨な装置が、砲口を俺に向けていた。
俺の身体は両手両足、そして首に、厳重な錠が掛けられた鎖で拘束されていた。
身動き一つできない。俺は捉えられているのだという事が分かった。
反射的に、この鎖を引きちぎってやろうかと、体内のマナを吸い上げようとした。
その瞬間、全身に激しい痛みが走った。
それどころか、マナを吸うことすらできない。
巨大魔獣との戦闘で無理をした反動か、あるいは未だ、俺の身体が操られているのだろうか。
周囲にいる複数の兵士や騎士達が、俺の目覚めた事に気付き、ざわつき始めた。
忙しなく動き回る彼らを、俺は朦朧とした意識の中で捉えていた。
状況を把握しなければ。
ここはどこだ。
前のマディス牢獄とは違う場所だ。
俺は人間の姿に戻ってから、俺は何をしていたんだ? なぜこんな場所にいる。それに街はどうなったんだ。
気が付くと目の前にリアナがいて、そこから先の記憶が全くない。
リアナ……リアナはどこだ? リアナは無事なのだろうか?
俺と一緒に居た事で、リアナの身に何か良くない事が起きていないだろうか。
すると一人の兵士が、俺の目の前に立った。
槍を俺に向けて構え、最大限の警戒を示している。
そして、ぶっきらぼうな尋問が始まった。
「名前は?」 「……アデルだ」
「衛兵のアデルか?」 「そうだ」
「お前は魔人か」 「……そうだ」
「誰の命令だ」 「誰の命令? なんの話だ?」
「あの少女は何者だ」 「リアナか? リアナは無事だという事か? ここにいるのか?」
俺は思わず前のめりになる。
「リアナは、俺と関係ない。あの子に手を出すな!」
リアナの事を話している最中だったが兵士は突然、聞きたいことが終わったように、くるりと背を向けて去ってしまった。
こちらには聞きたいことは山ほどあったのに。
俺が気を失っている間に、何かあったのだろうか。もしや、俺はまた何日も眠っていたのだろうか。
日の光が入らないこの暗い部屋では、今が昼か夜さえも分からない。
しばらくして、警備に当たる兵士や騎士の数が物々しく増えた。
そして、複数の重い足音が近づいてくるのが聞こえた。
その足音が俺の目の前で止まった。
重い瞼を開いて見ると、目の前に一人の男が立っていた。
貴族だろう。格式高そうな服装に身を包み、威厳に満ちた佇まいで俺を見下ろしている。
いったい、誰だろうか。
「お前が魔人か」
貴族は俺に静かにそう問いかけた。
先ほどの兵士との会話の様に、一方的な会話で終わらせないため、聞くべきことを先に聞いた。
「街は、どうなりましたか。無事だったのでしょうか」
俺の返答に、目の前の貴族はわずかに驚いたようだった。
一瞬、目を見開いた気がしたが、すぐにその表情は消え、元の表情に戻った。
「ああ、魔獣は居なくなった。お前を除いては、な」
その言葉に安堵が広がる。
しかし同時に、俺が脅威として警戒されていることが痛いほど伝わってきた。
「あの少女は、リアナは無事でしょうか」
「無事だ。お前といた少女は、気を失っていたお前と一緒に城に連れてきた」
安堵のため息が漏れた。
リアナに何事もなくてよかった。
そして、ここが城なのだということが分かった。
俺は聞かれたことに答えた。
「俺はおっしゃる通り、魔人です」
「そうか。では、お前の狙いはなんだ? 街や城への攻撃にどのような意図があった」
「ち、違いますっ!」
貴族の言葉に、反射的に否定していた。
「意図などありません! 身体が操られているように勝手に動いてしまって……俺の意思ではありません!」
貴族は俺の言葉に何も返答せず、ただ静かに俺を見つめていた。
その視線が、俺を責めているようでつらかった。
「身体が操られていた、と言ったな」
「そうです」
「そうか」
貴族は短い返事を返した。
「……信じてくれるんですか?」
「信じる信じないではない。たとえ操られていたというのが事実であっても、民を脅かした事には違いない」
たしかに、その通りだった。言い訳にもならない。俺は大変な事をしてしまったのだ。
「皆を脅かしたのは事実です。俺の命は……どうなってもいいのです。ですが、あの女の子を自由にしてあげてください。あの子は何も悪くないのです」
「お前の懇願は分かったが、それを簡単に聞き届けるわけにはいかんな。それと、もう一つ確認しておきたいことがある」
貴族は、警備の兵士たちに聞かれないよう、少し小声で尋ねてきた。
「お前は衛兵だと聞いている。お前、クレスと一緒にいた者か?」
クレス? なぜクレスの事を? もしや、クレスがこの件で疑われているのかと思い、俺は返答を濁した。
すると貴族が言った。
「私はクレスの兄、第一王子セオドアだ。クレスが従軍した時に、お前と一緒にいたのは事実か?」
驚愕が走った。目の前の男が、王国の第一王子とは。
クレスの兄であれば、下手に隠すのは得策ではないと判断した。
「はい、クレスと……クレス様と、一緒におりました」
「そうか、お前がか」
第一王子のセオドアは、何かを知っているような口ぶりだった。
彼は背を向け、部屋を出ようとした。
だが、振り返り様に、その声が俺に届いた。
静かで小さな声だった。
「クレスを救ってもらった事。礼を言う」
第一王子はそう言い残し、重々しい足音と共に部屋を後にした。




