第33話 魔人の護衛
目の前で起きた光景に、俺は自らの罪の重みで息が詰まった。
俺は、俺の魔人の身体は、この街で唯一の避難場所である城へ、マナの砲弾を撃ってしまった。
人々がいる場所へ、自らの手で破壊を放った。
だが城には結界が張られ、人々は助かったようだったが、安堵は一瞬でかき消えた。
結界は、すぐに霧のように消滅してしまった。
そして、この忌まわしい手のひらに、再び膨大なマナが集約していくのを感じる。
ああ、まただ。もう一度、あの破壊の光を放とうとしている。止められない。
――誰か止めてくれ! 頼む、俺を殺してくれ! この化物を、俺ごと消し去ってくれ!
だが、俺の願いは届かない。身体は完全に乗っ取られていた。
意識があるのが、これほど残酷な拷問だとは知らなかった。
手のひらのマナの集約が、なぜか少し遅くなっているのを感じる。
だが、それでも止まることはない。
――誰か!
すると、マナの集約が突然、ピタリと止まった。一瞬の静寂。
しかし、つかの間、すぐにマナの集約が再開する。
……駄目だ。止まらない。
――どうして……誰か! 早く俺を殺してくれ!
その時だった。
全身を支配する絶望の中、微かに聞こえた声があった。
「アデルー!」
この声……? まさか、そんな馬鹿な。
「アデルー!!」
声が大きくなってくる。……リアナだ。間違いない。なんで、こんな所にいるんだ!?
「アデルー!!!」
突然、手のひらのマナの集約が完全に止まった。
それと同時に俺の足元から、じんわりと温かいものが伝わってきた。
俺ではない、魔人が足元に視線を向ける。その視線の先。
――リアナ!?
リアナが、巨大な魔人の――俺の足に、しがみつくように抱き着いていた。
その小さな頭が、俺の黒い皮膚に押し付けられている。
――リアナ! だめだ! 逃げろ! じゃないと……
自分の声が、リアナに届かないのは分かっていた。
だが、叫ばずにはいられなかった。
――なんで、なんで来たんだ!? リアナ!!
リアナは、魔人の俺の目を見上げ、小さな身体から絞り出すように大きな声で叫んだ。
「アデル、たすけてって、言ってる! あ、あたしが、たすける番だから! こうやったら、アデル、たすかるから!」
リアナの言葉に息を吞んだ。
……そうだ。あの日の他愛もない約束。
『うん、分かった。じゃあアデルが困っている時は、あたしが抱きしめてあげるから!』
まさか、あの時の言葉を、リアナはこんな命懸けの状況で実行しに来たのか……?
俺がうかつだった。
あの約束が、リアナにこんな危険な目をあわせるなんて。
だが次の瞬間、体の中から、膨大なマナが急激に離れていくのを感じた。
身体中が『シューッ、シューッ』と、異様な音を立ててる。
全身から黒い霧のようなマナが噴き出していた。
……気づけば、俺は人間の姿に戻っていた。
「アデル!」
目の前のリアナが、俺を強く抱きしめていた。……リアナ、こんなにちから、強かったっけ?
そんな、どうでもいいことを考えながら、俺の意識は急速に遠のいていった。




