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魔人の衛兵  作者: 水乃ろか


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第21話 魔法の師匠

 魔人となった俺の姿を、リアナに見られてしまった。


 慌てて身体からマナを解放して身体が元に戻ったが、どう見ても遅すぎるタイミングだった。

 俺が呆然とその場に立ち尽くしていると、木の影に潜んでいたリアナが、トテトテと俺に近寄ってきた。


「アデル、兵士、行ったよ」


 リアナが口にした言葉は、あまりにも拍子抜けするほど普通な内容だった。

 その声には、一切の動揺が見られない。


 もしかすると、俺の姿が見えていなかったのか? ……いや、そんなはずはない。

 全身が黒く変異した姿を、絶対に見られていた。見間違えるはずがない。


 しかし、うかつだった。リアナが戻って来るのが思ったよりも早かった。

 見られてしまう可能性があったというのに。


 油断が、最悪の結果を招いた。


 俺はおそるおそる、リアナに尋ねた。

 喉がからからに乾いていた。


「なぁ、リアナ。いつからいたんだ?」

「ん、けっこうまえ」

 

 けっこうまえ……どのくらいだろうか? 変身の最初の瞬間からだろうか。俺の冷や汗が滑り落ちる。


「そうか……声かけてくれればよかったのに」

「ん、アデル、なんかしてたから」


 『なんかしてた』。やはり見てたのか。

 こうなったら、ちゃんと確認を取っておく必要がある。

 どこまで見て、何を理解したのか。このまま誤魔化せるはずがない。


「なあ、その……見たか? 俺の、さっきの姿を」


 俺の問いに、リアナからすぐに返答が帰ってきた。


「みた」


 その簡単な一言の返答に、いやな汗が噴き出る。

 自分の目が泳いでいるのが分かった。


 どう言い訳をすれば――。


「なあ、アデル」


 リアナの真っ直ぐな声が、俺の混乱をすぐに覚まさせた。

 リアナは澄んだ瞳で、しかし戸惑うように問いかけてきた。


「あれは、まほうなのか?」


 ……魔法? 魔法かと聞かれ、しばらく考えてしまった。

 魔法と言われれば、魔法な気もする。

 マナを使って魔法を使うのであれば、俺はマナを使って魔人になるのだから。


 しかし、そんな理屈よりも、このリアナの誤解をリアナに対して何か言い訳にできるのではないかと、俺の考えはすり替わっていた。


「え……あっ! そ、そうだよ。うん。魔法だ。リアナ、よく知ってるな?」


 俺のしどろもどろの返答に、リアナの顔がパーっと明るくなった。

 その瞳はキラキラと輝いている。


「そ、そうかー! すごいなー! あ、あたしな、魔法使いに、なりたいんだ」

「え、そうなのか? 魔法使いか。うん。それは良いな。目指すものがあるのは良い事だ」


 九死に一生を得た。

 なんとか、やりすごせたらしい。


 リアナの純粋な憧れに嘘を吐いているようで、胸がチクリと痛む。

 だが、俺が魔人であることを知るよりも、このままでいてくれた方が、何か大変なことに巻き込んでしまうような気がしたのでリアナにとって良い気がした。


 そして、リアナは俺の返答に、なぜかモジモジしていた。

 

「リアナ、どうしたんだ?」

「なぁ、アデル。あ、あの……」


 ずっとモジモジしているリアナ。

 視線もあちらこちらを見ていて落ち着きがないが、しかしリアナは意を決したように小さな声で言った。


「あ、あのな。まほう、教えてほしいんだ。だ、だめか?」

「……え? 魔法?」


 予想外の申し出に、俺は言葉に詰まった。


「えっと、俺には教えられない。その……俺も練習している身だからね」

「そ、そうか……じゃあ、あたしも練習、し、しようかな」


 練習? 何をする気なのだろうか。だが、それはもう今日の話ではない。

 空を見上げると、森の木々の隙間から見える空は、すでに茜色に染まり始めていた。


「リアナ。もう遅いし、今日は帰ろうか」

「ん、わかった」


 リアナは、自然と俺の手を握ってきた。

 護衛として、俺の手を引っ張っていたのが癖になったのだろうか。

 ただ普通に帰路を歩くときでも、なぜか常に手をつないでくる。

 俺たちは手を繋いで、集落へと帰路についた。


 その後のリアナは、俺が魔人の姿になったのを見たのに全く動じていない。

 魔法という事にしてしまったためか、今まで通りの、いや、それよりもさらに明るいリアナだった。


 たどたどしいが、憧れの対象を見つけたようで、どことなく尊敬の目で接せられている気がする。

 リアナが魔法に興味があってくれて、本当に助かった。


 夜、寝るためにベッドへ入ると、隣に横になったリアナに聞いてみた。


「なんで魔法を使いたいんだ?」


 リアナは、天井を見つめながらポツリと言った。


「あたし、何もできないからな。魔法が使えたら、何か、できるかなー、と思ってなー」


 ……そうか、なるほど。

 この集落で生きる子供にとって、労働は生活の源だ。力がなければ、食い扶持を得ることは難しい。


 たしかに魔法であれば、力も必要ないし、子どもでも出来る事があるのだろう。

 だが、俺は衛兵で魔法使いではない。


 俺が知っているものといえば、家庭用によくある、魔石を使った火起こしの小型の魔道具くらいだ。

 魔石を使った魔道具は色々とあるが、俺には特に使う必要が無かったから、詳しくは無い。


 そこで、ふと思った。

 魔石を使った火起こしの小型の魔道具でも、立派な魔法ではないか?

 

 リアナは見た事があるのだろうか。あれくらいであれば、どこにでもある。

 たぶん、村の雑貨屋にも売っているはずだ。明日、雑貨屋に見に行こう。


 ―――――


 次の日、俺たちは村で一番大きな店である雑貨屋を覗いてみた。

 中に入ると、所狭しと色々な品が置かれている。

 

 リアナは雑貨屋でキョロキョロと色々な品を見ていた。

 子供にとって、雑貨屋に売っている品は高額だし、見る機会が無かったのかもしれない。

 その瞳は好奇心でいっぱいのようだ。


 そして、俺はお目当ての品を探した。

 やはり、あった。


 手のひらサイズの小型の火起こし魔道具。そして、魔道具にはめるための魔石。

 魔石は小粒で値段も安いため、袋に入った状態でまとめて売っていた。

 それらを購入し、俺はリアナとともに手を繋いで森へむかった。


 そして、リアナに火起こしの魔道具を見せみたが、やはり知らないようだ。

 俺は小さな魔石を魔道具にはめ込んて、リアナの前で火起こしをカチっ、と起動させる。


 ボッ! と、魔道具の先端から、いきなり火が出てきた。

 

「ひゃあぁあぁああぁ!」


 リアナが聞いたことないような甲高い声を上げて、驚いて尻もちを付いていた。


 そんなに驚くだろうか? いや、初めて見る道具だし、いきなり火が出たら驚くか。ちゃんと伝えておけばよかったな。


「驚かしてごめん。リアナ、大丈夫?」


 尻もちリアナを起こし、火起こしの魔道具の説明をした。

 俺の説明に、リアナは「うんうん」と真剣に頷きながら聞いている。

 そして、リアナが俺の顔を覗き込んで、キラキラした目で言った。


「すごいなー! アデルはあたしの、まほうの、ししょうだなー!」


 ……魔法の師匠? 難しい言葉を知っているな。

 そう言うリアナは笑顔でいっぱいになっていた。


「じゃ、リアナもやってみるか?」


 俺が聞くと「う、うん! やる!」と、興奮した声が返ってきた。


 火起こし道具を渡し、リアナが魔道具を起動させた。


 しかし、カチ!という音がなるも、肝心の火が出ない。

 リアナは戸惑いながらも、カチ!カチ!と何度も押していたが、火は出ない。


「リアナ、ちょっと貸してみて」


 俺が受け取り、カチ!と魔道具を起動させてみたが、やはり火が出ない。壊れたのか? と思って見てみると、魔石に宿っていたはずの淡い光が消えていた。

 どうやら、魔石に宿るマナが切れたらしい。


 原因が分かったので、新しい魔石に交換した。

 もう一度、魔道具をカチっと起動させると、ちゃんと火が出たので、リアナに渡した。


 しかし、リアナが魔道具を起動させても、またしても火が出ない。

 どういうことだ? 俺が起動させれば火が出るのに。壊れているのかと思って魔道具を見てみると、また魔石のマナが切れていた。


 まさか、この魔道具が不良品なのか? それとも魔石の方に問題があるのか?

 小粒の魔石を見てみるが、特に変わった様子はない。


 すると、魔石を見ていた俺にリアナが「それ、なんだ?」と聞いてきた。


「これは魔石だよ。魔法の元みたいなもんかな。石が光っているだろ? この光が魔法を使うための燃料になっているんだ」

「ほー、きれいだなー」


 リアナの言う通り、魔石はなんとも言えない鈍い光を放っている。

 それを、キラキラとした目で見ているリアナ。


「それ、あ、あたしが見てもいいか?」

「うん、もちろん」


 俺は魔石のひとつをリアナの手のひらに置いた。

 

 すると驚く事に、その瞬間、魔石の光が消えてしまった。


 なんだ? 魔石が不良品なのか? いや、そもそも魔石に不良品なんてあるのか……?


 それから俺は、何度も試した。

 俺の手のひらに置くと、魔石は光ったままだ。

 しかしリアナの手のひらに置くと、魔石の光は一瞬で消えてしまう。


 どういうことだ?


 ふと、魔石のマナの状況はどうなっているのだろうと思って、俺は目を凝らし、マナの動きを追ってみた。


 魔石をリアナの手のひらに載せた。

 すると想像通り、魔石のマナが消滅した。

 いや、さらに驚くべきことが他にあった。


 マナは何にでも宿っている。

 それこそ、あらゆるものに。


 黒い霧のようなマナの粒子は、絶えず大気中を漂っている。

 しかし、リアナの身体の周りには、マナが存在していなかった。

 まるで空間にポッカリとリアナの形が浮いているように。


 マナが、リアナという存在を拒絶するように。

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