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第9話 世界樹の印と、広がる噂

廃遺跡を出た時には、すでに空が茜色に染まっていた。

森を抜ける風が、焦げた石の匂いを運んでくる。

リナが隣で深呼吸した。

「……外の空気、こんなにおいしかったんだ」

「生きて帰ったからこそだ」

俺は軽く笑って答える。

リナも笑い返したが、その顔には少し誇らしげな色があった。

街に戻り、俺たちはギルドに報告を済ませた。

カウンターの奥で、受付嬢が報告書を読み上げるたびに、周囲がざわめく。

「一体でCランク以上の危険種だぞ……」

「それを、二人で? 嘘だろ」

やがて、俺が取り出した“緑の結晶”を見て、受付嬢は顔色を変えた。

「こ、これは……! 王都で記録されている“世界樹紋章”の魔核に酷似しています!」

「世界樹……だと?」

「まさか、伝説の加護を受けた者が……」

ざわめきは一気に広がり、ギルド中の視線が俺に集中する。

リナが少し心配そうに見上げた。

「カイ……どうするの?」

「……放っておいても噂は広がるだろう。なら、隠さない」

俺はギルドマスターの前に立ち、短く告げた。

「確かに、この魔核には“世界樹の印”が刻まれている。俺の力とも関係があるかもしれない」

重苦しい沈黙の後、マスターは低く言った。

「……お前の存在は、近いうちに王都に知られるだろう。覚悟しておけ」

ギルドを出た後、街の広場はもう夜の灯に包まれていた。

露店の灯りが並び、子どもたちの笑い声が遠くで響く。

リナがぽつりと呟く。

「カイ……本当に、世界樹の加護を持ってるのね」

「たぶんな。でも、正確には俺にも分からない。ただ一つだけ言えるのは――この力は、誰かの命を奪うためじゃない」

「……守るため、だよね?」

俺は頷いた。

「ああ」

リナは静かに笑った。

「だったら、私もその力の隣にいたい。弟子じゃなくて……相棒として」

その言葉に、俺は少し驚いた。

だがその瞳に迷いはなかった。

「……お前はもう十分強い。相棒でも、悪くないな」

リナの顔がぱっと明るくなる。

その笑顔を見て、胸の奥に温かいものが広がった。

その夜。

ギルドの奥の一室――。

老齢のギルドマスターが、魔晶石越しに誰かと通信していた。

「……確認しました。確かに“世界樹の紋章”です。名はカイ=アーデン」

『その名、記録に残しておけ。世界樹の加護を持つ者が現れたとなれば、王も動く。』

「承知しました。――彼が、嵐の中心になるやもしれませんな」

魔晶石の光が消える。

静かな室内に、マスターは独りごちた。

「英雄か、災厄か……。どちらに転ぶかは、まだ分からん」

翌朝。

ギルドの前には人だかりができていた。

「カイ=アーデンってのはどんな奴だ!?」

「世界樹の加護を持つ冒険者だって!」

「王都の調査団が来るらしいぞ!」

人々の視線と声が渦巻く中、俺はリナと並んで歩いた。

「……一気に面倒なことになったな」

「でも、これが始まりなんでしょ?」

リナの言葉に、俺は小さく笑って答える。

「そうだな。――ここからが、本当の冒険だ」

その瞬間、太陽の光が差し込み、

俺たちの背を照らした。

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