第6話 ギルドでの報告と波紋
依頼を終えた俺とリナは、夕刻の冒険者ギルドに戻ってきた。
大広間には既に冒険者たちが集まり、酒を片手に喧噪が広がっている。
「おい見ろ、カイだ」
「ゴブリン退治に行ったんだろ?」
俺の姿を認めた瞬間、ざわめきが走った。
どうやら既に“Bランクの新人”の噂は、ギルド全体に広まっているらしい。
受付嬢がカウンター越しに微笑んだ。
「カイ様、お帰りなさいませ。依頼の結果はいかがでしたか?」
俺は依頼票を差し出し、簡潔に答える。
「ゴブリンは殲滅した。村人も無事だ」
「す、殲滅……!?」
受付嬢の声が少し裏返る。
その瞬間、周囲の冒険者たちもざわつき出した。
「十匹以上の群れだって聞いたぞ!?」
「殲滅って、そんな簡単に……」
俺は無言で依頼達成の証拠――黒焦げのゴブリンの牙を並べる。
受付嬢は目を見開き、やがて深々と頭を下げた。
「確かに確認いたしました。依頼は、完了です」
その場に、静寂が落ちた。
だが次の瞬間――
「おいおい、まさか本当にやりやがったのか!?」
「嘘だろ……新人のくせに……」
驚愕と嫉妬が入り混じった声が飛び交う。
◆
そこへ、一人の冒険者が立ち上がった。
昨日、試験場で俺を罵っていた男だ。
「調子に乗るなよ、カイ! どうせ村人に手伝わせたんだろ!?」
「証拠は目の前にある」
俺は冷たく言い返す。
「はっ、そんなもん信じられるか! 俺は見てねえんだ!」
苛立った声が広がる。
その時、横にいたリナが一歩前に出た。
「見てました! カイが、一人で全部倒したんです!」
「なっ……!?」
冒険者たちの視線が一斉にリナへ向く。
彼女は真っ直ぐに言った。
「私、リナ=ハーヴェイ。冒険者志望です。……カイは、私を守ってくれました。誰も信じなくても、私が証人になります!」
凛とした声に、大広間は静まり返った。
◆
やがて、誰かが小さく呟く。
「……本物か」
その呟きが波紋のように広がり、冒険者たちの目が俺を見る。
恐れ、羨望、そして――認めざるを得ないという視線。
俺は受け止め、静かに言った。
「信じるか信じないかは勝手だ。ただ……俺の力はもう隠すつもりはない」
その言葉に、ざわめきがさらに大きくなる。
一方で、リナが横に立ち、真剣な表情で俺を見上げていた。
「カイ……私、あなたの弟子になります!」
「……は?」
「冒険者になるために、強くなりたいの! だから私を鍛えて!」
その宣言に、冒険者たちが一斉に騒ぎ出した。
「弟子だと!?」
「女の子を弟子にするのか!?」
「いや、そもそも弟子入りしたいって……どういう関係だよ!?」
勘違い混じりの声で大広間は大混乱。
俺は頭を抱えながらも、ふと笑みをこぼした。
「……勝手に決めやがって」
だが、不思議と悪い気はしなかった。
◆
その夜。
ギルドの掲示板に、一枚の新しい依頼が張り出された。
内容は――
【近隣の廃遺跡に魔物の気配あり。調査を求む】
俺とリナの視線が同時にそこへ向く。
「次は、これか」
「うん、一緒に行こう!」
こうして俺たちの冒険は、次の舞台へと広がっていった。