第5話 冒険者志望の少女との出会い
「きゃあああああっ!」
村の反対側から響いた悲鳴に、俺は迷わず駆け出した。
森を抜けた先、畑の中で一人の少女がゴブリンに追い詰められている。
腰まで届く栗色の髪を揺らし、必死に木の棒を振り回していた。
「くっ……離れなさいっ!」
だが相手は二匹。
棍棒を振り上げたゴブリンの一撃が迫る。
「間に合え……!」
俺は右手をかざし、風刃を放った。
シュッ、と音を立てて飛んだ刃はゴブリンの腕を切り裂き、棍棒が地面に落ちる。
「ギギィィッ!?」
驚くゴブリンを、さらに炎弾で撃ち抜く。
残った一匹も土の槍で仕留めると、辺りは静寂を取り戻した。
「……大丈夫か?」
俺が声をかけると、少女は驚いたように俺を見上げた。
大きな緑の瞳が揺れている。
「い、今の……あなたが?」
「他に誰がいる」
俺は肩を竦めた。
少女はしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく頭を下げた。
「助けてくれて……ありがとう」
◆
村へ戻る途中、少女は口を開いた。
「私、リナ=ハーヴェイ。実は……冒険者を目指してるの」
「冒険者、ね」
「うん。でも村じゃ『女が剣を持つなんて』って言われて、笑われてばかりで……。だから今日、依頼が出てるって聞いて、勝手に様子を見に来ちゃったんだ」
少しバツが悪そうに笑うリナ。
その姿に、かつて村で“最弱”と笑われた自分を重ねた。
「なるほどな。無謀だが……気持ちはわかる」
「え?」
「俺も昔は、何をやっても無能だと笑われてた。けど結局、決めつけていたのは周囲の方だった」
リナの目が丸くなる。
「……あなた、カイ=アーデン? ギルドの試験で六属性を操ったって噂の……?」
「そう呼ばれてるらしいな」
俺が淡々と答えると、リナは息を呑んだ。
「やっぱり……! 最弱って笑われてたはずなのに、本当は……」
彼女の視線に、嘲りはなく、純粋な驚きと憧れが混ざっていた。
◆
村に戻ると、村人たちが一斉に歓声をあげた。
「ゴブリンが……本当にいなくなった!」
「これで安心して暮らせる!」
感謝の言葉を浴びる俺の横で、リナも小さく頭を下げている。
「カイ、もしよければ……私を鍛えてくれない?」
「鍛える?」
「私、冒険者になりたいの。本当は剣の練習もしてる。でも実戦は怖くて……。今日みたいに、ただの足手まといじゃ嫌なの」
真剣な瞳で俺を見つめるリナ。
その瞳には、かつての自分と同じ「笑われたくない」という想いが宿っていた。
「……簡単じゃないぞ。冒険者は死と隣り合わせだ」
「それでも挑戦したい。だって……あなたみたいになりたいから」
胸の奥で何かが熱くなる。
俺を無能と決めつけた村人たちとは違い、リナは俺を“目標”として見ていた。
「……いいだろう」
俺は頷いた。
「ただし、一つだけ条件がある」
「条件?」
「俺のやり方に文句を言うな。死ぬ気で食らいつけ」
リナはきっぱりと頷いた。
「うん! 絶対に諦めない!」
その瞬間、俺は思った。
これはただの依頼じゃない。
ここから新しい冒険が始まるのだ、と。