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第5話 冒険者志望の少女との出会い

「きゃあああああっ!」

村の反対側から響いた悲鳴に、俺は迷わず駆け出した。

森を抜けた先、畑の中で一人の少女がゴブリンに追い詰められている。

腰まで届く栗色の髪を揺らし、必死に木の棒を振り回していた。

「くっ……離れなさいっ!」

だが相手は二匹。

棍棒を振り上げたゴブリンの一撃が迫る。

「間に合え……!」

俺は右手をかざし、風刃を放った。

シュッ、と音を立てて飛んだ刃はゴブリンの腕を切り裂き、棍棒が地面に落ちる。

「ギギィィッ!?」

驚くゴブリンを、さらに炎弾で撃ち抜く。

残った一匹も土の槍で仕留めると、辺りは静寂を取り戻した。

「……大丈夫か?」

俺が声をかけると、少女は驚いたように俺を見上げた。

大きな緑の瞳が揺れている。

「い、今の……あなたが?」

「他に誰がいる」

俺は肩を竦めた。

少女はしばらく俺を見つめていたが、やがて小さく頭を下げた。

「助けてくれて……ありがとう」

村へ戻る途中、少女は口を開いた。

「私、リナ=ハーヴェイ。実は……冒険者を目指してるの」

「冒険者、ね」

「うん。でも村じゃ『女が剣を持つなんて』って言われて、笑われてばかりで……。だから今日、依頼が出てるって聞いて、勝手に様子を見に来ちゃったんだ」

少しバツが悪そうに笑うリナ。

その姿に、かつて村で“最弱”と笑われた自分を重ねた。

「なるほどな。無謀だが……気持ちはわかる」

「え?」

「俺も昔は、何をやっても無能だと笑われてた。けど結局、決めつけていたのは周囲の方だった」

リナの目が丸くなる。

「……あなた、カイ=アーデン? ギルドの試験で六属性を操ったって噂の……?」

「そう呼ばれてるらしいな」

俺が淡々と答えると、リナは息を呑んだ。

「やっぱり……! 最弱って笑われてたはずなのに、本当は……」

彼女の視線に、嘲りはなく、純粋な驚きと憧れが混ざっていた。

村に戻ると、村人たちが一斉に歓声をあげた。

「ゴブリンが……本当にいなくなった!」

「これで安心して暮らせる!」

感謝の言葉を浴びる俺の横で、リナも小さく頭を下げている。

「カイ、もしよければ……私を鍛えてくれない?」

「鍛える?」

「私、冒険者になりたいの。本当は剣の練習もしてる。でも実戦は怖くて……。今日みたいに、ただの足手まといじゃ嫌なの」

真剣な瞳で俺を見つめるリナ。

その瞳には、かつての自分と同じ「笑われたくない」という想いが宿っていた。

「……簡単じゃないぞ。冒険者は死と隣り合わせだ」

「それでも挑戦したい。だって……あなたみたいになりたいから」

胸の奥で何かが熱くなる。

俺を無能と決めつけた村人たちとは違い、リナは俺を“目標”として見ていた。

「……いいだろう」

俺は頷いた。

「ただし、一つだけ条件がある」

「条件?」

「俺のやり方に文句を言うな。死ぬ気で食らいつけ」

リナはきっぱりと頷いた。

「うん! 絶対に諦めない!」

その瞬間、俺は思った。

これはただの依頼じゃない。

ここから新しい冒険が始まるのだ、と。

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