第4話 初依頼はゴブリン討伐
「依頼内容は……ゴブリンの群れ退治、ですか」
冒険者ギルドの掲示板で、俺は紙を一枚抜き取った。
近隣の村に現れたゴブリンが農作物を荒らし、人々を脅かしているという。
「初心者にはちょうどいい依頼だな」
受付嬢も頷いた。
「はい。通常ならFランクやEランクの方々がパーティを組んで挑みます。……ですが、カイ様ほどの実力者なら問題ないでしょう」
俺は冒険者カードを見つめる。
登録したばかりだというのに、そこにはBランクの刻印が刻まれていた。
試験場での一件は、ギルド内でも既に噂になっているらしい。
「じゃあ、これを受けます」
依頼票を差し出し、俺は最初の仕事に向かうことにした。
◆
目的地の村は、ギルドから半日ほど歩いたところにあった。
村の入口には既に別の冒険者たちが集まっている。
「おい、あれ……カイじゃないか?」
「例の“六属性の化け物”だろ……」
俺の姿を見て、冒険者たちがざわついた。
その中には、試験で一緒だった受験生の顔もある。
「へっ……Bランク様が、俺たちと同じゴブリン退治かよ」
「どれだけ強くても、結局はゴブリン相手だろ。調子に乗ってんじゃねえぞ」
嫌味ったらしく笑う彼らを無視し、俺は村人たちに話を聞く。
「ゴ、ゴブリンは森の奥に巣を作っています。最近は十匹以上の群れで現れて……」
「わかりました。すぐに片づけます」
村人は安堵の表情を浮かべたが、横で聞いていた冒険者たちは鼻で笑った。
「はっ、ゴブリン十匹でビビってやがる」
「俺たちが片づけてやるから、無様に逃げ帰るなよ?」
彼らは武器を構え、森の奥へと入っていった。
俺も同じ方向へ足を踏み入れる。
◆
森の中は薄暗く、湿った空気が漂っていた。
やがて、甲高い鳴き声が響く。
「ギギィィッ!」
「来たぞ、ゴブリンだ!」
茂みから飛び出してきたのは、粗末な棍棒を振りかざす緑色の小鬼たち。
三匹、五匹……次々と現れ、冒険者たちに襲いかかる。
「くっ、速い……!」
「一匹や二匹ならともかく、多すぎる!」
受験生時代に俺を馬鹿にしていた冒険者たちは、すぐに押され始めた。
盾で必死に防ぎ、剣を振るうが、連携も取れていない。
「おいカイ! お前も戦え!」
「Bランクなんだろ、証明してみろよ!」
必死に叫ぶ彼らを横目に、俺はゆっくりと手をかざした。
「……燃え尽きろ」
次の瞬間、ゴブリンの群れを炎の奔流が飲み込んだ。
「ギャアアアッ!」
絶叫が森に響き、数匹のゴブリンが黒焦げになって倒れる。
「な、なんだと……!?」
「一瞬で……!」
さらに俺は指を鳴らす。
足元から氷の槍が伸び、残ったゴブリンを串刺しにする。
風が唸り、土が隆起し、光が閃き――闇が敵の視界を奪った。
六属性魔法が連鎖する。
わずか数秒で、十匹以上いたゴブリンは全滅していた。
「……ふう。終わったな」
俺は軽く息を吐くだけで、無傷のまま立っていた。
◆
「お、おい……こいつ……」
「本当に、六属性を操ってやがる……」
怯えた目で俺を見る冒険者たち。
さっきまで「調子に乗るな」と言っていた彼らは、今は震えていた。
「冗談じゃねえ……こんな奴が同じ冒険者だなんて……」
「い、いや、俺たちは最初から信じてたからな!?」
また手のひら返しか。
俺は冷たく笑った。
「……信じてた? さっきまで馬鹿にしてたのは誰だった?」
彼らは顔を真っ青にして口を閉ざした。
俺は振り返り、村へ戻る。
これで依頼は完了だ。
村に戻ると、報告を受けた村人たちが涙を浮かべて感謝してきた。
「ありがとうございます! これで安心して眠れます!」
その素直な言葉に、俺は初めて冒険者としての充実感を覚えた。
力を示すためだけじゃない。
誰かを守るために、この力を使う――。
その時、遠くから甲高い悲鳴が響いた。
「きゃああああっ!」
村の反対側からだ。
俺は即座に駆け出した。
「まだ、残りがいたか……」
そう呟きながら、次なる戦いに備えるのだった。