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第3話 手のひら返し

「……す、すごい……」

訓練場にいた見物人たちは、まだ呆然としていた。

地面には六属性の魔法が刻んだ傷跡が残っている。

焦げ跡、氷の塊、抉れた石畳。

その中心に立つ俺――カイ=アーデンを、誰もが信じられない目で見ていた。

「こ、これほどの魔力……私の三十年の経験でも前例がない……!」

試験官は青ざめながら叫ぶ。

「カイ=アーデン! 君は冒険者資格試験を――合格! いえ、それ以上だ! Bランク冒険者として特例登録する!」

「Bランクだと……!?」

「初参加で、いきなり中位冒険者……そんなの聞いたことがない!」

どよめきが走る。

ついさっきまで俺を「無能」と嘲っていた人間たちが、今は畏怖の目を向けていた。

「す、すごいなカイ! いや、君ならやれると思っていたんだ!」

「そうそう! 俺たちは信じてたぞ!」

――手のひら返し。

俺は冷めた目で彼らを見た。

さっきまで「最弱」だの「無能」だのと笑っていたくせに。

結果を見た瞬間、態度を翻す。

そんな連中の言葉が、俺に届くはずもない。

「……必要ない」

短くそう返して、俺は訓練場を後にした。

ギルド本部の受付。

俺は特例扱いで、すぐに冒険者として登録を行うことになった。

「カイ=アーデン様ですね。……えっと、試験官から報告が来ていますが、本当に六属性を操られたんですか?」

受付嬢の目がまん丸になっている。

俺は小さく頷いた。

「制御にはまだ慣れてないけどな」

「そ、そんな……! これほどの逸材、ギルドとしても大切にしなくては……!」

俺の冒険者カードが差し出された。

普通は見習いランクのFから始まるが、俺のカードには最初からBランクの刻印が輝いていた。

「……本当に、冒険者になれたんだな」

俺はカードを握りしめ、胸の奥に熱いものを感じた。

最弱と笑われ、無能と呼ばれてきた俺が、ようやく手に入れた居場所。

だが同時に――周囲の視線もまた、変わっていった。

「カイ様! ぜひうちのパーティに!」

「君の力があれば、どんな依頼も楽勝だ!」

「一緒にダンジョン攻略しよう!」

さっきまで俺を蔑んでいた受験生たちが、今度は必死に媚びを売ってくる。

その滑稽さに、心の中で苦笑した。

「悪いが、俺は一人でやる」

きっぱりと断ると、彼らの顔が引きつった。

「お、俺たちを見捨てるのか!?」

「調子に乗るなよ、昨日まで無能だったくせに!」

「……昨日まで無能だと笑ってたのは、どこの誰だったか」

俺が静かに返すと、誰も言葉を返せなかった。

その日の夕暮れ。

ギルドを出た俺は、カードを見つめながら歩いていた。

カードには自分の名前と、Bランク冒険者の証。

「……ここからだ」

全ての魔法を操る力、《世界樹の加護》。

この力をどう使うかは、俺次第だ。

冒険者として成り上がるのも、のんびり暮らすのも。

だが一つだけ確かなことがある。

俺を最弱と笑った連中には、もう二度と頭を下げることはない。

そして――やがて世界すら、この力に気づくことになるだろう。

その時、俺の物語はようやく始まったばかりだった。

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