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エピローグ:遠ざかる祈り、交わらぬままに
陽の落ちた王都の空に、一番星が静かに瞬いていた。
城の高窓から、それを見上げる少女がいた。
銀の鈴のような祈りを、心の中で唱えながら──
けれども、神の声は今も、彼女に何も告げてはくれない。
(……わたしは、間違っているのかもしれません)
誰にも届かぬ祈り。
名前を呼ばれ、心を揺さぶられたあの日のことを、胸の奥にしまい込む。
ただ、あの瞳だけは、忘れられなかった。
★
一方で、地平の彼方を見つめる一人の男。
その足は、確かに新たな一歩を踏み出していた。
無言のまま、誰にも頼らず、誰にも縋らず。
ただ剣を携え、進む先にある“何か”を信じて。
(振り返らない。もう、誰にも)
名もなく、加護もなく、祝福もされずに生きる者。
だが、その背には、確かな意志があった。
交わるはずだった道が、すれ違い、遠ざかる。
けれど、まだ終わりではない。
この物語は、ようやく始まったばかりなのだから。