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星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

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導かれし道4:座標の祠

凍てつく風が吹きすさぶ中、レオンたちは第二座標へ向けて雪道を進んでいた。セファリア凍域の中央部に近づくにつれ、雪の質も変わってきている。粒が細かく、鋭く、風に乗って頬を切った。


「ユイ、寒くない?」


「だ、大丈夫……ネルンがあったかい、から……」


ライナの隣で、ネルンをぎゅっと抱いたユイがかすかに笑う。小さな癒し手は、ぷるぷる震えながらも健気に体温を放っていた。


「それにしても、座標の反応……次の痕は、少し違うように見えるわ」


ミリアが観測端末を確認しながら言った。


「発生源は“星神干渉波”に近い。召喚痕っていうより、星術式の残留っぽいな」


カイルが補足する。


「それってつまり……?」


ライナが首を傾げる。


「召喚というより“祈り”の痕跡、ってことかもな」


レオンはそう呟いた。



やがて、雪原の端にぽっかりと開いた岩場の凹みが現れた。古びた柱。崩れかけた天蓋。

それは、祠の跡地のようだった。


「……ここ、建造年代かなり古いわ。星歴以前の可能性もあるわね」


ミリアが構造を見ながら慎重に歩を進める。


「この魔力の痕跡……残留してる“言霊”に反応してる。誰かが、ここで何かを──」


「呼んだ?」


ユイの声がかすれた。


全員が彼女を見る。ユイは小さく首を振った。


「……なんでもない。ちょっと、懐かしい気がして」


その瞬間、ふと脳裏をよぎった。


──あなたは、まだ名前がないのね。


誰かが、そう言った気がした。優しい声だった。けれど、よく思い出せない。


ユイは胸元を押さえる。


それは記憶ではない。感覚だ。手のひらのぬくもり。名を与えられたときの、世界が変わるような衝撃。


けれど、それを口に出すことはできなかった。



「この祠……あんまり長居したくないな。寒さのせいじゃない、なんか空気が重い」


「……干渉波の影響ね。術式が未だにこの空間に滞留してる」


「気をつけよう。次の地点は、ここより深く、近い」


レオンは振り返り、ユイを見た。彼女は目を伏せたまま、小さく頷いた。


彼女が抱える“なにか”は、きっと簡単に触れてはいけない。けれど──


「俺たちは、お前がここにいることを選んだ。……それだけは、忘れないでくれ」



その夜。


レオンとカイルはシェルムを伴い、雪原を迂回した一時拠点としていた野営地に戻った。ギルド本部で待つグレイムへと通信端末で観測ログを転送し、報告するためだ。


「……気づいてたか。あの祠、“第二座標”の位置のはずだったのに──反応が消えていた」


「座標そのものが“祠”になった、というより、“器”として記録を残す構造に変質した感じだな」


カイルは端末を確認しながら頷く。


「通常の召喚痕とは別系統。“存在を記録する意志”に近い術式……まるで、神格干渉に近い挙動だ」


<……。>


「──座標記録に、“存在しない干渉波形”があった。誰かが、まだ名を持たない存在を“呼びかけている”ような波動だ」


カイルの報告の後、しばしの沈黙を経て、シェルムが端末を覗き込んで言った。


「観測端末からの記録が、部分的に“沈黙”している」


「……観測自体が、拒絶された?」


「いや、座標そのものが、“記録から除外された”ような形跡がある。“存在していた痕跡だけが、外部から消去された”」


グレイムは静かに目を伏せた。


<──だからこそ、俺たちは記録しなければならない。名を与えられなかった存在の痕跡を、誰かが覚えていなければならない>


その声が落ちたあと、シェルムがちらりとレオンを見やり、静かに口を開いた。


「君は、“名を持つ存在”として記録された。その意味が、どれほど大きいか……いずれ分かる」


レオンは、チラつく雪を見つめながら小さく呟いた。


「……どういう意味だ?」


夜の雪は、音もなく世界を覆い隠していた。


「次の場所へ持ち越しだな。……答えは、まだ続いてる気がする」

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