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星を超えて世界を変えた日~星が導くのは、希望か、それとも終焉か。~  作者: 廻野 久彩
第5章 星を蝕む座標

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導かれし道2:共鳴の兆し

セファリア凍域。


それはアルセール大世界の最北端に広がる、氷と静寂の地。


今から千年以上前──星歴720年前後、凍結災害によって壊滅した“幻獣災害地帯”として知られている。神話時代の遺構が埋もれ、今も“眠れる幻獣”が潜むとされるその地は、冒険者たちにとって、畏怖と憧れの象徴でもあった。


そのセファリア凍域に向かって、氷結した河を越え、吹き荒ぶ風の中、レオンたちは足跡の残らぬ雪を踏みしめて進んでいた。


「ねぇ……寒すぎない!?」


ライナが肩をすくめ、ネルンを抱きなおす。水色の小さな体がふるふると震える。


「霊脈の流れが変わってる。自然の冷気じゃないわね」


ミリアが辺りを見回しながら呟いた。


「召喚痕の座標、もうすぐだ。……カイル、頼む」


レオンの言葉に、カイルは魔力観測用の術式盤を展開した。


「異常個体の魔力……ある。しかも、座標に食い込んでる。痕を“喰ってる”ような反応だ」


「痕の再活性化って、そういうこと……?」


ユイが顔を強張らせる。その指先には、微かに震えがあった。


「ユイ、怖いなら、アタシの後ろにいていいよ?」


ライナが屈んで微笑みかける。

だが、ユイは首を横に振った。


「……大丈夫。見ていたいの。わたしが、見ようとしなかったものを」


その言葉に、レオンは静かに頷いた。



霧が晴れると、そこには“それ”がいた。召喚痕の中心──星形に穿たれた氷原の中心に、蠢く巨大な影。牙、脚、尾、そして禍々しい角。それは、魔獣の姿を借りながらも、異様に鼓動する“核”を宿していた。


「来るぞ!」


けたたましい咆哮と共に、魔力の奔流が吹き荒れる。


真っ先に動いたのはライナだった。氷を滑るように接近し、双爪を振るう。


「えっ、通らない……!これ、魔力障壁!?」


「召喚痕に融合して防御機構化してる……!結界を展開するわ!」


レオン、カイル、ライナが三方向に展開し、攻撃の隙を作る。


一方で、ユイはフラムを再び呼ぶため、胸元に手を当てた。指先が痛い。頭の奥で、何かが軋むような音がする。


──この反応、また……これは、なに?


震える視界の中、仲間たちの背中が見えた。


「……みんな、なんで……そんなふうに、立っていられるの……」


ずっと独りだった。力を持つことも、意味を知ることもなかった。ただ命じられ、従うだけの“道具”だったのに。今、ユイと名を呼ばれて、そして、あの時、差し出された手を思い出して──


ユイは立ち上がる。


「フラム──」


風が吹いた。炎が咆哮した。


「──応えて、今度こそ“わたしの”意思で!」


再召喚されたフラムの体が輝きを放ち、敵の核へと突進する。魔力干渉波が弾け、氷原が揺れた。


「──今だ!突破口ができた!」


レオンの号令とともに、仲間たちが一斉に駆け出す。


「ライナ、右へ回り込め!」


「了解ッ! ──《迅爪連脚(クイッククロー)》ッ!」


ライナが疾風のように駆け、回避と斬撃を織り交ぜた連続爪撃を叩き込む。両手の爪が氷片を舞わせ、敵の外殻を裂いていく。


「まだまだッ! ──《影爪乱舞(シャドウクロウ)》ッ!!」


次の瞬間、ライナの姿がぶれる。瞬間的な連撃──残像を伴う爪の嵐が、まるで“影”そのもののように敵を切り裂く。


そこにミリアの結界が重なり、光が味方を包む。


「カイル!」


「任せろ……《解析魔術陣:閃紋破シークエンス・ブレイカー》展開」


カイルの足元に魔術陣が展開され、空間に閃光が走る。座標干渉の特異点を捉える魔術式が起動し、敵の動きを一瞬封じた。


「今だ、レオン!」


「──斬り拓く。俺たちの座標を!」


レオンは剣を掲げ、瞳に光を宿す。


《アナライズアイ:戦術特化──抜剣起動》


瞳に浮かぶのは、敵の“破壊可能領域”──


「──《斬輝・双月斬(ザンキ・ソウゲツザン)》!」


レオンの剣が円を描く。


双つの月のような交差斬撃が奔り、フラムの咆哮と重なって敵の核を直撃した。


爆音。


閃光。


風が唸り、氷が砕ける。


──そして。


静寂が、訪れた。


魔獣は沈黙し、召喚痕の座標は崩壊を始めていた。


「これで……終わったの?」


ユイが尋ねた。


「……いや、始まったんだろうな。お前の、本当の旅が」


レオンは剣を納め、氷原の空を見上げた。


ユイは、そっと掌を見つめた。そこには、微かな光と、暖かな名残──


「……もう戻っていいよ。ありがとう、フラム」


少女の声に応えるように、掌から光がふわりと舞い、空気の中に溶けていく。気配は静かに遠ざかり、雪の中に残ったのは──ただ、小さなぬくもりだけだった。


凍てつく天の向こう、見えない星々が瞬いていた。

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