表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/62

名もなき隊11:凪の剣

霧は薄れていた。

だが、白く霞む世界の静けさは、嵐よりも重かった。


白く霞んだ地面を踏みしめる足音が、まるで眠っていた何かを起こさぬようにと、慎重なリズムで響く。


レオンは先頭を歩いていた。

剣を背に、視線を前に向けて。

その眼差しには、戦いを終えた安堵ではなく、未だ拭いきれない“何か”が潜んでいた。


その後ろを歩くのはカイル。

無言のまま、時折痛む頭部を押さえながらも、乱れずに歩き続ける。


ミリアは少し距離を置き、魔力の乱れを抑えるように胸元の星神印に触れていた。

軽く震える指先。まだ呪音の余波が、術式の回路に干渉している。


ライナは一番後ろを跳ねるように歩いていたが、時折、三人の背を見つめては、小さく息を吐いた。

彼女にとっては、初めて見る種類の“戦いの余波”だったのかもしれない。


それでも、誰も、口を開かない。

ただ霧の中、白い息を吐きながら、名もなき隊は帰路を辿っていた。



ギルドの灯が見えたとき、ようやく誰かが息を整えた。

ミリアだった。


「……帰還報告、私がまとめて提出しますね」


「助かる」

短く、レオンが頷いた。


ギルドに戻ると、報告と解析に数時間が費やされた。

提出された資料を読み、グレイムは目を細めて言う。


「魔力構造が……完全に召喚系に傾いてやがるな。だが、肝心の“召喚者”の痕跡は一切ねぇ」


彼は、机の上の解析波形を指で弾いた。

そこには、既知の召喚術とはまったく異なる、異質な干渉波が記録されていた。


「それと……北方、セファリア凍域の手前の観測所で、同系統の波が一瞬だけ検出された。

……調査依頼として、回すかもな。今すぐじゃねぇが、次の動きはそれか」


その言葉に、レオンは何も言わずに頷いた。



夜。

街の喧騒が遠のいた屋上で、レオンは一人、剣の手入れをしていた。


隣の屋根に、ライナが座っていた。


「……ねぇ、名前、ちゃんと決めようね」


レオンはわずかに目を向けた。


「ん。……そうだな」


「アタシ、パーティとか、ちょっと憧れてたんだー。

仲間って感じでさ、名前決めるって言われて、ちょっと泣きそうになったもん」


その無邪気な声に、レオンは小さく笑った。


「……泣いてなかったか?」


「泣いてない! ちょっと目に風が入っただけー!」


屋根の上、ライナは跳ねるように笑っていた。

その声が消えたあと、レオンはふと、空を仰いだ。


夜の空は、静かに澄んでいた。

初夏の空気が肌を撫でる夜。

けれど、その胸に灯る想いは、静かに、熱を持っていた。


(……まだ、終わっていない)


そう呟いた瞬間、彼の背後で、風が“逆らうように”揺れた。

それは自然の風ではなく、どこか“意志”を持った何かが、空気を押し流すような感覚だった。

誰もいないはずの場所に、確かに、何かが通り過ぎたような、そんな気配。


レオンは剣の柄に手をかけたが、すぐにそれを離した。


──ただの風、かもしれない。


だが、その“かもしれない”を、彼は忘れない。


名もなき隊。


その剣が向かう先に、また、新たな影が生まれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ