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名もなき隊10:封じられた門

焚き火が小さくぱちぱちと鳴った。


風は穏やかだった。だが、霊脈の歪みが空を乱し、白い霧が静かに舞い続けていた。

名もなき隊は、斃した異形の影──召喚痕跡を持つ新種の異常個体の残骸を背に、山裾の洞窟近くで小さな野営を組んでいた。


ライナは早々に食事を済ませて眠りにつき、カイルは鍛錬と称して見張りを買って出ている。

静かな夜──残る二人の姿が、炎の明かりに浮かんでいた。


「……レオン」


膝を抱えるように座っていたミリアが、ふと呟いた。


「この一帯……やはり、何かがおかしいです。あの個体だけでなく、この地そのものが……」


レオンは視線を動かした。ミリアの視線の先には、かつての封印拠点の遺構が、薄く霧に覆われて朧に見えていた。


「星刻。召喚術。異界の魔力痕。どれも、古代の禁術と繋がりが深いものです。

 そして──教会の文献の中に、かつて“神域”と呼ばれた封印地帯の記録がありました」


「神域……?」


「はい。公式にはすでに破棄された魔術研究所の跡地とされているようですが……実際は、封じられた“異界門”の残滓がある場所。

 そして、その座標と一致するのが──この近辺です」


ふたりの間に、冷たい風がすっと流れた。


「教会では、異端の術式は一切記録を残さず封印されたとされています。

 でも、あの星刻……

 “封印されたはずの術式”が再現された痕跡です。もし、誰かが意図的にそれを──」


言葉が、火の粉のように消えていった。


レオンは答えなかった。ただ、焚き火の明かりの向こうに広がる景色を見つめていた。


──静寂。

だがその静けさは、終わりではなく、新たな始まりの前触れだった。



翌朝、風はさらに冷たくなっていた。

それでも、白くぼやけた空の下に立つレオンの姿には、どこか凪いだような静けさがあった。


「……帰ろう」


言葉は短く、だが確かに道を示していた。


その背に、ミリアも、ライナも、そしてカイルも迷わず歩みを重ねる。


白く揺れる空の向こう、未だ知られぬ“真実”と“異界”の気配が、微かに揺れていた。

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