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名もなき隊8:刻まれし紋

銀白に霞む丘陵を、旅人たちの影がゆっくりと歩いていく。

その先にあるのは、数年前に廃村となった小集落──“ルスト村”跡。


「しっかし、さむっ……レオン、アタシの前にいて、風よけてよ」


ライナがレオンの背中に隠れるようにして歩く。

ショートカットの髪が跳ね、吐く息が白く舞った。


高地の凛とした風が、頬をなでていく。

遠く霊脈の歪みに沿って吹き下ろす風が、道なき道を進む四人の隊を包み込んでいた。


「私たちが調査に向かうのは、瘴気の揺らぎが観測された北端の拠点ですね」


ミリアの落ち着いた口調が、冷えた風に溶けていく。

そこは標高が高く、季節を忘れたような空気が支配する地だった。

彼女の視線はすでに前方の地形を読み、足元の魔力の流れに集中している。


「……この風は、自然のものではありません。魔力の循環に異常があります」


「つまり、寒いのは気のせいじゃないってことね……」


ライナが唇を尖らせ、レオンをチラと見たが、返事はない。



到着した“ルスト村”は、想像以上に静かだった。


建物は半壊し、生活の痕跡はすでに風化している。

だが、ミリアの目が一つの小屋で止まる。


「……この壁面。古びた符が焼き付いたような痕跡があります。

 これは聖域のものではありません。

 文字の配置、線の引き方……形式がまるで違う」


「違うって、どんな?」


「おそらく、遮断系……あるいは、転位阻止。内部に“何か”を閉じ込めていたような……」


カイルが剣の柄に触れ、周囲を見渡した。


「人の気配は?」


「感じないよ。でも……あれ?」


ライナが小さく首をかしげた。


「さっき……誰かが見てた気がしたんだけど、気のせい?」



村の中央、崩れかけた祠のような建物。

その床面には、淡く凍りついた魔法陣が刻まれていた。


六芒星と円環、交差する転移座標──氷膜に覆われた床面に、紫の瘴気が滲むように染みついていた。


「……これは!」


ミリアの声が震えた。


「召喚術式です。古い形式……でも、これは確かに、召喚の構造」


「……封印された禁術じゃないのか、召喚術は」


「じゃあ、誰がこんなの……」


カイルが言い、ライナが続ける。


「わかりません。でも、この“痕跡”は……一度は動いたものです。

 ……何かを、呼んだか──あるいは、“送り出した”か」


ミリアの言葉に、レオンの眉がわずかに動く。


──ここにあるものは、魔術の“外側”にある気がする。

式の構造も、魔力の揺らぎも、既知のものとは異なる。まるで──“異界”の気配だ。


剣を握る手に力がこもる。

その刹那──


地面の術式の中心から、ほのかに瘴気が立ち上った。


かすかな振動とともに、空気が粘つき、奥の闇から低い咆哮が響く。


「来るぞ」


レオンの低い声が、吹雪の中に消えた。

レオンの低い声が、視界を曇らせる風の中に消えた。

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