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名もなき隊7:名乗りの剣

朝の光が、リグナ=バストの街並みにゆっくりと差し込んでいた。


冒険者ギルドの一角、まだ人の気配もまばらな時刻。

それでも、四人の姿は、すでに正面玄関前に揃っていた。


ライナが大きく伸びをして、背中を反らせる。


「ふわ~……アタシ、朝は苦手なんだよねぇ。でも、今日から“正式メンバー”だから、頑張るっ!」

「前回の依頼が終わった後に、登録は済ませたけどな」


カイルが軽く応じる。

ミリアは静かに周囲を見渡し、レオンは無言のまま立っていた。


それは、名を持たぬ隊が、名を持たぬまま歩き出す──そんな朝だった。



「おう、もう出るか。早ぇな。もう少し休暇をとっても良かったんだぞ」


ギルドのカウンターの奥から姿を見せたのは、ギルドマスター・グレイムだった。

義足の音を響かせながら近づいてきたその巨体は、どこか誇らしげにも見えた。


「昇格後初任務。“北方方面の獣異変調査”だったな。──もう遊びじゃねぇぞ」


「……覚悟はある」


レオンが短く答える。

その瞳は、確かな光を宿していた。


「名前はまだ決まってねぇらしいが……。

 まあ、今のうちは“名無しのA級パーティ”ってことで通しておく。適当にあだ名が付くかもな」


「《レオニャンズ》とか?」


「「却下だ」」


レオンとカイルの声が見事にハモり、ミリアがくすくすと笑った。


「そういえば、お前たちに話しておくことがある。

 前回の召喚痕跡、ギルド内でも調べているが、少し気になるところがあった」


グレイムが眉をひそめる。


「通常の召喚術とは波形が違う。

 まるで……術者ではなく、召喚された側が主導権を握っているような構造だ」


「召喚された側が?」


ミリアが首をかしげる。


「普通は術者が召喚獣をコントロールするものでは?」


「ああ。だが、この痕跡は逆だ。誰かが『応えた』ような、自発的な反応に近い」


グレイムは窓の外を見つめる。


「……まあ、憶測の域を出ないがな。

 ただ、こういう異常は放置できん。続報があれば教えてくれ。

 よし、じゃあ行け。街道は西門から北へ抜けるルートが安全だ」


グレイムの手を軽く振って、四人はギルドを後にした。



風が吹いていた。


初夏の風が、頬をかすめた。

まるで、旅の始まりを祝うように、空まで透き通っているような風だった。


街道を歩く四人の背には、それぞれが異なる思いを抱えている。


レオンは静かに立ち止まり、空を見上げた。


その手が、背の剣に触れる。


──俺たちは、まだ名を持たない。

──だが、名を持つ覚悟はある。


風が、剣士たちの髪をなでるように吹き抜ける。

彼はゆっくりと背に差した剣を抜き、太陽が昇り始めたばかりの澄んだ空へと、静かに構えた。


その動作に、全員の視線が自然と向けられた。


レオンは、剣を握る手にほんのわずかな力を込めると、 風を断つように──ただ、一閃。

鋼の閃きが、風を切る音だけを残して、朝焼けの空へと溶けていった。


カイルは目を細め、ミリアは胸の星神印に触れ、ライナは「おおっ」と小さく声を漏らした。


誰も口には出さなかったが、彼らの背中には、確かに“名”が宿っていた。

──その剣は、もはや無名ではない。 名もなき剣士たちの、最初の名乗りだった。

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