名もなき隊1:仮初めの再会
#第4章
[[第4章 名もなき隊と、交錯する影]]
リグナ=バスト冒険者ギルド本部。その朝は、騒がしさと熱気に満ちていた。
活気あふれるロビーでは、依頼を吟味する者、仲間と報酬を分け合う者、新たな冒険へと旅立つ者……さまざまな思惑が交錯している。
その一角。応接室と呼ばれる小部屋に、レオン、カイル、ライナの三人が通されていた。
「……で、その昇格任務ってのは、どういう感じなの?」
腕を組んで尋ねるのは、ライナだ。じっと前を睨んでいる。
「普通の依頼よりは危険度が高い。だが、A級と認めるに足る力量を示せばいい。それだけだ」
答えたのは、ギルドマスターのグレイム=ロッシュ。筋骨隆々とした体格に黒髪短髪、片足は義足ながら、今も現役さながらの鋭い眼光を放っていた。
「ふーん、簡単に言ってくれるね。危険度高いって、どのくらい?」
「任務の内容によるが、今回は『瘴気の発生地調査』だ」
「うわあ……それ、嫌な予感しかしないやつ」
ライナが渋い顔をするのも無理はない。
瘴気──魔力の偏りや穢れが土地に蓄積した結果、生物の異常や幻獣の出現を招くとされる現象だ。
「調査地点は都市近郊の廃村だ。元々、神殿に仕えていた村だったが……お前たちも、前に近くを通ったことがあるだろう」
「ベルデ……ああ、見覚えある」カイルが低く頷いた。
「今回はあくまで調査が目的だが、現場は瘴気も濃く、もしかするとそのまま激しい戦闘に展開する可能性もある。そこで、一名支援役を加えてもらう」
グレイムがそう言って扉を開けた。
──その瞬間、空気が変わった。
扉の向こうに立っていたのは、一人の年若い女性だった。
白銀の装束に身を包み、金髪を肩で切りそろえた、凜とした佇まい。
紫がかった瞳が、真っ直ぐにレオンを見据えていた。
「……久しぶりね、レオン、カイルも」
「……ああ」
「……久しぶり、だな」
それだけ。ほんの短い応酬。
しかし、その言葉の裏に流れる感情は、あまりにも濃く、重い。
「へ、え?え?ちょっと、えええ!?二人とも知り合い!?」
ライナが素っ頓狂な声を上げたのも無理はない。
「彼女はミリア=ルヴェールだ。
今回の任務に限り、ギルドと契約を交わして支援役を務めてもらう」
グレイムの紹介に、ミリアは無言で一礼する。
「教会にいるはずでは……?」カイルが警戒を隠さずに言う。
「……彼女はすでに教会を離れている。
詳細は俺が語ることではないが、今は冒険者と同様に活動している、とだけ理解してくれ」
カイルの視線と、ミリアの視線が交錯した。
だが、ミリアは怯まなかった。むしろ、ほんのわずかに、唇をかすかに吊り上げて。
「邪魔はしません。足手まといにもなりません。そういう契約ですから」
「……そうか」
「了解した」
レオンもカイルも、それ以上言葉を重ねなかった。
その姿を、ライナがじっと見つめていた。
その視線は、レオンでもカイルでもなく、ミリアに向けられていた。
(なーんか、知り合い以上の空気を感じるの、気のせいかなぁ……?)
翌朝、四人は調査地・ベルデ村へと向けて、静かに出発した。
その隊に、まだ“名前”はなかった。
だがその日、風は確かに吹いていた。
何かが変わり始める、予兆のように。




