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プロローグ:囚われの器

星神印は、静かに沈黙していた。


それは祝福か、呪いか。

あるいはただ、光の名を借りた“制御”の刻印か。


……いや、それは、誰かが残した“記録”なのかもしれない。

忘却されることさえも、意志だったとしたら。


星の巫女が、祈りをやめたのは、あの夜だった。


神殿の奥、誰も近づけぬ聖室にて、 少女は声を失い、星の声もまた、彼女に沈黙を返した。


「“器”に、意志は不要です」

そう言い切ったのは、教会の大司祭だっただろうか。


「近頃の聖女は、不安定だと報告がありました」

「王国騎士との接触以後、星神印が不調と――」

「“記憶”や“感情”に、影響を受けているのでは?」


誰かが言った。

「星は、変質しないものに宿る」と。


少女の意志は、いつから“異物”になったのか。


“器”として育てられ、“祈り”だけを与えられた少女は、 その夜、誰かの名を――ただ一度だけ、声に出して呼んだ。


それが、教会にとっては十分だった。


封印が施され、日々の祈りは台本となり、

誰かと交わす言葉すらも、書き換えられていく。


それでも、少女は祈っていた。


その祈りは、神へではなく。

彼方の空の、どこかで剣を振るう、あの人へ。


春の兆しが見え始めた王都の夜空には、新たな星が昇り始めていた。


少女は知っていた。

そのどれもが、かつて名を持たなかった光であることを。


名を呼ばれた瞬間、 星は“誰かの祈り”になる。


そしてその祈りは、決して、檻の中では終わらない。

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