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幕間:剣を見た者たち3 ―ギルドマスター・グレイムの記録―

ギルドの奥まった一室──

記録と報告が集まる作戦室の片隅で、グレイムは黙然と依頼書の束をめくっていた。


「……また、か」


魔核の異常肥大。

通常とは明らかに挙動が異なる個体。

低ランクの依頼にも関わらず、重傷者が出た報告。

最近の報告記録には、共通して“ある傾向”が浮かび上がっていた。


「異常個体の出現頻度……三月前の倍か。しかも、広域に散らばってる」


地図の上に赤い印を打ち込んでいく。

西方の旧街道、南の峡谷、中央平原、そして王都近郊。

“点”だった異変が、いつしか“面”を成し始めている。


「――他の都市支部でも、似たような報告が上がってきている。だが、どこも情報を公開しない。『偶然の個体変異』という建前で通されている。だが……」


どこかで繋がっている──

直感がそう告げていた。


「レオンの報告もか」


分厚い記録綴りの一番上には、さきほど提出されたばかりの討伐報告書。

“推定B級群れを短時間で制圧。主個体と思しき異常種を確認し、討伐”

──その一文に、目が留まる。


魔力の放出が極端だった。

ライナとカイルが圧倒的な魔力圧に怯む中、レオンだけがまったく動じなかったという。


「……あいつは“感じない”からこそ、見えてるのかもな」


魔力の流れを読まない。

だが、動きの予兆や間合い、戦場の流れを読む“眼”は、研ぎ澄まされている。

まるで“剣そのもの”のように──ただ、在る。


「無導因体質……本当に、やっかいなやつを抱え込んだな」


だがそれは、時として“何かに抗える力”でもあるのかもしれない。


ふと視線をやった棚には、過去の討伐記録が並んでいた。

数ヶ月前、西方鉱坑で報告された異常個体は、すでに「クレクナス」の名で登録されている。


「最初は、偶発的な異常と思ってたんだが……」


今では、そうと断じるにはあまりにも“数”が増えている。


棚に積まれた報告書の束を一つ引き抜き、古ぼけた封書に目を落とす。

差出人は、王都外縁にある魔力観測所──数日前に届いていたものだ。


まだ封も開けていなかったそれを、手に取る。


ギルドの窓の外では、夜風が古い木扉を鳴らしていた。


「……そろそろ、“上”に話を通すかね」


誰に語るでもなく呟いたその声が、室内に低く響いた。

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