名もなき剣士14:帰還とざわめき
夜が深まる頃、三人はギルドの扉を押し開けた。
血と土にまみれた装備のまま、言葉も交わさず、ただ静かに受付へと歩く。
その姿を、周囲の冒険者たちが一斉に振り返った。
「……おい、戻ってきたぞ、あの三人」
「魔力ゼロ、ソロ専門、ちびっ子の組み合わせって……どうなんだ?」
「あいつらだけで大型の異常個体を倒したってことか?」
「信じられねえ……あれ、二人はまだBランクだろ?」
囁きと視線の波が、フロア中を駆け抜ける。
だが、三人は振り向かない。いつものように黙して並ぶだけだ。
受付の女性が目を見開き、小さく息を呑んだ。
「……ご苦労様でした。……ギルドマスターが、お待ちです。
討伐証明は、そちらでご提出をお願いします。」
奥へ通された先、グレイムは例のごとく大きな椅子にどかりと座り、腕を組んでいた。
「……よく戻ったな」
三人の誰も何も言わない。
ただレオンが、証拠となる異常核を静かに机上へ置いた。
紫がかった瘴気の残滓が、鈍く揺れる。
「数日内に、個体名が付けられることになるだろう」
グレイムは深く息を吐き、しばしその核を見つめた。
「どうだった」
短い問いに、レオンが答える。
「強かった。……でも、三人だから勝てた」
それだけのやりとりに、グレイムは不敵に笑った。
「そうか。──やっぱ、お前らは面白ぇ」
カイルが眉をひそめると、グレイムは笑いながら続けた。
「ギルドってのはな、型破りな奴らほど記録に残る。……例外だらけでな」
横でライナが笑う。
「じゃあ、アタシたち“例外三人組”って呼ばれちゃうかもね」
「呼ばれるぞ、間違いなく」
グレイムは立ち上がり、軽く頷く。
「今日からお前らは、“信頼された剣”だ。……少なくとも俺には、そう見えた」
静かな称賛だった。
三人は顔を見合わせるでもなく、各々の剣を背負い直した。
「……またすぐに依頼が来るぞ。異常個体は、一体じゃ済まねぇ」
その言葉に、レオンが一つだけ答える。
「構わない。必要とされるなら──剣を振るうだけだ」
夜風が窓を揺らした。
闘いは終わった。しかし、物語は、まだ始まったばかりだった。




