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名もなき剣士11:それぞれの理由

夜のリグナ=バストは、日中の喧噪が嘘のように静まり返っていた。


ギルド裏の石畳に腰を下ろし、三人は焚き火を囲んでいた。

依頼帰りの疲労と、程よい沈黙が心地よい。


ライナがふと、薪を突きながら口を開いた。


「ねえ、レオンとカイルってさ。昔からの知り合いなんでしょ?」

「……騎士団訓練所時代に、一緒だった」


レオンが短く答える。

隣でカイルが無言で頷いた。


「へえー……ってことは、二人とも騎士になる道もあったわけだよね?

 ……なんで、ならなかったの?」


その問いに、しばしの沈黙が落ちた。



「……俺は」


カイルがぽつりと呟く。

火の粉がパチリと弾ける音だけが響く。


「剣は、命令のために振るうもんじゃない。そう思っただけだ」

「ふうん……かっこいいこと言うじゃん」


ライナが笑ったが、どこか虚勢が混じっていた。


「……アタシはね、ちょっと前に騎士団の補助訓練枠にいたの。

 正式な枠じゃないけど、頑張ってた。でも──」


火の明かりが、ライナの目元を揺らした。


「種族が“混じってる”ってだけで、追い出されたよ。理由も何も、関係なかった」


一拍置いて、肩をすくめて笑う。


「……ま、今は冒険者だし? いいんだけどさー。

 振るいたくても振れなかった剣を、ようやく使えてるし」


しばらく沈黙が続く。


レオンが、静かに口を開いた。


「……理由がどうあれ、今ここにいて、剣を握っている。それだけで十分だ」


カイルが小さく頷く。

ライナも、少し目を細めて火を見つめた。


「……なんか変な感じ!アタシたち、まだ出会ってそんなに経ってないのにさ、……前から一緒だったみたいな、そんな気がする」


誰も否定しなかった。

焚き火の光が、三人の輪郭をぼんやりと照らしていた。


「……過去より、今を見ろ。剣は、前しか斬れない」


カイルの言葉に、誰もが黙って頷いた。


そして、レオンは焚き火の火を見つめながら思った。

──誰もが、何かを抱えて剣を握っている。

それが、言葉にできないものだったとしても。

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