名もなき剣士11:それぞれの理由
夜のリグナ=バストは、日中の喧噪が嘘のように静まり返っていた。
ギルド裏の石畳に腰を下ろし、三人は焚き火を囲んでいた。
依頼帰りの疲労と、程よい沈黙が心地よい。
ライナがふと、薪を突きながら口を開いた。
「ねえ、レオンとカイルってさ。昔からの知り合いなんでしょ?」
「……騎士団訓練所時代に、一緒だった」
レオンが短く答える。
隣でカイルが無言で頷いた。
「へえー……ってことは、二人とも騎士になる道もあったわけだよね?
……なんで、ならなかったの?」
その問いに、しばしの沈黙が落ちた。
★
「……俺は」
カイルがぽつりと呟く。
火の粉がパチリと弾ける音だけが響く。
「剣は、命令のために振るうもんじゃない。そう思っただけだ」
「ふうん……かっこいいこと言うじゃん」
ライナが笑ったが、どこか虚勢が混じっていた。
「……アタシはね、ちょっと前に騎士団の補助訓練枠にいたの。
正式な枠じゃないけど、頑張ってた。でも──」
火の明かりが、ライナの目元を揺らした。
「種族が“混じってる”ってだけで、追い出されたよ。理由も何も、関係なかった」
一拍置いて、肩をすくめて笑う。
「……ま、今は冒険者だし? いいんだけどさー。
振るいたくても振れなかった剣を、ようやく使えてるし」
しばらく沈黙が続く。
レオンが、静かに口を開いた。
「……理由がどうあれ、今ここにいて、剣を握っている。それだけで十分だ」
カイルが小さく頷く。
ライナも、少し目を細めて火を見つめた。
「……なんか変な感じ!アタシたち、まだ出会ってそんなに経ってないのにさ、……前から一緒だったみたいな、そんな気がする」
誰も否定しなかった。
焚き火の光が、三人の輪郭をぼんやりと照らしていた。
「……過去より、今を見ろ。剣は、前しか斬れない」
カイルの言葉に、誰もが黙って頷いた。
そして、レオンは焚き火の火を見つめながら思った。
──誰もが、何かを抱えて剣を握っている。
それが、言葉にできないものだったとしても。




