名もなき剣士10:信じた一歩
翌日──
西方の小丘で、再び調査依頼を受けた三人は慎重に歩を進めていた。
獣の痕跡は少なく、風だけが乾いた草を揺らしていた。
(昨日の感じだと、また連携ミスるかも……)
ライナは内心、不安を拭えずにいた。
──いざ、交戦が始まると、どうしても息が乱れる。
レオンとカイルは、いつだって冷静で、無駄のない動きで敵を制していた。
それに比べて自分は……。
(違う)
ライナは、自分の呼吸を整えながら、ふと昨日のことを思い出す。
(グレイムが言ってた。「技術も気迫もある」って……!)
(あたしは、できる。だからこの場にいるんだ!)
一瞬の迷いが晴れる。
「レオン、カイル!右から回る!」
叫ぶように声を飛ばすと、二人はほぼ同時に頷いた。
「合図は短く。『右』『受ける』『割る』の三語で行く」
「了解。アタシは“跳ぶ”を言う」
「俺は“受ける”の発声を最優先。被せるな」
交戦。
「右!」
カイルが“受ける”を即答、レオンが“割る”で角度を宣言。
ずれない。刃筋が噛み合い、踏み込みの呼吸が揃う。
カイルの剣が突進を受け止め、レオンが斬り込み、ライナが真横から跳躍した。
完璧ではない。
けれど、その一瞬は、確かに“信頼”があった。
その一歩を、三人は確かに掴み始めていた。
誰かと剣を交えることの意味を、三人はようやく“手応え”として感じ始めていた。
残りの魔獣も、三人の連携であっという間に討伐された。
沈黙の中、ライナが息を切らしながら笑った。
「……今度は、信じた。だから、動けた!」
レオンとカイルが、ちらりと視線を交わす。
どちらからともなく、小さく頷く。
(……気にしすぎてた、のかも。)
レオンとカイルの無言の頷きだけで、なぜか、そう思えた。
不器用なだけ。口に出すのが下手なだけ。
(……それでも、ちゃんと信じてくれてたんだ)
それだけで、十分だった。
★
帰路、しばらく三人の間に沈黙が続いていたが──
ぽつりと、ライナが呟いた。
「なーんか、ちょっとだけ連携よくなってきた気がしたなー」
ライナの問いに、カイルが少しだけ間を置いて頷き、答えた。
「……悪くなかった。踏み込みも、捌きも」
視線は外したままだが、確かにライナに向けて言っている。
「え……」
「初手から、あの動きができるなら十分だ」
少し遅れて、レオンも答える。
ライナの顔に、ようやく安堵の笑みが浮かんだ。
「よーし、じゃあ次はあたしの得意な地形の依頼、選んでいい?」
レオンとカイルが、同時に顔をしかめた。
「「却下」」
「なんでだよー!」
レオンとカイルの無慈悲な即答に、ライナはむくれた顔で唇を尖らせた。
それでも、どこか楽しげに笑っているように見えた。
三人の足音が、リグナ=バストへと続く道に、心地よく響いていた。




