名もなき剣士8:三者三様
リグナ=バストの朝は、いつもどこか騒がしい。
依頼掲示板の前では、新人冒険者が押し合いへし合いしている。
その喧噪をよそに、レオン、カイル、ライナの三人は少し離れたテーブルに並んでいた。
「で、今日の依頼だけど……」
ライナがちらりとレオンとカイルを見る。
「昨日言ってた、“三人で行く”って話、アレ正式ってことでいいんだよね?」
「……問題ない」
「俺も異存はない」
「やったーっ!」
ライナが拳を小さく振り上げた。
★
「──どんな依頼にするか、性格でるよねぇ」
しばらく依頼を眺めていたライナが呟く。
レオンは黙って討伐系の依頼を見ている。カイルは警備任務や調査依頼に目を通していた。
「あ、これとかどう? 報酬もそこそこだし」
『調査依頼:西方の旧街道沿いに出没した魔獣群の情報収集』
『推奨ランク:B級以上。討伐の場合は三名以上を推奨』
『備考:地域一帯で家畜の被害多数。拠点近くに魔力反応あり』
「……いいだろう」
「やるか」
レオンとカイルがそれぞれ答える。
「じゃ、決まりってことで! 三人で初任務、張り切っていこー!」
三人の意見は、静かにまとまっていった。
★
掲示板の前では、ひそひそと話す声が聞こえてくる。
「最近昇格した“剣のやべーやつ”だろ? 魔力ゼロって噂の……」
「隣の女の子も、なんか強いらしい。崖の上から飛んでたって……」
「銀髪のやつ、知ってる!たしか、Aランクのソロ専門だったはずだ」
「へえ、そんな奴がパーティに? こりゃ面白くなってきたな」
レオンは噂の的になっていることに気づかないまま、淡々と依頼の受付を済ませる。
「行くぞ」
「りょーかい!」
「了解」
三者三様の答えが、同じ方向へ向かっていた。




