名もなき剣士7:再会
朝のギルドは、まだ活気づく前の静けさに包まれていた。
レオンは無言で掲示板を眺めていた。数枚の依頼書が新しく貼り出されている。
ふと、背後から微かな足音が近づいてくる。
「レオン、久しいな」
その声に、レオンはゆっくりと振り返った。
黒革の装備に身を包み、銀の長髪を後ろでまとめた青年──カイル=ヴァンハルトが立っていた。
「……カイルか。まさか、ここで会うとは」
「俺もだ。お前——随分、変わったな」
「変わったよ。剣のために」
短いやり取り。それだけで、再会の距離は埋まった。
カイルの視線が、掲示板の一枚に留まる。
「その依頼受けるのか?」
「……ああ」
「なら、俺も行く」
レオンは一瞬、目を見開き──そしてすぐに、静かに頷いた。
★
「おっはよー! 二人とも早いね!」
快活な声が響き、ライナが駆け寄ってくる。
「今日の依頼、もう決めた? あ、そうだ! アタシとしては──」
「……」
「昨日のアレ、すっごい息合ってたじゃん? だから、そろそろ組んでも……」
「レオンは、俺と行く」
カイルが、何気ない口調で言い切る。
「……え? ちょ、ちょっと待ってよ!?
わたし、昨日“次も一緒に”って誘おうとしてたのに!
これじゃ、なんかアタシが出遅れたみたいじゃん!」
レオンが淡々と口を開いた。
「明日の依頼は、三人で、行けばいい」
ライナは一瞬きょとんとしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。
「……うんっ! よっしゃ、決まり!」
★
その日の午後、ギルド裏の訓練場にて──
木剣が交差する音だけが、静寂の中に響いていた。
レオンとカイルが、言葉もなく剣を交える。
踏み込み、受け、流し、斬り込む。
その動きは、まるで互いの思考を読んでいるかのように滑らかだった。
「やっぱり……息合ってるね、あのふたり」
訓練場の柵にもたれながら、ライナが呟く。
カイルの剣の構えを見た瞬間、レオンは思い出した。
あの日、騎士団訓練所で互いに名乗ることもなく剣を交えた時のことを。
言葉はいらなかった。剣が語っていた。
──打ち合いの末、レオンの剣がカイルの首元で静止した。
一拍、二拍──カイルが口元だけで笑う。
「お前、やっぱ強くなってるな」
「……お前もだ」
無言のまま剣を下ろし、二人は木剣を納めた。
その背に、夕陽が伸びていく。
「なんであたしだけ見てる側なんだろ……」
ライナのぼやきが、空に溶けていった。




