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名もなき剣士7:再会

朝のギルドは、まだ活気づく前の静けさに包まれていた。


レオンは無言で掲示板を眺めていた。数枚の依頼書が新しく貼り出されている。

ふと、背後から微かな足音が近づいてくる。


「レオン、久しいな」


その声に、レオンはゆっくりと振り返った。

黒革の装備に身を包み、銀の長髪を後ろでまとめた青年──カイル=ヴァンハルトが立っていた。


「……カイルか。まさか、ここで会うとは」

「俺もだ。お前——随分、変わったな」

「変わったよ。剣のために」


短いやり取り。それだけで、再会の距離は埋まった。

カイルの視線が、掲示板の一枚に留まる。


「その依頼受けるのか?」

「……ああ」

「なら、俺も行く」


レオンは一瞬、目を見開き──そしてすぐに、静かに頷いた。



「おっはよー! 二人とも早いね!」


快活な声が響き、ライナが駆け寄ってくる。


「今日の依頼、もう決めた? あ、そうだ! アタシとしては──」

「……」

「昨日のアレ、すっごい息合ってたじゃん? だから、そろそろ組んでも……」

「レオンは、俺と行く」


カイルが、何気ない口調で言い切る。


「……え? ちょ、ちょっと待ってよ!?

 わたし、昨日“次も一緒に”って誘おうとしてたのに!

 これじゃ、なんかアタシが出遅れたみたいじゃん!」


レオンが淡々と口を開いた。


「明日の依頼は、三人で、行けばいい」


ライナは一瞬きょとんとしたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。


「……うんっ! よっしゃ、決まり!」



その日の午後、ギルド裏の訓練場にて──


木剣が交差する音だけが、静寂の中に響いていた。


レオンとカイルが、言葉もなく剣を交える。

踏み込み、受け、流し、斬り込む。

その動きは、まるで互いの思考を読んでいるかのように滑らかだった。


「やっぱり……息合ってるね、あのふたり」


訓練場の柵にもたれながら、ライナが呟く。


カイルの剣の構えを見た瞬間、レオンは思い出した。

あの日、騎士団訓練所で互いに名乗ることもなく剣を交えた時のことを。


言葉はいらなかった。剣が語っていた。


──打ち合いの末、レオンの剣がカイルの首元で静止した。

一拍、二拍──カイルが口元だけで笑う。


「お前、やっぱ強くなってるな」


「……お前もだ」


無言のまま剣を下ろし、二人は木剣を納めた。


その背に、夕陽が伸びていく。


「なんであたしだけ見てる側なんだろ……」


ライナのぼやきが、空に溶けていった。

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