表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/62

名もなき剣士6:昇格の知らせ

ギルドの扉を押し開けた瞬間、ざわついた空気がふたりを迎えた。

レオンとライナは無言のまま、受付カウンターへ向かう。


「えーと、依頼完了したよ!これ……討伐証明ね!」


ライナが差し出したのは、硬質化した黒の殻──クレクナスの魔殻の一部だった。

受付嬢は目を見開き、それを恐る恐る手に取る。


「こ、これ……クレクナスの魔殻!?異常個体ですよね?本当に、倒したんですか……?」


声が響いた瞬間、ギルド内の空気がさらに変わった。

近くにいた冒険者たちがざわつき、ヒソヒソとささやき合う声が聞こえてくる。


「前に助けられたんだけどさ、あの人、絶対元騎士だって」

「立ち姿とか、剣の動きが……ほら、構えがまさに騎士団の型だった」

「やっぱそうだよな。あんな無口で強いやつ、ただ者じゃない」


レオンは周囲の声に反応せず、静かにその場に立ち続ける。

ライナはドヤ顔になりかけたが、堪えて微笑を浮かべた。



「ふう、終わったねー」


任務報告を終えたふたりは、ギルドの待機席に腰掛ける。

ライナは椅子の背にもたれかかりながら、満足げに笑った。


「アタシたち、なかなかよかったと思うんだけど!」

「……悪くなかった」


レオンの一言に、ライナはさらに笑みを深めた。


「──あ、そうそう、レオン。アタシのこと、『ライナ』って呼んでくれてありがとね」


レオンが首を傾げると、ライナは苦笑いを浮かべた。


「みんな、アタシのことは『おい』とか『あの子』とか呼ぶから。

 名前で呼ばれるのって、久しぶりだったんだ」



「おーい、お前ら」


低く響く声とともに、ギルドマスターのグレイムが姿を見せた。

仮Bの認定時とは異なり、どこか柔らかい雰囲気が滲んでいる。


「奥でちょっと話そうぜ。報告の続きだ」


応接スペースに案内され、グレイムは資料に目を通しながら言った。


「クレクナス、あれは確かに異常個体だった。

 討伐できたって報告には、俺も正直驚いたが……証拠も揃ってる。間違いねぇ」


重々しく頷いたあと、彼はふたりを見据える。


「というわけで──正式に、Bランク昇格だ」


ライナが思わず声をあげる。


「ほんとに!? やったぁ!」


レオンは静かに頷くだけだったが、その目には確かな光が宿っていた。


「いいか、お前ら。ランクってのは、ただの数字じゃねぇ。

 実力と、信頼の証だ。忘れんなよ」


ふたりは無言で頷いた。グレイムは満足げに笑みを浮かべる。


「“剣は語らねぇ”って言うが……お前のは、確かに何かを見せてたぜ、レオン」



ギルドを出ようとするレオンの背に、静かな視線が注がれていた。

カウンター奥の片隅、静かに酒の入ったグラスを傾けていた青年がぽつりと呟く。


「……ああ。やっぱり、お前か」


レオンはそれに気づかないまま、ギルドを後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ