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名もなき剣士5:共闘の一閃

鉱山跡の奥、薄暗い坑道から現れたのは──異様な魔獣だった。


黒灰色の鱗に覆われた巨体。

その瞳は濁った赤で染まり、爛れた皮膚からは煙のような瘴気が立ち上っている。


「……これが、クレクナス?

 異常個体だけあって普通じゃない……!なんか、魔力の塊みたいな感じ……!」


地響きを立てて巨体が突進する。

ライナが蹴り、レオンが斬る──だが、その装甲は想定以上に硬い。


「全然効いてない……!」

「何か来るぞ、避けろ!!!」


咆哮が、空気を裂いた。

圧縮された魔力が爆ぜるように解き放たれ、坑道の壁が低くうなりを上げる。

響き渡る声に、周囲の魔物たちが恐怖に震え、音もなく散っていった。


「これ、マジで“異常個体”だって……!」


呼吸を整えたライナが、レオンの横に並ぶ。


「どうにかして隙をつくるしかないな」


策を練るレオンの横で、すっと真顔になったライナが、小さく問いかけた。


「ねぇ、レオン。今だけでいい、アタシのこと、信じてくれる?」


レオンは短くうなずいた。


「ライナの動きに合わせる」



クレクナスの突進をかわしながら、ライナが岩肌を駆け上がる。

右足に魔力を集中──「魔閃脚」──空中で軌道を変え、壁面を蹴って反転。


「跳躍角、良しッ!」


そのまま一気に背後へと回り込み、魔力を纏った脚で一撃目を叩き込む。


「連撃──跳槍ッ!」


鋭い脚撃が、背の軟甲部分に連続して突き刺さる。

その振動が、甲殻の下に隠れた魔核を揺さぶった。


「今ッ!」


ライナの声が響くと同時に、クレクナスが巨体をのけぞらせ、勢いよく前脚を振り下ろす。

斜め上から飛来する爪──その殺気と軌道を、レオンは一瞬で見切った。


踏み込むのではない。

あえて一歩引き、わずかに身をずらして死角へ潜る。


(……見えている)


右足に重心、刃をやや斜めに傾ける。

咆哮が空間を震わせる中、レオンの剣が疾風のように閃いた。


たった一閃。それだけで、すべてを断ち切る刃だった。


斬撃はクレクナスの胸部と背部の間、わずかな隙間を正確に貫き、魔核を直撃する。


ギィイイイィィィィ──ッ!!


苦悶の咆哮が坑道全体に響き渡った。

断末魔とともに、巨体がのけぞり、大きな音を立て岩の床を砕きながら崩れ落ちる。


砕けた鱗、舞い上がる砂塵。

そして──沈黙。


ライナは軽く息を吐きながら、跳ねるようにレオンの隣に着地した。


「ふぃー……やったね、レオン!」


わずかに乱れた呼吸の中、それでも彼女はにかっと笑った。


レオンは剣を納めながら、わずかに頷いた。


「……ライナ、よくやった。悪くない連携だった」

「でしょー? 信じてくれたら、アタシ、ちゃんとやるんだから!

 ……ていうか、レオンもやばかったよ。あの一撃、マジで痺れた!」


ライナは満足そうに肩を回すと、坑道の奥を一瞥してから言った。


「さーて、あとはギルドに戻って報告して──ランク、上げてもらわなきゃね?」

「帰るぞ。手続きも済ませる」


レオンの背に続きながら、ライナは上機嫌に笑った。

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