名もなき剣士4:共闘の予兆
北西にある旧鉱山地帯へと続く道は、乾いた風と岩肌の斜面が続く単調な景色だった。
レオンとライナは、ほとんど言葉も交わさずに足早に歩いていた。
「……っていうかさ。アンタ、名前くらい教えてよ」
歩きながら、ライナが隣をちらりと見やる。
「パーティ組んでるのに、名前知らないってどうなのさ。アタシはライナ=フェリルだよ」
「……レオン」
「名字ないの?」
「……レオン=グランヴェールだ」
「ふーん、レオンね。よろしく!」
それだけ言って、ライナは前を向いて笑った。
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「そういえば、レオンってどんな戦い方するの?」
「速さより重さ重視の前衛だ。武器は剣しか使わない」
「ふーん。あたしは脚技系。跳んで、蹴って、たまに魔力込めたりね!」
「魔術も使うのか?」
「主に感応系かな。気配読むのは得意だよ。
相手の“殺気”とかわかるタイプだし、罠とかも得意だよ!」
「……なるほど」
その会話は、どこか探り合いのようでもあり、確かに“連携”の下地を築きつつあった。
★
岩壁沿いの細道を抜けながら、ライナはひょいひょいと先へ進んでいく。
「足場、悪いねー……おっと!」
そのとき、レオンがぴたりと足を止めた。
視線は、岩陰の裂け目に向けられている。
「……待て。今、何か音がした」
数歩先にいたライナが振り返る。
「なに? 獣の気配は感じなかったけど……?」
レオンは答えずに周囲を見渡し、しばし沈黙する。
「……いや。まだ断定できないが──警戒はしておけ」
★
やがて、二人は鉱山跡の入り口へと辿り着いた。
崩れかけた坑道は、岩と土に覆われ、人工の構造がかろうじてわかる程度だった。
「前にも誰か来た痕跡がある。……でも、妙だな」
レオンが地面の足跡と斜面の擦り跡を確認する。
「感応展開っと」
ライナが目を閉じると、微細な魔力の“流れ”が視界に浮かぶ。
「……うわ。魔力の痕跡、濃すぎ。しかもこれ、普通じゃないよ」
「報告にあった通り、“異常個体”の気配がするな。今まで以上に周囲を警戒しよう」
その言葉と同時に、坑道の奥──
闇の向こうから、重く湿った息遣いのような音が聞こえてきた。




