名もなき剣士3:牙を隠した少女
ギルドの掲示板前に、人だかりができていた。
「また西方鉱山跡の調査依頼かよ。前回行ったやつ、やばかったって話だぜ?」
「今度は“調査”だけらしいけどな。報告書には“異常個体の可能性あり”って書いてあった」
人々が噂する中、レオンは無言で掲示板の前に立ち、一枚の依頼書目を止めた。
『目的地:西方鉱山跡の探索および調査』
『推奨ランク:B級以上。複数人推奨』
『備考:過去に“クレクナス”と名付けられた異常個体の生息域。
討伐成功例なし。接触時は無理を避け、即時撤退を推奨。』
レオンは依頼内容を一瞥し、紙を外して手に取る。
その様子を見ていたライナが、ひょいと身を乗り出してきた。
「その依頼、アタシも狙ってたんだけどさ……アンタ、一人で行くの?」
「……問題あるか?」
「いや、別に? ただ、B級ってのは“連携前提”の案件だからさ。
どーせなら一緒に行かない?」
「……俺にメリットは?」
「そりゃ、アタシが戦えるってことだよ! 強さは保証する」
レオンは小さくため息をついた。
「……好きにしろ」
「よっし、決まり!」
ライナは嬉しそうに拳を握りしめ、そのまま軽やかに受付へと駆けていく。
「──すみませーん! この人と組んで、依頼受けまーす!」
★
「……おい、無茶すんなよ」
低く渋い声に、ライナは足を止めた。
ギルドカウンターの奥、ギルドマスターのグレイムが腕を組んだまま目を細めている。
「べっつに無茶しねーっての。ちゃんとやるよ」
「……お前、昔から顔に出るタイプだし、すぐ無茶するからな。
仲間になるなら、ちゃんと相手と向き合え」
一瞬だけ、ライナの目が揺れる。
「……うっさいな。オヤジは黙って見てろっての」
★
こうして、名もなき剣士と、牙を隠した少女の共闘が始まった。




