幕間:剣を見た者たち1―ギルドマスター・グレイム=ロッシュ―
──なぜかは分からねぇが、あいつの剣を見て、懐かしさを覚えた。
戦いの最中、構えに無駄がなかった。
踏み込みも、打ち込みも、恐ろしく静かだった。
だがそれは、ただ静かなわけじゃねぇ。内に熱を抱えたまま、燃やし方を知らねぇ“本物の火”みてぇだった。
剣士の目だ。
自分の間合いと、相手の焦りと、時間の流れ──全部を読む、あの目。
……堅気の人間じゃねぇな。
初めてギルドの登録に来たってのに、場慣れしてやがった。
空気の読み方、歩き方、視線の置き方……どれを取っても“初心者”の動きじゃねぇ。
そして、魔力量ゼロ。
測定球に反応がないってのは、珍しいがたまにある。けど、あそこまで完全な無反応は初めてだった。
無導因体質──魔力の流れ自体が体内に存在しない。
魔術干渉を受けないという利点はあるが、回復や治療魔法すら効かないのはどうにもならん。騎士団や軍でも、“素体”としては評価されねぇ存在だ。
だが、俺は思う。
魔力がなければ、代わりに“鍛えるしかない”。
じゃなきゃ、あの精度の剣筋は生まれねぇ。
つまり──
「元騎士、か……?」
誰にともなく、そう呟いた。
もちろん、証拠はない。だが、直感は告げていた。
“あの剣は、教え込まれたものだ”と。
しかも──
一度や二度の修練じゃ、あの境地には辿り着けねぇ。
剣技の反復。命の場数。捨ててきたものの多さ、その積み重ね。
あの若さで、そこまで辿り着いたのなら──
何かを背負ってきたに違いねぇ。
——そういえば。
本部に回された一通の手紙があった。差出人は王都騎士団の補助要員を名乗る少年。宛先はリグナ=バスト冒険者ギルド本部、件名は「グランヴェール騎士の真の功績について、証言いたします」。
上官に退けられた報告、握りつぶされた証言……行間は粗いが、現場の温度があった。
(忙しさに紛れて、記憶の棚の奥にしまい込んでいたな。二月も経てば、まあそうなる)
“元騎士”という言葉で、引き出しが開いた。封を戻したとき、たしかに自分はこう書き付けたはずだ——登録は形式で済ませない。剣を見て決める、と。
★
「いい剣だったな」
俺は思わず、そう口に出していた。
誰もいねぇ部屋で、誰にも届かねぇ言葉を。
──剣は、言葉では語らなかった。
だが、あの一振りが、何より雄弁に語っていた。
仮Bと書かれた証明札──
あれが、ただの紙切れか。それとも、“剣”の価値を見抜いた証か。
俺はひとり、静かに笑った。




