剣は力を示す
「ゼクト。お前、相手してやれ」
ギルドマスターの一言に応じて前に出たのは、細身の青年だった。
長身痩躯。紺の軽装コートに細身の短杖。
整った顔立ちには皮肉めいた笑みが浮かんでおり、何よりその動きには迷いがなかった。
「はいはい……新人さんね。魔力もゼロ。面白いジョークだ」
ゼクト=ファロス。ギルド内でも知られた、技巧派のBランク冒険者。
風属性魔術と加速符を用いた、高速機動戦を得意とする実力者だった。
砂地の訓練場に移動すると、ギルドマスターが告げる。
「ルールは簡単だ。
三合までの小手調べ——詠唱阻止/至近の刃筋/体幹制御を見たい。
相手を戦闘不能にするか、戦意を削げば勝ち。殺すなよ」
同時に、試験区画の結界が展開された。
号砲代わりに木槌が打たれ、三合勝負が始まった。
ゼクトが短杖を下へ払う。空気が輪になって足首へ締まる——風の拘束。
光の輪はブーツの縁でほどけ、霧のように散った。
「……外れた?」ゼクトの眉が動く。
観覧していた受付の女性が小声で漏らす。「無導因体質、ですか——」
ギルドマスターが頷く。「ああ。術が掴みにくい体だ。力づくで拘束しても、芯が滑る」
二合目。ゼクトは間合いを取り、風弾を放つ。
——来る。
レオンの胸元へ一直線。魔力の芯が近づくほど、弾は形を失い、ただの風圧へ薄まっていく。
残った圧だけは刃でいなす。上体をわずかに沈め、刃の面を傾けて衝撃だけを脇へ滑らせる。砂が跳ねた。
(——まずは受けで測る。肘、足首、袖の張り。遅れはどこだ)
ゼクトが加速符で踏み込む。詠唱のリズムが半拍遅い。
レオンは半身に開き、相手の踏み込みを空へ外させ、切っ先だけで喉元へ“寸止め”。当てない。だが、届く線は見せる。
三合目。今度はレオンが先に動く。
一歩、肩口へ牽制の一閃。刃は触れない。入れば斬られる範囲(危険圏)を明確に線引きする。 ゼクトは追わない。足が止まる。木槌が再び鳴った。
短い沈黙。
「……降参だ」ゼクトが息を吐く。
「術がほどける相手は久しくない。……だが、風圧は消えないのか」
「芯は抜けるが、物理は残る」とギルドマスターが答える。
「そこを剣で処理している。見りゃわかるだろ」
グレイムが、口角を上げて笑う。
「魔力量ゼロ、戦闘スタイル不明、身体一つで……これが通ったら前代未聞だな」
彼は、少しだけ目を細める。
「……無導因体質、滅多にお目にかかれるもんじゃねぇな」
そして──
「……だが、文句はねぇ。仮Bに認定する」
そう言って、レオンにランク証を手渡した。
「いい剣だったぜ、坊主。お前さんの“目”、気に入った」
レオンは何も言わなかった。
ただ、証を受け取り、黙って一礼する。
その剣は、まだ多くを語らない。
だが──確かに、“力”を示した。




