焦土に立つ剣2:無言の剣が語るもの
──気がつけば、日はもう傾きかけていた。
風が止むと、焦土となった村はひどく静かだった。
ただ、焼け落ちた建物の骨組みと、崩れた井戸がひっそりと残っている。
あの日──母の手紙を携えた父が、王都から迎えに来た。
あの場所から連れ出された日のことを、レオンは今も忘れていない。
王都に移された彼を待っていたのは、義母と少し年の離れた異母兄だった。
父は多忙を理由に、屋敷にいることはほとんどなかった。
ただ一度だけ、「強くあれ」とだけ告げられたことがある。
レオンにとって、それが唯一、父からもらった言葉だった。
義母は厳しかった。
それは、容赦のないほどに。
食事の作法、立ち居振る舞い、言葉遣い。
少しでも乱れると、無言で視線を投げられた。
“お前はそれでも、グランヴェール家の者か”と、目が語っていた。
だが、それだけではない。
魔法が使えない子を、どうすれば守れるか──
義母は、言葉ではなく行動で示した。
義母は家庭教師を手配し、剣術・学問・礼節──あらゆる基礎をたたき込んだ。
朝から晩まで、学びと鍛錬。
遊ぶ暇など与えられず、幼心にはただ“罰”のように思えた。
当時のレオンは、ただ“嫌われている”としか感じられなかった。
異母兄は突然出来た弟という存在に驚きながらも、好意的に受け入れ、優しくしてくれた。
だから余計に、義母の冷たさは際立っていた。
今ならわかる。
彼女は彼女なりに、レオンを“守ろう”としていたのだ。
庶子として差別されないように。
誰からも非難されないように。
“グランヴェール家の名に恥じぬ”存在にするために──。
だからこそ、誰よりも厳しく接した。
情ではなく、規律によって。
それが、義母なりの“盾”だったのだ。
……だが、レオンはその想いを、言葉で聞いたことはなかった。
たぶん、今も彼女は、素直にそれを伝えることはないだろう。
風がまた、廃村の地を吹き抜けていく。
灰を巻き上げながら、過去の記憶も運んでいくかのように。
「……行こう」
レオンは背を向ける。
焦土と化した地に、もう未練はなかった。
だが、心には確かな想いが刻まれていた。
彼を“育ててくれた”者たちへの、言葉にならない感謝とともに。
──そして、もうひとつ。
共に過ごした“兄”の存在も、また彼の中で何かを占めていた。
(兄さん……元気にしているだろうか)
答えはない。だが、いつか向き合うことになるだろう。




