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プロローグ:沈黙の焦土に立ちて
冷たい風が、焦土をなぞる。
かつて小さな暮らしがあったその村は、今はただ、焼け焦げた木と崩れた井戸が残るだけだった。
灰が舞い上がり、静寂だけが、そこにあった。
ひとりの男が、瓦礫の中に立っていた。
潤色の髪を風に揺らし、黒の軽装鎧に剣を佩き、ただ静かに……空を見上げていた。
騎士ではない。
もはや、あの秩序ある組織には属していない。
だが剣は、今も彼の腰にある。
剣は、まだ語らない。
それでも彼は、歩き出す。
“戦う理由”を、
“共に在る者”を、
これから、見つけに行くために。
焦土の風が、彼の背を押した。




