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プロローグ:無垢なる剣と、囚われの祈り
沈黙の中に、揺るぎない意思があった。
誰にも知られず、誰にも語られず──
それでも剣は振るわれ、祈りは捧げられていた。
灰色の空の下、吐く息は白く、風は冷たく頬を撫でる。
血と鉄の匂いが漂う戦場の片隅で、
その背は、ただひとつの信念だけを支えに立ち続けていた。
己の価値を奪われた青年と、
使命という名に縛られた少女。
閉ざされた扉の向こうで、少女は光を抱きしめ、
遠い空の下で、青年はただ剣を握りしめる。
交わることすらなかったふたりの運命が、
星の導きによって、いま静かに動き始める。
これは、すべてを失った“騎士”と、
すべてを背負わされた“聖女”の、
祈りにも似た、再生の物語。




