その後
その後、コンラートは駆けつけた私の父と、ヴィルオルの父であるバーベンベルク公爵が率いる騎士達の手によって拘束された。
父はひと目でここの屋敷の邪悪さに気付いたようで、よく無事だったと私を優しく抱きしめる。さらによく頑張った、と声をかけてくれた。
その様子を見たバーベンベルク公爵は涙ぐんでいたのだった。
その後、父の指揮で調査が始まる。
コンラートが集めていた邪竜の武器はすべて押収され、王城の地下に封じられることとなった。
今度こそ大丈夫なのかと思ったものの、封印を解くためには真実の愛と正義の心を自ら捧げないといけないらしい。
邪竜を悪用しようと思う者が絶対に持たないであろう感情である。
どうして最初からこうしなかったのか、と思ったのだが、事情があったようで……。
邪竜の討伐後、事情をよく理解していなかった放蕩王子が新婚旅行をするさい世界各地に邪竜の武器を売り、旅費を稼いでいたようだ。
コンラートはその放蕩王子の新婚旅行記を読み、それが邪竜の武器であると読み取ったという。
彼が手足のように使っていた武器商人は、かつて母親が経営する商会だったという。
母親の死をきっかけに事業を引継ぎ、邪竜復活のために悪用していたようだ。
コンラートが病弱に見えたのは、邪竜を復活させるための魔法の使い過ぎで、常に魔力の枯渇状態だったらしい。
その魔力を補うために弱い立場にいる女性を攫い、自らの生きる糧としていたようだ。
幼なじみだったアマーリアだけは、手にかけずに傍に置いていたという。
彼女は早い段階でコンラートの異常性に気付き、遠ざかっていたようだ。
けれどもコンラートは彼女に執着し、ついには誘拐してしまった。
アマーリアを心配する振りをしながらも、彼女の自由を奪い、その人生までも思う通りにしようと画策していたわけである。
そんなアマーリアは無事救出され、現在は入院している。
体に異常はなく、危害も与えられていなかったようだが、暗い部屋に閉じ込められ、食事もまともに与えられていなかったこともあり、衰弱しているようだ。
しっかり療養すれば元気になるという。
アマーリアの婚約者であるブロイル卿は再会を喜び、涙していたという。
元気になったら結婚式を挙げよう、と誓い合っていたようだ。
他にも、コンラートが誘拐していた女性達が地下に閉じ込められていた。
途中、鍵がかかっている部屋に収容されていたようだ。
彼女らもケガはなく、元気な者は家に帰された。
その一方、多くの遺骨も発見された。
コンラートは二十人もの命を邪竜に捧げていたようだ。
すべて、行方不明者だった女性だという。
多くの人達を手にかけてでも、彼は自分の存在意義を主張したかったようだ。
なんでもコンラートは幼少時から、母親に虐げられていたという。
王族の血を引きながらその存在は認められず、役立たずだと罵られていたらしい。
彼は邪竜の力で玉座を奪い取り、自らが国王になることを目論んでいたようだ。
コンラートの罪は裁かれ、何かしらの報いを受けることだろう。
なくなってしまった命は戻ってこないが、身を以て罪を償ってほしい。
そう、願ったのだった。
◇◇◇
今日も今日とて、私は竜大好きクラブの活動のひとつである、竜の化石の発掘に勤しんでいた。
金槌と鏨を手に、岩を削って石を砕くという地道な作業を続ける。
今日も収穫はなかったが、それでも楽しい時間を過ごした。
発掘を終えたあとは、クラブ舎に戻ってレポートを書いていく。
「よし、これよし!」
ヴィルオルも穏やかな表情で頷いていたのだが、そのやりとりに物申す者がいた。
「よしじゃないよ!! なんだこのクラブ活動は!!」
叫んだのは体験入部をしにやってきたフローレスだった。
「あなた達、婚約したっていうのに、甘さなんか皆無で、楽しそうに石をコツコツ砕いて、何をやっているんだ!!」
「何って、竜の化石の発掘作業だが」
ヴィルオルもこくこく頷く。
「二人っきりのクラブだって言うものだから、もっといちゃいちゃしていると思っていたのに」
「まったく感じなかったのか?」
「ぜんっぜん!!」
一度目の人生ではお互いぴりついた関係で、二度目の人生でも友人関係だったのだ。
いくら両親が結婚を認めて婚約者同士になっても、すぐに甘い雰囲気にはならないのだろう。
「まあ、その辺はゆくゆく、だな、ヴィルオル」
「そうだな」
私はヴィルオルと仲よくなりたい、という望みを胸に生まれ変わったのだ。
それは日に日に叶っていて、きっとこれからさらに関係を深めることになるのだろう。
まだ手を握られただけでドキドキしてしまう、という状態である。
それ以上のことが起こったらどうなるのか。
想像もできない。
ただそれすらも、私にとっては喜ばしいことで――この先、邪竜が出現し、命を脅かされる心配もないので、新しい未来が開けたのだ。
これから先、私が、私達が歩み道は、輝きで溢れていることだろう。
何かあっても、ヴィルオルと一緒ならばきっと大丈夫。
乗り越えることができるだろう。
そう信じて止まなかった。