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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第三章 王都で起こる事件について

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失っていた記憶

 一度目の人生の、最期の出来事が甦ってくる。

 私はたしか、邪竜から受けた傷が原因で命を落とした。

 そう思っていたのだが――。


 あの日、突如として暗雲が王都を包み込み、神鳴りではない黒い雷撃が地上を襲った。

 自然災害ではない現象を前に恐怖し、身動きが取れなくなる。

 その不吉な現象で、王都の機能の三分の一が奪われた。

 国王陛下、王太子殿下をはじめとする王族の大半は命を落とすこととなった。

 奇しくもその頃、王都周辺では魔物の襲撃が相次ぎ、私は討伐に向かっていた。

 そのため、私は難を逃れることができたのだ。その日は朝から天候が悪く、全身に悪寒が走り、嫌な予感があった。

 すべて天気のせいだと決めつけていたのだが、まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかったわけである。

 王都が暗黒に包まれ、黒い炎が上がる様子は、郊外からもはっきり見えた。

 馬を駆って慌てて戻るも、城下町は人々の悲鳴と怒号が行き交い、助け合う心なんて皆無で――。

 助けようと叫ぶ騎士の声も、当然ながら届かない。

 聖職者達が人々の傷を治そうと回復術をかけるも、なぜか治癒効果は現れない。


「黒い雷撃によるケガは、回復術では治せないようだ!!」


 誰かの絶望するような叫びが耳に残る。

 そんな状況の中、暗雲は地上へ無慈悲な黒い雷撃を繰り返す。

 これは絶対に自然災害ではない。何かが上空から攻撃しているのだ。そう確信する。

 父が率いる妖精騎士隊が地上から魔法での障壁バリアを展開させるも、あっさりと貫かれているようだった。

 魔法による防御がまるで通じていない。絶望する。

 フローレスは!?

 安否を確認したい気持ちに駆られるも、そんなことをしている場合ではない。

 私は騎士だ。フローレスもわかっているはず。

 まずはこの現象をどうにかすることが先決である。

 地上からの魔法攻撃は有効とは思えなかった。

 接近戦を挑む他ない。そう判断し、魔法で足場を作ろうとしていたそのとき、背後から私に声をかける者が現れる。


「■■■■■、■■■■■■■■■■■■!」


 誰だったか、何を話したのか、そこの部分だけ思い出せない。

  私はその人物に対し、拒絶するような言葉を返していた気がする。

 危機的状況の中、なぜそのような会話をのんきにしていたのか。

 それさえもわからない。

 今はこの状況をどうにかしなくては。そう判断し、その人物と別れようとした次の瞬間、どん!! という強い衝撃を受ける。

 それまで話していた人物がぶつかってきたのだ。

 振り払ったあと、違和感を覚える。

 ぐらりと目眩を覚え、視界も真っ白になりかけた。

 たかが体当たりの一つで、このような状態になるのか。

 なんて思っていたら、腹部に違和感を覚える。

 確認すると、黒い刃のナイフが深く突き刺さっていたのだ。


「――――――!?」


 刺された!? そう思ったのと同時に、体が突き飛ばされる。

 同時に、その人物の影から巨大な暗黒色の竜が浮かび上がり、上空の暗雲をすべて吸い込んで具現化した。

 邪竜――!?

 有耶無耶だったそれの正体が明らかとなる。

 私を刺し、邪竜を従えるようにしていた人物は魔法を使ったのか、忽然こつぜんと姿を消した。

 刺された箇所からの出血が止まらず、立っていられることもままならない。

 命が脅かされるような状況だったが、そんな中でも邪竜は人々を蹂躙じゅうりんしている。

 ここで倒れるわけにはいかない。

 邪竜は上空を高く飛び、地上を、人々を蹂躙し始める。

 ナイフを引き抜き、火魔法を使って傷を塞いで止血すると、次なる行動に移す。

 魔法で階段のような足場を作り、縦横無尽に空を飛ぶ邪竜のあとを追った。

 腹部の傷がズキズキと痛みを訴えるも、街中には私よりも酷い傷を負って苦しむ人々の姿があった。これ以上、辛い思いをする者を増やしてはいけない。

 そう、自らを揮い立たせながら邪竜のあとを追った。

 ついに邪竜へ追いつく。

 全貌が今、明らかとなった。

 全身が暗黒色で、鋭い棘を全身に生やしたその姿は、禍々しいという言葉が形を成して生きているかのごとく。

 早く倒さなければならないとわかっているのに、一刻も早く逃げたほうがいい、と体がガンガンと警鐘を鳴らしているように思えた。


 逃げるなんてもってのほか、戦わなくては!! そう自らに言い聞かせながら剣を引き抜き、一撃を与える。

 渾身の一振りをお見舞いしたつもりだったが、邪竜の鱗は金属のように硬く、まったく手応えがなかった。

 二撃目は魔法を付与し、斬りつける。

 その攻撃は有効だったが、足場を作る魔法が追いつかずに落下する。

 急いで次なる足場を――と思っている私に腕を掴んで引き上げる者が現れた。

 白銀の竜に跨がり、やってきたヴィルオルだった。

 彼は何をしているんだ! と叱咤しながらも私を助けてくれた。


「国王陛下も、王太子殿下も亡くなった!! おまけに竜に似た姿で現れやがって、絶対に許さない!!」


 ヴィルオルの剣による攻撃もダメージを与えられていなかったものの、白銀竜の聖なるブレスを浴びせたあとの物理攻撃は有効だった。

 ただ、邪竜は地上にいる人々の命を奪って自らを回復させる、違背回復魔法アンチ・ヒールを使い、傷を治してしまうのだ。

 一刻も早く倒さなくては。

 そう判断した私達は、付与魔法とブレス攻撃、物理攻撃と続けざまに攻撃を繰り出し、なんとか邪竜に討ち勝つ。

 やった――! と喜んだのもつかの間のこと。

 王都は壊滅状態と言っていいような状況だった。

 父の部隊が放っていた魔法の援護射撃も途中からなくなっていたと思ったら、邪竜の違背回復魔法アンチ・ヒールの餌食になっていたようだ。

 そして私の実家があった場所も黒い炎に包まれていて、家族の生存は絶望的。

 勝利したのに、喜べるような状況ではなかったのだ。

 さらに、激しい動きによって止血していた傷が開き、下半身を真っ赤に染めるくらい出血していた。

 それに気付くと、全身の力が抜ける。

 ヴィルオルが初めて私の名を叫ぶ声を、他人ごとのように聞いていた。


「ユークリッド!! お前、いつの間にこんな傷を負っていたんだよ!? 邪竜の攻撃はすべてかわしていたじゃないか!!」


 邪竜と戦う前に負った傷だ、なんて言おうとしたのに、激しく咳き込んでしまい、吐血してしまう。


「おい、余計なことを喋るな! 待ってろ、聖教会に行って、治療を――」


 もう、いい。この傷は回復術でどうにかなるものではない。

 腹部の傷は、人々が邪竜に受けたものとよく似ていた。

 刺さっていたナイフは悍ましいくらいの暗黒色で、あれはきっと邪竜の棘でできたものだったのだろう、と思い出す。

 私の人生もこれまでなのだ、と悟ったのだった。


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