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男装を強いられ男として生きてきた公爵令嬢は、2回目の人生はドレスを着て、令嬢ライフを謳歌したい  作者: 江本マシメサ
第三章 王都で起こる事件について

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まさかの訪問者

 念のため山のように積み上がった本すべてに目を通したが、異常はなかった。


「しかし、なぜこの本だけ異常があるんだ?」

「それにこの本が比較的誰でも出入りできるようなクラブ舎に置いてあったのも、理解に苦しむ」


 何か重要な本であれば、バーベンベルク公爵家の屋敷内で保管していてもおかしくないだろうに。

 深刻な話をする中、バスケットの中での昼寝に飽きたリーベがゆったりとした動きで出てくる。

 クッキーに気付いて匂いをかぎにいくも、興味がなかったからかぷいっと顔を逸らしていた。

 あちこち歩き回った結果、窓から見える赤い実を生らす木が気になったようだ。


「ヴィルオル、あれは?」

「ホーソンだ」


 春に美しい花を咲かすようだが、魚が腐ったような酷い匂いがするようで、おまけに枝には棘があるという。


「侵入者避けに植えていたようだが、花のシーズンは窓を開けることができなくて、使用人には不評らしい」


 その一方、秋に熟す実は甘酸っぱいおいしそうな匂いがするようだが、味はないという。


「薬効が期待できるようで、うちの薬師が煎じて保管しているらしい」

「なるほど」


 リーベにおいしい物ではないと教えるも、聞く耳は持たず。


「食べたらわかるだろう」


 ヴィルオルは窓を開いてホーソンの実をちぎり、手巾で軽く拭いてからリーベへ差しだす。

 リーベはわくわくした様子で実にかじりつくも、思っていた味ではなかったからか、動きをぴたりと止めた。


「ほら、おいしくないだろうが」


 リーベはきちんと実を飲み込んだようだが、怒りがふつふつ沸いてきたようで、前足で床をバンバン叩きつける。

 もういらない! とばかりにホーソンの実を後ろ脚で蹴りつけていた。

 その実をヴィルオルは拾い上げ、窓から投げる。


「小動物が食うだろう」


 それか大地に深く根付いて、大きく成長してほしい。

 閑話休題、ひとまず本はすべて確認したので、バーベンベルク公爵家での用事は済んだ。


「すまない、ここまで来てもらったのに、なんの成果もなくて」

「気にするな。わからないことがわかったことだけでも、大きな一歩だろう」


 あとは父に手紙を書いて、始祖について教えてもらわなければならない。

 上手くいくのか心配ではあるが。


「このあとのことだが――」

「ん?」


 廊下からドタバタ賑やかな足音と、執事の焦るような声が聞こえた。


「ですから、ヴィルオル様のご友人がいらしており――」

「ならば挨拶をしようではないか!!」


 よく通る声がだんだん接近してくる。


「まさか!?」


 ヴィルオルも気付いたようで、途端に顔色を青くさせる。


「どうした?」

「父上だ! 父上が帰ってきた!」

「それは……」


 めったに家に帰らないと聞いていたのだが、まさかのご帰宅らしい。


「おい、窓から逃げるぞ!」

「ヴィルオル、落ち着け。ここは三階だ」

「骨は折れるかもしれないが、死にはしないだろう」


 それよりも、ホーソンの木を伝って下りたほうがいいのではないか、と思ったものの、逃げる案は却下したい。


「危険だ」

「だったら、どこかに隠れて――」

「ただいま帰ったぞ、我の愛息ヴィルオルよ!!」


 空気がびりびり震えそうなくらいの大声と共に、一人の人物が入ってくる。

 見上げるほどの巨躯きょくに、短く刈り込んだ髪、いかつい顔立ち――見間違えるはずもない、バーベンベルク公爵だった。

 こうしてお目にかかったのは、六歳のときに武闘大会で父との戦いを見たとき以来である。

 十二年も前とはいえ、父はこんなお方からよく勝利をもぎ取ったものだ、と思ってしまった。

 その後、双方の父が武闘大会に参加することなく、父は勝ち逃げ状態らしい。

 そんなことはさておき、まさかこうして顔を合わせてしまうなんて。


「愛息ヴィルオルよ、その背中に隠したご令嬢を我に見せてほしい」

「いや、彼女は――」


 私は上背があるので、隠しきれていないのだろう。 

 それに会ってしまった以上、何も言わずに帰ることができない。

 諦めて、バーベンベルク公爵に挨拶する。


「おお、なんという立派な体躯の娘なのだ!」


 女性にかける言葉ではないものの、体が大きなことには間違いはない。

 動揺をぐっと胸の奥底に隠しつつ、にっこり微笑みながら名乗った。


「初めてお目にかかります、私はリウドルフィング公爵の娘、ユークリッドと申します」

「なんと! リウドルフィング卿の娘子であったか!」


 怒られるかもしれない。奥歯をぎゅっと噛みしめつつ反応を待ったが――。


「よく来た! 褒めてつかわす!」


 はい? と聞き返しそうになるのをぐっと堪えた。

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