調査報告
フローレスは夕食を喫茶店で済ませたようなので、私はリーベと一緒に食堂へ向かった。
食堂にやってきた途端、リーベは寮母達に囲まれ、チヤホヤされる。
「まあまあ、リーベちゃん、今日もかわいいわねえ」
「毛並みがピカピカだわ」
「お顔もお姫様みたい」
リーベはまんざらでもない様子で褒め言葉を聞き入れたあと、寮母特製の野菜の盛り合わせを食べ始める。
寮母達の間で、リーベのファンクラブが発足されるのも時間の問題だな、と思ってしまった。
食事を終え、お風呂に入る。相変わらずフローレスの就寝時間は早いようで、すでに眠っているみたい。
灯りを落とそうかと手を伸ばした瞬間、窓からコツコツと控えめな音が聞こえてきた。
いったい何かを思って覗き込むと、そこには大きなミミズクがいて驚く。
首からバーベンベルク公爵家の家紋入りの封筒がかけられていた。
ホー! とひと鳴きしてから、手紙が取りやすいように首を低くする。
「もしや、伝書鳩ならぬ、伝書ミミズクなのか?」
そのとおり、と返事をするようにミミズクは再度ホー! と鳴いた。
手紙を受け取ると、ミミズクは飛んでいなくなる。
封筒の宛名には、ユークリッド・フォン・リウドルフィングへ、とあった。
間違いなく私宛だろう。
一連の物音でフローレスを起こしてしまったのではないか、と心配だったが、抗議の声は上がらなかった。
ホッとしつつ窓をそっと閉め、寝台に座って差出人を確認する。
手紙の主は想像していたとおり、ヴィルオルだった。
何かあったのかと思って確かめたが、内容は騎士隊で聞いた行方不明事件について書かれたものだった。
ヴィルオルは運よく、アマーリアの婚約者と話をすることができたらしい。
なんでもアマーリアが姿を消したことは、彼女の実家が半月ほど隠していたという。
というのも、アマーリアの部屋に置き手紙が残されていたようで、そこに書かれていたのは〝好きな人ができたので、王都を離れます〟というもの。
ありえない、彼女が駆け落ちをするなんて。
しかしながら〝恋は思案のも外〟なんて古い言葉があるように、理性や常識があっても、覆されてしまうものなのかもしれない。
ただ、そうだとしても信じられない。あのアマーリアが駆け落ちをするなんて。
アマーリアの婚約者である、ヴィルオルの同期入隊した騎士も、同じように考えていたのだとか。
また、昨日目にしたアマーリアの捜査依頼について書かれた記事は、婚約者が自費で掲載するよう頼んだものだったらしい。
アマーリアの両親は発見を諦め、騎士隊にも通報していなかったようだ。
娘がいなくなったというのに、探そうとしなかったなんて、不審でしかない。
ヴィルオルも同様に感じたようだが、アマーリアの実家に何か事情があるのかもしれない、というのが話を聞いた印象だったという。
騎士隊での調査はごくごく最近始まったようだが、なんの証拠も掴めていないのが現状らしい。
もやもやが残る調査結果となってしまった。
◇◇◇
ついに、ヴィルオルの実家であるバーベンベルク公爵家のタウンハウスにお邪魔する日がやってきた。
まさか政敵一家のお屋敷にお邪魔するなんて、一度目の人生では考えられなかった行為だろう。
持参していたドレスの中でもっとも上等な一着を着て、化粧や髪結いも普段より丁寧に施す。
姿見で格好を確認していたら、背後から声がかかってギョッとする。
「ユークリッド、ずいぶんと気合いが入っているみたいだけれど」
「まあ、そうだな」
「クラブ活動をするだけなんだろう?」
「ああ」
「まるでデートにでも行くみたい」
「それは誤解だ」
デートではない、と強く否定しておく。
「帰りは遅くなるの?」
「わからないが、門限までには戻るだろう」
「そうしてもらわないと、私が寮母に問い詰められることになるから」
そんなフローレスの話を聞いて、門限だけは守るようにしよう、と心の中で誓った。
「楽しんできて」
「ああ、ありがとう」
リーベをバスケットに入れ、寮を出る。
校内にある城下町行きの馬車乗り場でヴィルオルと落ち合い、バーベンベルク公爵家の屋敷を目指す。
「リーベもわざわざ連れてきたのか?」
「そうなんだ。支度をしていたら、自分もリボンを巻くようにアピールしてきたから」
実家から持ってきていたリボンをリーベにあげたら気に入ったようで、事あるごとに結んでくれとやってくるのだ。
今日は私が身なりを整える様子を見て、リボンを咥えて持ってきたのである。
「持ち歩くのも大変だろうに」
「大丈夫だ、そこまで重たくないから」
暇を持て余しているようだったら、寮に送還してあげるつもりだ。
そんな会話をしているうちに、ヴィルオルの実家であるバーベンベルク公爵家に到着したのだった。




