行方不明事件について
外出許可申請はヴィルオルがまとめてしてくれるという。
「次の休日でいいか? 用事があるのならば、別の日でも構わないが」
「いいや、その日で問題ない」
「では、放課後にでも申請しておこう」
私達がそんな話をしている間に、リーベは男子寮の料理人が作ってくれた野菜の盛り合わせを平らげ、満足げな様子でいた。手足をぴんと伸ばし、ぽんぽこりんになったお腹を晒した状態で眠り始める。
「こいつ、よく今まで野生で生きてこられたな」
「たまに、お腹を上にして眠っているときもある」
「油断しまくりじゃないか」
このかわいい寝姿も、私にとっては癒やしとなっているのだ。
「それはそうと、なんだ、昨日、深刻な顔をして、何を考えていたんだ」
「昨日?」
「放課後、お前を教室まで迎えにいったとき、廊下から何度も呼んでいたのに、まったく気付かなかっただろうが」
「ああ、そのことか」
ヴィルオルはクラブ活動のあと聞くつもりだったようだが、二階にあった本の騒動があっために言い出せずに終わってしまったと打ち明けた。
「何か深刻な問題でも起きたのか?」
なんでもない、と言ってもきっと納得しないだろう。
彼も騎士隊関係者なので、何か知っているかもしれない。そう思って相談してみる。
「実は、花嫁準備学校時代のクラスメイトが、行方不明になっているのを、新聞の記事で知ったんだ」
「また、行方不明者がでたのか?」
「また、とは?」
「先月も、二十歳に満たない女性がいなくなったという騒動が、二人も出ている」
「なっ――!」
新聞は毎日読んでいるつもりだったが、まさか先月も似たような事件があったなんて。
この事件についての管轄は妖精騎士隊でも、竜騎士隊ではなく、一般の騎士が取り扱っている事件だったらしい。
そのため、ヴィルオルも事件についてそこまで詳しいわけではないという。
「毎月、行方不明者はそこそこの数が出ているようだが、捜査依頼があるのはほんの一部らしい」
結婚間近の女性は家族のほとんどが血眼になって探す場合が多いので、問題が大きく取り扱われることが多いという。
十何年とかけて手塩にかけた娘がいなくなっては、親もいろいろと困るのだろう。
「年若い娘が行方不明者になることの半数は、駆け落ちや独立するために逃げたパターンもあるようだ。ただ、あそこまで思い悩んでいたということは、そういうことをするような者ではなかったのだろう?」
「ああ、そうなんだ」
仮に、アマーリアが婚約者と結婚するよりも何かしたいことがあるのならば、周囲を納得させるまで話し合うはず。
自分勝手な判断でいなくなるような娘ではないことはたしかなのだ。
「その行方不明になったクラスメイトと、コンラートが幼なじみで、彼も酷く思い詰めていたみたいで」
「コンラート?」
「クラスメイトの、コンラート・フォン・ケルントンだ」
「ああ、伯爵家の……。いやしかし、ケルントン伯爵に息子はいなかったと思うのだが?」
「その辺はいろいろ事情があるのだろう」
あまり触れないでやってほしい。
うちやヴィルオルの両親のように、円満な家庭ばかりではないのだから。
「それで、そのコンラートがクラスメイトを探すために、外出許可申請をしたのだが、断られてしまう場面を見てしまって」
「素人が行方不明者を探すなど、無謀としか言いようがないだろう。騎士隊に任せておけばいいのに」
「その通りの話なんだが」
私も家族が行方不明になったら、無謀だとわかりつつも探しにいってしまうだろう。
アマーリアのことだって、どこか友人の家などにいるのではないか、と聞いて回りたくなる気持ちはある。
「それで、行方不明になったのはどこの誰なんだ?」
「アマーリア・フォン・ジーベルといって」
「ジーベル家のご令嬢、アマーリアだと!?」
「ああ、知り合いか?」
「知人の婚約者だ」
同期入隊した騎士の婚約者でそこまで親しかったわけではないが、顔を合わせるたびに婚約者の自慢をしていたという。
「まさか、そんなことになっていたとは……」
ヴィルオルはアマーリアに会ったことはないようだが、何度も話に聞いていた人物だったので、衝撃を受けたようだ。
「話を聞くたびに、仲がいいなと思っていたのだが」
「私もだ」
アマーリアはきっとどこかで事故に遭ったか、誰かに連れ出されたか、何か原因があって姿を消したに違いない。
「もしかしたら、同じ年代の女性が次々といなくなるのは、何か関連性があるのかもしれない」
ヴィルオルは今日の夜、騎士隊への出向予定があるようなので、調べてきてくれるという。
アマーリアの婚約者である、同期入隊した騎士にも話を聞きたいところだが、都合よく会えるかはわからないようだ。
「忙しい部隊にいるからな」
「そうか」
ひとまず、事件の調査についてはヴィルオルに任せておこう。




